αの末裔

ぱんぶどう

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プロローグ

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男は彷徨っていた。
もう父と母の家には帰れない。
帰ることなどできない。この土地にいる事もできない。
ここを出よう。ここで暮らすなどきっと耐える事はできない。父母の土地を離れてここではないどこかに行こう。

夢か、幻か。混乱した思考の中で男にひとつの声が臨んだ。
どこへ行こうというのだ。
「知りません。知ったことではないでしょう。私の勝手です。」
行くあてはあるのか。
「知りません。しかしここに留まる事はできない。」
お前の弟はどこにいるのか。
「知りません。私は弟の番人でしょうか。」
何ということをしたのだ。
「何ということを?」男は激昂した。
「私が何をしたというのですか!?私はただ働いて、生きて生活を営んでいた。なのに何故?何故弟のみが愛されたのですか?あなたがそんな自分勝手な事さえしなければ、私は!私は…」
少しの沈黙の後、再び声があった。
もう一度問おう。お前の弟はどこにいるのか。
「知りません。」
ならば何故、お前は涙を流しているのか。
男は膝から崩れ落ち、頭を地面に擦り付けた。
もうここにはいられない。弟を殺して埋めた自分は。ましてその責任を誰かに押し付けようとしたどこまでも愚かなる自分は。罪深き1人の人間は彷徨うほか道は無い。いや、その道すらあるのか分からない。出口のない袋小路なのではないだろうか。私はどこにも行けないのではないだろうか。
裁きか。これが我が罪に対する裁きか。
男は泣き叫び天を仰いだ。
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