41 / 49
第41話 彼女の嫉妬と証拠写真
しおりを挟む
日曜日に秋葉原のメイド喫茶へ行った俺は、猫メイド姿の瑠理、香織さん(栗原専務)、ネッ友と楽しく休日を過ごした。
そのときは、後が大変になるとは考えもせず……。
「秋葉原は楽しかった?」
「あ、うん」
「秋葉原は楽しかった?」
「そう……だね」
「秋葉原は楽しかった?」
「……」
翌日の月曜日、昼食時間に瑠理と屋上へ出ると、腰に手を当てた菜乃に問い詰められた。
「姫ちゃん、メイド喫茶に誘ったの私だから!」
「ええ知ってるわ。健太から聞いたもの。ただ私は、楽しかったかを聞いてるだけだから」
菜乃は俺をかばおうとした瑠理を黙らせた。
「だいたい、共通のネッ友との待ち合わせが、何でメイド喫茶なの? ネッ友がメイドを好きなの?? ねえ、ネッ友ってどんな人?」
「へ? ネッ友? に、人気者かな?」
「人気者? じゃあ、配信者ね! 面白い人?」
「配信者じゃないよ。別に面白い訳じゃ……」
「じゃあ、何で人気者なの? イケメンとか? 気になるわ。ねえ写真見せて!」
「あ、いや写真は……」
問い詰めてくる菜乃に、俺はタジタジとなった。
我がままの暴風みたいなカレンと幼少を過ごしたおかげで、多少のトラブルは平気なつもりでいた。
だが、菜乃の問い詰めにはなぜか対応できない。
たぶんこれが、惚れた弱みというヤツなんだろう。
「メイド喫茶だし、ちょき、撮ったでしょ?」
「ま、まあ……」
「見せて」
「……」
「見せて!!」
「こ、これです……」
俺は、観念して財布に入れてた、ちょきを見せる。
横で見てた瑠理がオデコに手を当てると「あーあ」と声を漏らした。
ちょきを受け取った菜乃が手を震わせる。
可愛い彼女の眉間が険しい。
な、菜乃が怖い。
誰か助けて。
「説明して」
「……こ、この手前にいるのがネッ友です」
「見れば分かります。説明して欲しいのはこの状況」
「ですよねー」
空気を変えようとふざけたが、菜乃に睨まれた。
ちょきに写っているのは、俺を中心に瑠理と栗原専務とネッ友。
女子3人は可愛い猫メイドの恰好をして、俺を笑顔で取り囲んでいる。
俺は同行した栗原姉妹が、店の給仕体験をしたんだと説明した。
「ネッ友ってメイドだったんだ!」
「……はい。この店のメイドです」
「何で黙ってたの!?」
「いや、聞かれなかったから」
「別に束縛したくないけど、相手が女子かどうかは大切なことだよ」
「はい……」
「隠しごとされた気分」
「す、すまん」
「許して欲しい?」
「お願いします」
それまでプリプリ怒っていた菜乃が、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「じゃあ今度、この店へ私も連れていくこと!」
「え?」
「行けば私もメイドの恰好ができるのよね?」
「た、たぶん大丈夫!」
「猫メイドでご主人様にお給仕できるのよね?」
「そ、そうだね」
それを聞いた瑠理が笑顔で近寄ってくる。
「じゃあ、姫ちゃんと一緒にメイドができるね!」
「それはダメ。瑠理ちゃんは昨日楽しんだでしょ! 今度は私の番。私だけが、ひとりだけで、健太とお給仕ごっこするんだから!」
「ずるい! 私はお姉ちゃんと一緒だったのに!」
「むしろそれが困るの! この写真の状況、絶対ヤバいじゃないの!」
俺が昨日の様子を思い出していると、菜乃がいつものように可愛らしく口を尖らす。
「瑠理ちゃんもネッ友の子も、幼い感じで普通にメイド服が似合ってる。これはいいの」
「やったー、美人の姫ちゃんに褒められた!」
瑠理が気を遣ったが、菜乃は口を尖らせたままだ。
「だけど、専務のこれは反則でしょ!」
「ああ……お姉ちゃんね。正直、私も思ったんだぁ」
確かに頬を赤らめた黒髪ロングのOL風美女が猫メイドとか、あまりにギャップ萌えが過ぎるかもしれない。
しかも、スカートとニーハイの間の絶対領域に妙な色気があって、なんだか非常にいやらしい。
こりゃ、常連客たちから殺意を抱かれる訳だ。
俺と瑠理は、嫉妬をさく裂させる菜乃をなだめたが、なかなか収まらずに相当骨が折れた。
そんな感じで、貴重な昼休みがつぶれた。
◇
「なあ瑠理。このゲームしながら打ち合わせもするのは無理じゃない?」
『そう? 健ちゃんがのんびり突っ立ってるから撃たれるんだよ。話しながらでも、キャラを常に動かせばいいんだよ? ねぇ、姫ちゃん?』
『え? 私は敵に突撃して今やられちゃったよ』
今度の3人コラボはゲーム配信になった。
そこまでは早かったが、候補に挙がった2つのゲームのどちらにするかで決めかねていた。
ひとつは菜乃の得意なリズムゲーム。
単純で視聴者に分かりやすく、ミスをすると逆にウケるので凄く盛り上がる。
盛り上がるのは確かだが、3人だとやりにくい。
そしてもうひとつが、今3人で試しにプレイしてる、瑠理の得意なバトロワゲームだ。
バトロワゲームは生き残りを競うアクションシューティング。
このゲームをしながら次の配信の打ち合わせをすることになり、パソコンの通話アプリで会話している。
だが打ち合わせは進んでいない。
全然まったく。
今プレイしてるのは、アペックスという銃で敵と撃ちあうバトロワゲーム。
立ち止まるとすぐ敵に撃たれるので、落ち着いて話ができない。
「撃たれてる! 撃たれてるって! 無理無理。こんなのしながら打ち合わせは無理だよ! これで、ややこしい話ができるの瑠理だけだから!」
『健ちゃんたらすぐギブアップする。ちょっと耐えてよ! 私は姫ちゃんを復活させてる最中だから』
『瑠理ちゃんごめん、2度も復活させてもらって』
「あ! ダウンした。瑠理起こして!」
『健ちゃんの根性なし。今行くから……あ、横から別のチームが! 姫ちゃん復活したでしょ、助けて!』
『当たって当たって当たってぇ! なんで私の弾は当たらないのよぉ。味方の背中なら簡単なのに!』
菜乃が問題発言をした直後に、瑠理もやられた。
菜乃もやられてゲームオーバー。
「味方の背中とか、菜乃は酷いこと言うなぁ。でも、このゲームは味方撃ちしてもノーダメージだからいいけど」
『健ちゃんも姫ちゃんも私も、プレイスタイルがバラバラよね。相性というか、チームワークが悪すぎるのかも』
『チームワークが悪すぎ? ……そうよ! そうだわ! 別にゲームで勝てなくていいじゃない!』
「え? 菜乃、それどういうこと?」
『姫ちゃん、リスナーって仲のいいVtuber同士が共闘して活躍するから喜ぶんでしょ?』
『私のナノンと健太のカルロスは敵対してるんだから、逆に同じチームで足を引っ張り合えば面白くない?』
菜乃が真逆の発想をして、一瞬の沈黙……。
「それだっ、菜乃!」
『いいねっ、姫ちゃん!』
『でしょ、でしょ! やったぁ。じゃあ、瑠理ちゃんから企画を専務に伝えてね!』
今度の3人コラボは、バトロワの配信に決定した。
そのときは、後が大変になるとは考えもせず……。
「秋葉原は楽しかった?」
「あ、うん」
「秋葉原は楽しかった?」
「そう……だね」
「秋葉原は楽しかった?」
「……」
翌日の月曜日、昼食時間に瑠理と屋上へ出ると、腰に手を当てた菜乃に問い詰められた。
「姫ちゃん、メイド喫茶に誘ったの私だから!」
「ええ知ってるわ。健太から聞いたもの。ただ私は、楽しかったかを聞いてるだけだから」
菜乃は俺をかばおうとした瑠理を黙らせた。
「だいたい、共通のネッ友との待ち合わせが、何でメイド喫茶なの? ネッ友がメイドを好きなの?? ねえ、ネッ友ってどんな人?」
「へ? ネッ友? に、人気者かな?」
「人気者? じゃあ、配信者ね! 面白い人?」
「配信者じゃないよ。別に面白い訳じゃ……」
「じゃあ、何で人気者なの? イケメンとか? 気になるわ。ねえ写真見せて!」
「あ、いや写真は……」
問い詰めてくる菜乃に、俺はタジタジとなった。
我がままの暴風みたいなカレンと幼少を過ごしたおかげで、多少のトラブルは平気なつもりでいた。
だが、菜乃の問い詰めにはなぜか対応できない。
たぶんこれが、惚れた弱みというヤツなんだろう。
「メイド喫茶だし、ちょき、撮ったでしょ?」
「ま、まあ……」
「見せて」
「……」
「見せて!!」
「こ、これです……」
俺は、観念して財布に入れてた、ちょきを見せる。
横で見てた瑠理がオデコに手を当てると「あーあ」と声を漏らした。
ちょきを受け取った菜乃が手を震わせる。
可愛い彼女の眉間が険しい。
な、菜乃が怖い。
誰か助けて。
「説明して」
「……こ、この手前にいるのがネッ友です」
「見れば分かります。説明して欲しいのはこの状況」
「ですよねー」
空気を変えようとふざけたが、菜乃に睨まれた。
ちょきに写っているのは、俺を中心に瑠理と栗原専務とネッ友。
女子3人は可愛い猫メイドの恰好をして、俺を笑顔で取り囲んでいる。
俺は同行した栗原姉妹が、店の給仕体験をしたんだと説明した。
「ネッ友ってメイドだったんだ!」
「……はい。この店のメイドです」
「何で黙ってたの!?」
「いや、聞かれなかったから」
「別に束縛したくないけど、相手が女子かどうかは大切なことだよ」
「はい……」
「隠しごとされた気分」
「す、すまん」
「許して欲しい?」
「お願いします」
それまでプリプリ怒っていた菜乃が、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「じゃあ今度、この店へ私も連れていくこと!」
「え?」
「行けば私もメイドの恰好ができるのよね?」
「た、たぶん大丈夫!」
「猫メイドでご主人様にお給仕できるのよね?」
「そ、そうだね」
それを聞いた瑠理が笑顔で近寄ってくる。
「じゃあ、姫ちゃんと一緒にメイドができるね!」
「それはダメ。瑠理ちゃんは昨日楽しんだでしょ! 今度は私の番。私だけが、ひとりだけで、健太とお給仕ごっこするんだから!」
「ずるい! 私はお姉ちゃんと一緒だったのに!」
「むしろそれが困るの! この写真の状況、絶対ヤバいじゃないの!」
俺が昨日の様子を思い出していると、菜乃がいつものように可愛らしく口を尖らす。
「瑠理ちゃんもネッ友の子も、幼い感じで普通にメイド服が似合ってる。これはいいの」
「やったー、美人の姫ちゃんに褒められた!」
瑠理が気を遣ったが、菜乃は口を尖らせたままだ。
「だけど、専務のこれは反則でしょ!」
「ああ……お姉ちゃんね。正直、私も思ったんだぁ」
確かに頬を赤らめた黒髪ロングのOL風美女が猫メイドとか、あまりにギャップ萌えが過ぎるかもしれない。
しかも、スカートとニーハイの間の絶対領域に妙な色気があって、なんだか非常にいやらしい。
こりゃ、常連客たちから殺意を抱かれる訳だ。
俺と瑠理は、嫉妬をさく裂させる菜乃をなだめたが、なかなか収まらずに相当骨が折れた。
そんな感じで、貴重な昼休みがつぶれた。
◇
「なあ瑠理。このゲームしながら打ち合わせもするのは無理じゃない?」
『そう? 健ちゃんがのんびり突っ立ってるから撃たれるんだよ。話しながらでも、キャラを常に動かせばいいんだよ? ねぇ、姫ちゃん?』
『え? 私は敵に突撃して今やられちゃったよ』
今度の3人コラボはゲーム配信になった。
そこまでは早かったが、候補に挙がった2つのゲームのどちらにするかで決めかねていた。
ひとつは菜乃の得意なリズムゲーム。
単純で視聴者に分かりやすく、ミスをすると逆にウケるので凄く盛り上がる。
盛り上がるのは確かだが、3人だとやりにくい。
そしてもうひとつが、今3人で試しにプレイしてる、瑠理の得意なバトロワゲームだ。
バトロワゲームは生き残りを競うアクションシューティング。
このゲームをしながら次の配信の打ち合わせをすることになり、パソコンの通話アプリで会話している。
だが打ち合わせは進んでいない。
全然まったく。
今プレイしてるのは、アペックスという銃で敵と撃ちあうバトロワゲーム。
立ち止まるとすぐ敵に撃たれるので、落ち着いて話ができない。
「撃たれてる! 撃たれてるって! 無理無理。こんなのしながら打ち合わせは無理だよ! これで、ややこしい話ができるの瑠理だけだから!」
『健ちゃんたらすぐギブアップする。ちょっと耐えてよ! 私は姫ちゃんを復活させてる最中だから』
『瑠理ちゃんごめん、2度も復活させてもらって』
「あ! ダウンした。瑠理起こして!」
『健ちゃんの根性なし。今行くから……あ、横から別のチームが! 姫ちゃん復活したでしょ、助けて!』
『当たって当たって当たってぇ! なんで私の弾は当たらないのよぉ。味方の背中なら簡単なのに!』
菜乃が問題発言をした直後に、瑠理もやられた。
菜乃もやられてゲームオーバー。
「味方の背中とか、菜乃は酷いこと言うなぁ。でも、このゲームは味方撃ちしてもノーダメージだからいいけど」
『健ちゃんも姫ちゃんも私も、プレイスタイルがバラバラよね。相性というか、チームワークが悪すぎるのかも』
『チームワークが悪すぎ? ……そうよ! そうだわ! 別にゲームで勝てなくていいじゃない!』
「え? 菜乃、それどういうこと?」
『姫ちゃん、リスナーって仲のいいVtuber同士が共闘して活躍するから喜ぶんでしょ?』
『私のナノンと健太のカルロスは敵対してるんだから、逆に同じチームで足を引っ張り合えば面白くない?』
菜乃が真逆の発想をして、一瞬の沈黙……。
「それだっ、菜乃!」
『いいねっ、姫ちゃん!』
『でしょ、でしょ! やったぁ。じゃあ、瑠理ちゃんから企画を専務に伝えてね!』
今度の3人コラボは、バトロワの配信に決定した。
1
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる