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第48話 カレンも迷惑系になる

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 クラスのみんながカレンの敵になり、彼女は教室から逃げ出した。
 瑠理に促されて素直に追いかけたのは、どうなっても俺がカレンの幼馴染みだからだ。

 廊下の先で、最上階のこのフロアから階段を上がる彼女が見えた。
 屋上へ向かったようだ。

 カレンが上がった階段を俺も上がる。
 屋上へ出る扉を開けると、彼女は柵の上に両手をのせて遠くを見ていた。

「カレン、大丈夫か?」
「……ぐすん」

「カレン……」
「健太ー。正直に答えて欲しいんだけど」

 カレンはこちらを見ずに俺に問いかけた。

「健太はさー、私のことは好きじゃないの?」
「好きだった。だけど、もう好きじゃないんだ」

「それって好きな人がいるんだよねー?」
「ああ」

「やっぱ、姫川だよねー、それ」
「ああ、菜乃だ」

 あれだけみんなの前で菜乃を大切だと言ったのだ。
 どんなに都合よく考えるカレンでも理解していた。
 俺がはっきり答えるのを確認すると、彼女は向こうを向いたまま「ふう」とため息をつく。

「もう、私のことは嫌いになったの?」
「……別に嫌いになってない。あのなあカレン……」

 誤解があるといけない。
 自分の気持ちを正確に伝えるため、一呼吸置く。

「ただの友達なら、これだけ色んなことをされれば嫌いになる。でも、呆れることばかりだけど、腹立つことばかりだけど、カレンを嫌いにはなってない」

「心のどっかでまだ私を好きなの?」
「違う。そうじゃない。好きとかそんなことじゃない! 俺たちは一緒に育ったんだ。だから大切な幼馴染みだと思ってる」

「ふーん」

 彼女は遠くを見たままで、表情は分からない。
 でも、ようやく俺の気持ちが伝わったようだった。

「健太……ごめん」
「え?」

「だからー、今までごめんて言ってんの!」
「大丈夫、もう気にしてない」

 カレンは空を見上げると「あーあ」と大きなため息をつく。

「失敗したなー、私」
「何が?」

「せっかく幼馴染みなのになー。誰よりも前を走ってたのになー。今はビリってことだよねー」
「……別にそういうのって競争じゃないからさ」

 彼女はめずらしく口を閉じると、こちらへ振り向き俺の目をしっかり見つめた。

「……じゃあ私、本気だすから」
「へ、本気?」

「私もVtuberになるよー」
「おまえなぁ。せっかく俺の気持ちを真面目に話したのに……。なんで、そうやってふざけるんだよ」

「冗談じゃないってー。ふざけてないよー。本気も本気。だって、このままじゃ引き下がれないしー」
「何言ってんだ! あんだけみんなに迷惑かけてよく言うよ!」

「事務所に所属したいんだー」
「ウチの事務所じゃブラック扱いになってるぞ。とても無理だろ」

「てらクロックに応募したよ。今度面接だってー」
「え? おまえ何を言って……」

 カレンの口から業界最王手のVtuber事務所、てらクロックの名前が出るとは……。
 待て、それよりも応募って言ったか!?
 Vtuberに応募ってこいつ何言ってんだ??

「知らないの? てらクロックー」
「知ってる。当然知ってるけど……。それマジか?」

「マジマジ、超マジ。てか健太の反応、超ウケるー」
「……マジか」

「そゆことで、付き添いヨロ!」
「はあ? 無理無理」

「ねー、お願い!」
「俺がほかの事務所に行くなんて、栗原専務がOK出す訳ないだろ!」

「だから、あの専務に聞いてって!」
「いや無理だって」

「聞いてくんないといろんなことバラすしー」
「ここに来てまた脅迫とか! だいたいカレンにとっても困ることになるぞ」

「ダメもとでいいから聞いてみてって!」

 カレンもしつこいな。
 そもそも彼女は、ウチの事務所のVtuberを誰が演じてるか知ってるんだぞ。
 俺がよその事務所へ付き添うなんて、栗原専務がOKする訳ない。
 
 ところがだ。
 仕方なしに栗原専務へ電話をすると、一瞬の沈黙の後に、優しい声で言われた。

『幼馴染みでしょ? それくらいしてあげなさい』

 ダメもとで電話したら俺の同行にOKが出たのだ。

 一体、栗原専務は何を考えてんだ?
 あっさりOKが出てしまった。
 ただし、俺の正体は隠すようにと言われた。

「どう?」
「……いいってさ」

 カレンの事務所面接は、間近に迫るテスト期間の初日だった。
 学校が早く終わるので午後は空いているが、俺は初日からテスト勉強ができないことになった。

 正直自分でも甘いと思う。
 教室でのカレンの態度はありえない。
 普通の友達なら絶交レベルだろう。
 でも彼女との関係を完全には絶てなかった。
 俺にとって幼馴染みとはそういうものなんだ。

 菜乃がなんて言うかな。


※大変すみませんが「青春ボカロカップ」の選考を考慮して、次話でいったんの完結とします。
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