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第5話 彼女は女子高生Vtuber
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俺は今、学校一の美人、姫川菜乃の部屋にいる。
今日は家の人がいないのに、上がって欲しいと懇願されたからだ。
そしてこれから、彼女が問題の迷惑系Vtuberについて教えてくれるそうだが……。
「ねえ健太、どうかな?」
「ななな、菜乃! なんで、下着……」
彼女が制服を着替えたいというので待っていたら、部屋に入ってきた格好がピンクのキャミソールにスリムジーンズ!
「ち、違うって! これは見せキャミよ」
「あ、そうか。そりゃそうだな」
冷静にみれば、フリルがついてて生地が厚い。
全然下着じゃないな。
今日は家に彼女だけだって知って、思考がおかしくなってた。
菜乃はさっき校舎裏で告白したばかりで、まだ俺は付き合うって返事もしてないんだ。
いくらなんでもそんな展開ありえないか。
でも……ちょっと暴力的過ぎやしないか?
彼女の胸がかなり大きいと判明。
密着したキャミソールに着替えたせいで、胸の大きさがハッキリ分かる。
腰が細くスタイルがいいので、視線がいかないようにするのが大変だ。
「迷惑系Vtuberの話の前に、ちょっとやることがあるの。そこで少し見ててくれる?」
菜乃はそう言うとゲーミングチェアに座ってモニターに向かった。
俺は脇に置かれた椅子に座って、彼女の様子を見ることにする。
菜乃はパソコンの電源を入れて配信アプリを操作すると、こちらへ振り向いた。
「ごめん。もうちょっと横にずれててね」
「え? あ、うん」
動きを検知するカメラに映っちゃだめのようだ。
「もうすぐ始めるけど、絶対しゃべっちゃだめよ?」
まだ平気とは思ったが、念のため俺は声を出さずに大きく2回うなずいた。
画面に「ちょっと待ってね」というメッセージと天使のイラストの1枚絵が数分表示された後……。
◇◇◇
『みんなぁ、こんにちナノン! 聖天使ナノンの降臨よー!』
《キタッ、ナノン様ー》《待ったぞ》《天使ラブ!》
画面の右側には見たことのないVtuberキャラがいて、菜乃の表情に合わせて笑った。
やっぱり菜乃はVtuberだったのだ!
陽キャのカレンがアニメを小ばかにするのでクラスでは内緒にしてたけど、実は俺、結構Vtuberを見るのだ。
Vtuberは、アニメ調のキャラを分身として画面に表示させ、そこに音声をのせて視聴者を楽しませるネット配信者。
どうやら菜乃の分身である2Dキャラは、「聖天使ナノン」という名前らしい。
金髪ロングにゆったりとした白い布をまとい、真っ白な翼を生やした天使キャラのようだ。
『今日はお馴染みのこのゲームをやろうと思うの』
そう言ってプレイを始めたのは、ミミズのようなキャラを操作して相手を倒し、自分を長く成長させるゲーム。
『ナノンこのゲーム、チョー得意! えい、えい、おっと。あ、危ない! ひえー』
菜乃の操作は酷いもので、彼女のミミズは全然成長できずにすぐやられてしまった。
《安定のヘタ》《早杉》《いっそ清々しさすらある》
少しコメントが流れる。
結構悔しがった彼女は『よぉーし、もう1回』と再プレイするが、少し生き残ってすぐやられた。
見たところ菜乃は、お世辞にもゲームが美味いとはいえず、かなりのヘタクソである。
テクニックで楽しませるなら、視聴者を魅了するくらい上手くなきゃ面白くない。
当然菜乃の腕前ではテクニックなど微塵もない。
だが、逆に飛び切りヘタなので見てて面白いのだ。
『あれー、なんでか上手くいかないなぁ。ナノン、ちょっと自信あったのに。仕方ない、ここは天使の奇跡で! ねえみんな、ナノンを応援して!』
《まあがんばれ》《これ投げても関係なくね?》
《イヤイヤあえて俺投げるー》
『わあ! スパチャありがとうっ! えーと、何々? それ本気ですか、だとう? ま、まだ本気だしてないし! よーし、ナノン本気で頑張っちゃうよっ!』
《ナノン本気キターー!!》《むしろヘターに期待》
《期待しトラン》《ガンガレ》《やればできる子!》
コメント欄に金額の書かれた色枠が入った。
略してスパチャと呼ばれるご祝儀で、電子マネーを配信者へ渡して応援できる。
『さあ、気合入っちゃったよ! おりゃー。ああっ! ご、ごめん、なぜかまたやられた……』
《もどかしい》《金の力なし》《ナノンクオリティ》
えーと、菜乃のキャラは聖天使なんだよな……。
聞いたことないから、あんまり有名じゃないんだろうけど……。
今、この配信を見ている同時接続は1000か。
チャンネル登録者は32000人。
事務所に所属してるVにしては若干少ないか?
いや、現役の女子高生で時間もないし、配信期間も浅いだろうから、これでも相当凄い方だよな。
『はーい。今日もお疲れナノン! ナノンのスーパープレイはどうだった? 最後にスパチャをくれた、リスナーさんありがとね。次回も本気だすから見てね。ナノンでしたー』
◇◇◇
菜乃の配信は、どうやら無事終わったようだ。
彼女が椅子を回して嬉しそうに振り向く。
「い、いつもより緊張した……。どうだった?」
「凄いね! ちゃんとVtuberしてた」
「でしょ? まあ、事務所じゃ私が一番同接少ないんだけどね」
「でも、何かイキイキしてた気がする」
「そうなの! 違うキャラになれるのが魅力よ!」
そう話す菜乃の表情は輝いていた。
本当にこの仕事が楽しいんだと伝わってくる。
このまま笑顔の菜乃を見てたい気もするが、そろそろ本題にも入りたい。
「で、迷惑系Vtuberのことだけど……」
「ああ、そうだったわ。それはね、Vtuberとして健太に迷惑をかけるってことよ」
「いやまあ、それは何となく分かるけどそうじゃなくてさ。具体的に何をするの?」
「つまりね、Vtuberとして中村健太にフラれたことを配信するのよ」
ダメだろそれ!!
二重にやっちゃダメなヤツじゃないか!
まず、俺、中村健太がVtuber聖天使ナノンをフッたって、ネット回線通して全世界に広まっちまう!
あ、いや、同時接続1000で全世界は大げさか。
でもマジで俺、学校に行くのが嫌になる!
次に、聖天使ナノンに男の影がチラつくぞ!
たぶんだけど、女性Vtuberのファンなんて男がほとんどだろ?
そんな憧れの女性Vtuberに、彼氏とか好きな男とかご法度じゃないのか?
菜乃がムチャクチャ言うので俺が頭を抱えていると、彼女の携帯から着信を知らせるバイブ音が聞こえた。
「なんか電話かかってきてないか?」
「あ、本当だ。ちょっと待ってて……」
どうもVtuber事務所からの電話のようだ。
「ええ、ハイ、私です。え? ええええ!!??
き、きゃぁぁあああああーー!!!!」
大騒ぎした菜乃が、モニターに向き直って慌てて配信アプリを操作していたが……。
操作を終えた彼女はこちらを向くと、口をパクパクと動かして涙目になった。
「は、は、配信、切り忘れてた……」
「へ?」
「さっきの配信、切り忘れてたのよッ!」
「え? え? ええ!?」
は?
はぁああああッッーーーー!!??
※このお話はタイトル回収ではありません。
※現在のチャンネル登録者数
聖天使ナノン
登録者32000人
今日は家の人がいないのに、上がって欲しいと懇願されたからだ。
そしてこれから、彼女が問題の迷惑系Vtuberについて教えてくれるそうだが……。
「ねえ健太、どうかな?」
「ななな、菜乃! なんで、下着……」
彼女が制服を着替えたいというので待っていたら、部屋に入ってきた格好がピンクのキャミソールにスリムジーンズ!
「ち、違うって! これは見せキャミよ」
「あ、そうか。そりゃそうだな」
冷静にみれば、フリルがついてて生地が厚い。
全然下着じゃないな。
今日は家に彼女だけだって知って、思考がおかしくなってた。
菜乃はさっき校舎裏で告白したばかりで、まだ俺は付き合うって返事もしてないんだ。
いくらなんでもそんな展開ありえないか。
でも……ちょっと暴力的過ぎやしないか?
彼女の胸がかなり大きいと判明。
密着したキャミソールに着替えたせいで、胸の大きさがハッキリ分かる。
腰が細くスタイルがいいので、視線がいかないようにするのが大変だ。
「迷惑系Vtuberの話の前に、ちょっとやることがあるの。そこで少し見ててくれる?」
菜乃はそう言うとゲーミングチェアに座ってモニターに向かった。
俺は脇に置かれた椅子に座って、彼女の様子を見ることにする。
菜乃はパソコンの電源を入れて配信アプリを操作すると、こちらへ振り向いた。
「ごめん。もうちょっと横にずれててね」
「え? あ、うん」
動きを検知するカメラに映っちゃだめのようだ。
「もうすぐ始めるけど、絶対しゃべっちゃだめよ?」
まだ平気とは思ったが、念のため俺は声を出さずに大きく2回うなずいた。
画面に「ちょっと待ってね」というメッセージと天使のイラストの1枚絵が数分表示された後……。
◇◇◇
『みんなぁ、こんにちナノン! 聖天使ナノンの降臨よー!』
《キタッ、ナノン様ー》《待ったぞ》《天使ラブ!》
画面の右側には見たことのないVtuberキャラがいて、菜乃の表情に合わせて笑った。
やっぱり菜乃はVtuberだったのだ!
陽キャのカレンがアニメを小ばかにするのでクラスでは内緒にしてたけど、実は俺、結構Vtuberを見るのだ。
Vtuberは、アニメ調のキャラを分身として画面に表示させ、そこに音声をのせて視聴者を楽しませるネット配信者。
どうやら菜乃の分身である2Dキャラは、「聖天使ナノン」という名前らしい。
金髪ロングにゆったりとした白い布をまとい、真っ白な翼を生やした天使キャラのようだ。
『今日はお馴染みのこのゲームをやろうと思うの』
そう言ってプレイを始めたのは、ミミズのようなキャラを操作して相手を倒し、自分を長く成長させるゲーム。
『ナノンこのゲーム、チョー得意! えい、えい、おっと。あ、危ない! ひえー』
菜乃の操作は酷いもので、彼女のミミズは全然成長できずにすぐやられてしまった。
《安定のヘタ》《早杉》《いっそ清々しさすらある》
少しコメントが流れる。
結構悔しがった彼女は『よぉーし、もう1回』と再プレイするが、少し生き残ってすぐやられた。
見たところ菜乃は、お世辞にもゲームが美味いとはいえず、かなりのヘタクソである。
テクニックで楽しませるなら、視聴者を魅了するくらい上手くなきゃ面白くない。
当然菜乃の腕前ではテクニックなど微塵もない。
だが、逆に飛び切りヘタなので見てて面白いのだ。
『あれー、なんでか上手くいかないなぁ。ナノン、ちょっと自信あったのに。仕方ない、ここは天使の奇跡で! ねえみんな、ナノンを応援して!』
《まあがんばれ》《これ投げても関係なくね?》
《イヤイヤあえて俺投げるー》
『わあ! スパチャありがとうっ! えーと、何々? それ本気ですか、だとう? ま、まだ本気だしてないし! よーし、ナノン本気で頑張っちゃうよっ!』
《ナノン本気キターー!!》《むしろヘターに期待》
《期待しトラン》《ガンガレ》《やればできる子!》
コメント欄に金額の書かれた色枠が入った。
略してスパチャと呼ばれるご祝儀で、電子マネーを配信者へ渡して応援できる。
『さあ、気合入っちゃったよ! おりゃー。ああっ! ご、ごめん、なぜかまたやられた……』
《もどかしい》《金の力なし》《ナノンクオリティ》
えーと、菜乃のキャラは聖天使なんだよな……。
聞いたことないから、あんまり有名じゃないんだろうけど……。
今、この配信を見ている同時接続は1000か。
チャンネル登録者は32000人。
事務所に所属してるVにしては若干少ないか?
いや、現役の女子高生で時間もないし、配信期間も浅いだろうから、これでも相当凄い方だよな。
『はーい。今日もお疲れナノン! ナノンのスーパープレイはどうだった? 最後にスパチャをくれた、リスナーさんありがとね。次回も本気だすから見てね。ナノンでしたー』
◇◇◇
菜乃の配信は、どうやら無事終わったようだ。
彼女が椅子を回して嬉しそうに振り向く。
「い、いつもより緊張した……。どうだった?」
「凄いね! ちゃんとVtuberしてた」
「でしょ? まあ、事務所じゃ私が一番同接少ないんだけどね」
「でも、何かイキイキしてた気がする」
「そうなの! 違うキャラになれるのが魅力よ!」
そう話す菜乃の表情は輝いていた。
本当にこの仕事が楽しいんだと伝わってくる。
このまま笑顔の菜乃を見てたい気もするが、そろそろ本題にも入りたい。
「で、迷惑系Vtuberのことだけど……」
「ああ、そうだったわ。それはね、Vtuberとして健太に迷惑をかけるってことよ」
「いやまあ、それは何となく分かるけどそうじゃなくてさ。具体的に何をするの?」
「つまりね、Vtuberとして中村健太にフラれたことを配信するのよ」
ダメだろそれ!!
二重にやっちゃダメなヤツじゃないか!
まず、俺、中村健太がVtuber聖天使ナノンをフッたって、ネット回線通して全世界に広まっちまう!
あ、いや、同時接続1000で全世界は大げさか。
でもマジで俺、学校に行くのが嫌になる!
次に、聖天使ナノンに男の影がチラつくぞ!
たぶんだけど、女性Vtuberのファンなんて男がほとんどだろ?
そんな憧れの女性Vtuberに、彼氏とか好きな男とかご法度じゃないのか?
菜乃がムチャクチャ言うので俺が頭を抱えていると、彼女の携帯から着信を知らせるバイブ音が聞こえた。
「なんか電話かかってきてないか?」
「あ、本当だ。ちょっと待ってて……」
どうもVtuber事務所からの電話のようだ。
「ええ、ハイ、私です。え? ええええ!!??
き、きゃぁぁあああああーー!!!!」
大騒ぎした菜乃が、モニターに向き直って慌てて配信アプリを操作していたが……。
操作を終えた彼女はこちらを向くと、口をパクパクと動かして涙目になった。
「は、は、配信、切り忘れてた……」
「へ?」
「さっきの配信、切り忘れてたのよッ!」
「え? え? ええ!?」
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