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敗北者
僕と契約して復讐者になってよ!
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淡い夢から目が覚めて。白き瞬きは泡沫に消えて。
純白のシーツに滴る一粒の涙のように。黒く、広く、凌辱してゆく。
「───勇者の座は渡さない。余り調子に乗るなよ、小僧」
笑う。笑う。ニヤリと笑う。深淵を思わせる漆黒の瞳に、失意に宿る偽善の炎を携えて。
狂気はやがて芽吹き、その花弁はどこまでも赤い殺意に満ちている。
不思議な部屋の住人は言った。
「汝が求むる十年前の事件の真相。それはあのバゼットとか言う男が深く関わっている。──後はいわずもがな。そこまで言えば分かろうて?」
彼は迷わなかった。今まで八方美人で誰にでも優しく接してきた。残酷に、冷血に、狂人になりきれなかった。
だから死んだ。うつろいゆく人の感情に殺され、十年前も大切な人を亡くした。
「十年前の借り、数倍にして返そうか」
厭らしく、愉悦を噛み締めるかのように口角を上げる。
「復讐の始まりだ」
本物の絶望はここから始まる。
▼▲
「──何?勇者様が見つからないだと?......分かった俺が出よう...ほう、引きずられた後があるのか。頭の片隅に留めておこう」
▼▲
ひぐらしの鳴く声。雲がゆっくりと流れ、アリの行進は途絶えることなく、健気に咲く蒲公英は束の間の幸せを享受する。
延々と続く田園の風景に、ちらほら見える家。
そんな、どこにでもある田舎の風景だった。
「ふざけるなっ!!」
緑豊かで平和な風景に似合わぬ鋭い怒号。そして二の句を次ぐときにはその声には鼻声へと変わっていた。
「僕は......僕はっ、母さんの奴隷じゃないんだぞっ!!」
「馬鹿なこと言うもんじゃないよ!!誰があんたなんか使えない木偶の坊を生んであげたと思ってんのさ!!!」
口論は次第にヒートアップしてゆく。このままでは暴力沙汰は免れないだろう。......しかし、次にこの人物の母親とおぼしき人物が言い放つ言葉で、抗議の声は尻すぼみとなる。
「──いいのかい?あの娘の死体、もしかしたらうっかり手が滑って崖にでも投げちまうかも知れないねぇ」
「この......外道め.........!!!死した人間さえ愚弄するのか!?」
「何を馬鹿なことを。あんたが大人しく貴族様にあの娘を寄越さないからこうなったんだよ!まったく、素直に渡していりゃあ礼金まで出たってのに......」
嘲るように笑い、実の子供であるのにも関わらずゴミでも見るのような蔑んだ瞳で見つめる。
対して歯を食い縛り、目を真っ赤にして殺意さえ籠った視線で睨む少年。
「僕はっ、あなたを許さない!!いつか彼女と同じ苦しみを味あわせてやる!!」
そう吐き捨てると勢いよくドアを開け、外へ飛び出す少年。
「おっと危ない。大丈夫かい、少年───って、もう行っちゃったよ」
「ふん、ほっときな。あんな餓鬼一人で生きていけるほどこの世界は優しくできてやいない。野垂れ死ぬか、そのうちひょこひょこ帰ってくるよ」
少年と入れ替わるようにして入ってきた細身の男性。覇気のないその顔は、まるで全てを見通しているような不気味さがあった。
「まったく。好意にしてくれてるお客さんだからいいますけど、お子さんは大切にした方が良いですよ。将来の稼ぎ頭でもありますし、何より奥さんは旦那がいないんですから力仕事も大変ですし。はい、今月の薬です」
「余計なお世話どうも。そういえば最近魔王の動きが活発になってきたらしいじゃない。何か情報はないかしら?」
▼▲
『汝の願いをなんでもひとつ叶えてやろう。』
不思議な部屋の不思議な住人は問いかける。歌うような声色で、ベッドルームへ誘うような蠱惑的な声量で、叱りつけるような厳格な響きを乗せて。
「そうだな。じゃあ僕は──────」
そして、場面は最初に遡る。
純白のシーツに滴る一粒の涙のように。黒く、広く、凌辱してゆく。
「───勇者の座は渡さない。余り調子に乗るなよ、小僧」
笑う。笑う。ニヤリと笑う。深淵を思わせる漆黒の瞳に、失意に宿る偽善の炎を携えて。
狂気はやがて芽吹き、その花弁はどこまでも赤い殺意に満ちている。
不思議な部屋の住人は言った。
「汝が求むる十年前の事件の真相。それはあのバゼットとか言う男が深く関わっている。──後はいわずもがな。そこまで言えば分かろうて?」
彼は迷わなかった。今まで八方美人で誰にでも優しく接してきた。残酷に、冷血に、狂人になりきれなかった。
だから死んだ。うつろいゆく人の感情に殺され、十年前も大切な人を亡くした。
「十年前の借り、数倍にして返そうか」
厭らしく、愉悦を噛み締めるかのように口角を上げる。
「復讐の始まりだ」
本物の絶望はここから始まる。
▼▲
「──何?勇者様が見つからないだと?......分かった俺が出よう...ほう、引きずられた後があるのか。頭の片隅に留めておこう」
▼▲
ひぐらしの鳴く声。雲がゆっくりと流れ、アリの行進は途絶えることなく、健気に咲く蒲公英は束の間の幸せを享受する。
延々と続く田園の風景に、ちらほら見える家。
そんな、どこにでもある田舎の風景だった。
「ふざけるなっ!!」
緑豊かで平和な風景に似合わぬ鋭い怒号。そして二の句を次ぐときにはその声には鼻声へと変わっていた。
「僕は......僕はっ、母さんの奴隷じゃないんだぞっ!!」
「馬鹿なこと言うもんじゃないよ!!誰があんたなんか使えない木偶の坊を生んであげたと思ってんのさ!!!」
口論は次第にヒートアップしてゆく。このままでは暴力沙汰は免れないだろう。......しかし、次にこの人物の母親とおぼしき人物が言い放つ言葉で、抗議の声は尻すぼみとなる。
「──いいのかい?あの娘の死体、もしかしたらうっかり手が滑って崖にでも投げちまうかも知れないねぇ」
「この......外道め.........!!!死した人間さえ愚弄するのか!?」
「何を馬鹿なことを。あんたが大人しく貴族様にあの娘を寄越さないからこうなったんだよ!まったく、素直に渡していりゃあ礼金まで出たってのに......」
嘲るように笑い、実の子供であるのにも関わらずゴミでも見るのような蔑んだ瞳で見つめる。
対して歯を食い縛り、目を真っ赤にして殺意さえ籠った視線で睨む少年。
「僕はっ、あなたを許さない!!いつか彼女と同じ苦しみを味あわせてやる!!」
そう吐き捨てると勢いよくドアを開け、外へ飛び出す少年。
「おっと危ない。大丈夫かい、少年───って、もう行っちゃったよ」
「ふん、ほっときな。あんな餓鬼一人で生きていけるほどこの世界は優しくできてやいない。野垂れ死ぬか、そのうちひょこひょこ帰ってくるよ」
少年と入れ替わるようにして入ってきた細身の男性。覇気のないその顔は、まるで全てを見通しているような不気味さがあった。
「まったく。好意にしてくれてるお客さんだからいいますけど、お子さんは大切にした方が良いですよ。将来の稼ぎ頭でもありますし、何より奥さんは旦那がいないんですから力仕事も大変ですし。はい、今月の薬です」
「余計なお世話どうも。そういえば最近魔王の動きが活発になってきたらしいじゃない。何か情報はないかしら?」
▼▲
『汝の願いをなんでもひとつ叶えてやろう。』
不思議な部屋の不思議な住人は問いかける。歌うような声色で、ベッドルームへ誘うような蠱惑的な声量で、叱りつけるような厳格な響きを乗せて。
「そうだな。じゃあ僕は──────」
そして、場面は最初に遡る。
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