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 第2話 幼馴染は俺を見てない

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 俺、中村健太は今日、好きな幼馴染みの美崎カレンに、彼氏ができたと告げられて絶望していた。
 そんな俺に学校一の美人、姫川菜乃が告白してきたのだ。
 菜乃の告白で心は救われたが、これが普通の告白じゃなかった。
 彼女は、恋人にならないと迷惑系Vtuberになると俺を脅してきたのだ。
 それでなんで俺が困るのか分からないと答えると、菜乃は家に来たら教えると言うのだった。

 俺は菜乃と一緒に帰ることになり、教室へカバンを取りに行く。

「じゃあ、俺は3組だからあとで」
「うん、カバン取ったらそっちに行くわね」

 ふたりとも高校3年で同じ階だが、クラスが違うのでいったん別れた。

 教室の戸を開けるともう掃除は終わっていて、残っているのは俺の幼馴染み美崎カレンと隣のクラスの三浦だけだった。
 カレンは窓際の自分の席に座っていて、彼女と付き合い始めた男、三浦亮が彼女のそばにいる。

「健太だー。あれ? まだ帰ってないんだー?」
「ああ、カバンを取りに来た」

「嘘ばっかり。私と帰りたくてワザワザ時間調整したんでしょ?」
「し、してないし」

「一緒に帰りたいからって未練たらしいなぁもう。でもごめーん、いくら幼馴染みの頼みでも無理なんだ。今日から彼氏の亮君と帰るんだもーん」

 彼女はそう言うと、横に立つ三浦の顔を見上げた。
 奴を見るカレンの顔は甘い物を食べたときと同じ笑顔で、俺の胸には猛烈な嫉妬心と腹立たしさと情けなさが押し寄せた。

「1組の三浦だ。まあ君と慣れ合う気はないけど」
「……このクラスの中村だ」

「亮君大人っぽいでしょー。健太とは大違いだよねー。アハハ」
「そんなことないだろ」

「美崎さん。今は彼、つらそうだしほどほどにね」
「優しいー&大人ー! さすが亮君素敵!」

 三浦め!
 ワザと思いやるフリしておちょくってやがる!
 カレンもあんまりだよ。
 今まで天真爛漫な感じに惹かれてたけど、幼馴染みの距離感で彼氏紹介&おちょくりって悲しすぎる。

「しかも亮君って健太より頼りになるんだよー」
「ああ、そうなんだ……」

「今まで幼馴染みだからってだけで健太に優しくしてたけど、あなたが近くにいるせいで彼氏ができないって気づいたんだよねー。だからもう健太とは距離を置こうと思って。別に好きでもないんだし」
「好きでもないのか……」

「あ、ごめんごめん。幼馴染みとしては好きよ。でも恋愛的な意味だと健太はなしよねー」
「……なしか」

「ごめんねー、この通り私モテるからー! これからずっと登校も下校も彼となんだー。ひとり寂しいかもだけど許してね?」
「……」

 俺は間近にいてくれるカレンがずっと好きだった。
 カレンは一番に俺を見てくれてると思ってた。
 でも全然違った。
 幼馴染みだからただしたしかっただけ。
 カレンは俺を異性として見てないのが分かった。
 恋愛的になしだから距離を置くとまで言われた。
 もう……だめだ。
 俺の恋は完全に終わった。
 このままじゃ情けなさすぎる。
 あまりに悲しすぎる。
 せめてカレンと三浦に一矢むくいてやる……。

「大丈夫だカレン! き、気にすんな! 俺も一緒に帰る女子がいるから!」
「え? ええー? またぁ、嘘でしょう?」

「ほ、本当だよ」
「そんな人いないくせに強がっちゃってー。健太のことなんて、全部手に取るように分かってんだから」

「い、いや本当にいるんだ」
「アハハ。じゃあ誰と帰るか言ってみなさいよー」

 俺とカレンの問答に三浦が入ってくる。

「へえ。今日、美崎さんから俺のことを聞いたのに、都合よくそんな女子がいるんだ?」
「うるさいな。別にいいだろ、いたって」

「まあ万が一いても、美崎さんの方がレベル上だと思うけど。もしも本当なら是非教えてくれよ!」
「そうよ。聞きたいわ。もしも本当ならだけど!」

 くそう、こいつら俺が強がって嘘ついたって決めつけてやがる。
 大丈夫、嘘じゃないんだ。
 今日だけでも一緒に帰ることに変わりない。
 よし、言ってやる!

「ひ、姫川菜乃だ」

 俺の返答にカレンと三浦はポカンと口を開けた。

「え? 姫川菜乃ってあの姫川さん?」
「あの誰もが学校で一番と認める彼女? そんな訳ないだろ、おまえみたいなぼさっとした奴」

 くそ、三浦の野郎!
 俺に対する本音が出やがった!

「本当だって!」
「ねえ健太。嘘つくならもっとそれっぽい嘘ついた方がいいよ?」
「ありえないんだよ。彼女への告白はみんなが玉砕した。もし本当なら俺がおまえに劣ることになるからな」

 三浦、おまえは菜乃に告白して玉砕したんだな?
 でも、俺は菜乃に告白してないぞ。
 この場にはカレンもいるんだ。
 その辺の誤解は解いておきたい。

「いや、向こうから誘われたんだ」
「何それ。姫川さんから誘ったっていうの?」
「信じる信じない以前の話だ」

「いや本当なんだ!」
「ああ、はいはい。ありえないけど、そう言うことにしといてあげる」
「見栄もここまでくると滑稽だ」

 カレンと三浦が声を出して笑い始めた。

 何だよ、クソ。
 本当なのにまるで信じやしない。
 俺と菜乃はそんなに不釣り合いなのか?
 三浦の野郎は仕方ないにしても、カレンの態度は酷すぎやしないか?
 指さしてあざ笑うって、あんまりじゃないか。
 やっぱカレンにとって俺はただの幼馴染みなんだ。
 それ以上でも以下でもない。
 本当に男として見てないんだ。
 俺、どうしてカレンを好きになったんだろう。
 彼女がこんなに俺のことを馬鹿にするなんて……。

 カレンと三浦の笑い声が教室中に響く。

 情けなさすぎる。
 カレンは俺ともっとも距離の近い、かけがえのない存在だと思っていた。
 いつでも俺の味方だと思っていた。
 でも俺の好きなカレンはただの幻想で、幼馴染みの俺なんかより彼氏が大切で、本当は俺のことなんかどうでもよかったんだ。
 彼女にとって俺は、ただの嘲笑相手だったんだ。

 いきなり教室の引き戸がガラガラと音を立てた。

「健太? まだー?」

 失意の俺は、不意な女性の声で我に返る。
 顔を見せた菜乃が、戸口でこちらに手を振った。

「健太! あれ? まだ帰れないの?」
「あ、ごめん。すぐ行くよ」

「!?」
「!?」

 カレンと三浦が、俺と話す菜乃を見たまま、目を見開いて固まっている。

「へぇ~。ここが健太の教室ね。もう! 何で私と同じクラスじゃないのよ」
「いや、そんなこと言われても」

 教室の中をのぞいていた菜乃が入って来た。


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