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番外編 その3 ささやかな幸せの、物語。
それは、二人にとって幸福な……
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――――
「はぁっ……はぁっ……!」
激しく息切れしながらも、全速力で山を下り、家の帰路につくルーフェ。
「ちょっ、早いよルーフェ! たしかに急ぐ気持ちは、分かるけどさ」
ケインはその後を、何とか追いかけていた。
……そして、ルーフェがこうも急いでいる理由、それは。
――まさか、こんな時に、子供が産まれそうだなんて!――
そう、ケインが伝えた話と言うのは、エディアが身ごもっていた二人の子供が、生まれようとしていることであった。
幸い助産師がついていることで大丈夫らしいが、それでもルーフェとしては、その時彼女のそばにいたかった。
――生まれる前に、家に帰りつけるか!?
だけど……時間は、もう――
家までの距離は、かなり遠い。
しかもケインがルーフェのもとに、報告に来た時間もある。
それを含めればもう、大分時間が経っているのだ。
……とにかく、ようやく目の前に家は見えてきた。
「ようやく見えてきたね、ルーフェさん」
安堵の表情を見せる、ケイン。
そしてルーフェも。
「ああ。……どうか、無事でいてくれよ」
みるみる迫る、家の明かり。
二人はついに玄関にたどり着くと、その扉を開いた。
――――
「エディア!」
そう叫び、勢いよく扉を開け、家に入るルーフェ。
するとそこで目にしたのは……。
家にはミリナに助産師、それにルーフェが働く牧場の主のジングさんなど、村の人々がたくさん集まっていた。
「ルーフェもようやく来たか。あそこからこっちまで、大変だったろうに」
「あはは、ジングさん。それはもう大急ぎでしたから。
それに……」
「ようやく帰って来ましたね、ルーフェさん。
ふふふっ……見てください、こんなに元気そうに」
多くの村人の集まる、部屋の真ん中のベッド。
そこにはエディアの姿がありそして、上半身を起こしていた彼女が抱いていた、2つの小さな……赤ちゃんだった。
それぞれ茶髪と、そして灰色髪の赤ちゃん。
ルーフェとエディア、二人の血を引いていると、よく分かる。
ルーフェはエディアと、その子供に近づく。
「これが、僕と、エディアの」
彼女は、こくりと、笑って頷いた。
「そうですよ。私とルーフェ、二人の子供。男の子と、女の子なんですよ」
「……かわいい、な。だけど」
ルーフェは照れたように、こんなことを話す。
「その……帰りが遅れて、ごめん。エディア、大変だったろうに、傍にいてあげられなくて」
「大丈夫ですよ。
たしかに、産むのはとっても痛かったけど、それでも、こうして無事に生まれて、それ以上にずっと、嬉しかったもの。
私とルーフェの子を、こうして手で抱いて、温もりを感じられて、私……」
そう言うエディアの顔は、本当に幸せ一杯で、あった。
彼女にルーフェは、こんな頼み事をする。
「ねぇエディア、良かったら僕も……抱いてみても、いいかな」
「……もちろんよ。はい……」
エディアはそう言うと、自分の両手で抱いていた、子供をルーフェにと。
彼は、一人、そしてもう一人と、自分の手で受け取った。
「何て言うか、この感覚、は」
ルーフェは二人の子を抱きながら、表情を緩めた。
「ルーフェってば、そんな表情をして。ふふっ」
彼の表情を覗き込み、エディアはまた微笑む。
「俺たちの、子供か。本当に、小さくて、柔らかくて……可愛いな」
初めての、感覚。彼は慣れないながらも、とっても感動していた。
「名前は、ルーフェと一緒に決めたよね。
私と同じ髪の色の女の子は、エリナ。そしてルーフェと同じ髪の男の子は……ルイ」
そう。生まれる前に、エディアとルーフェは子供の名前を考えていた。
男の子なのか、それとも女の子なのか。生まれる子供がどちらかになるかと考え、ちゃんと用意していたのだ。
「ねぇ、ルーフェ」
「ん?」
「やっぱり私、ルーフェとまた一緒にいられて、嬉しいの。
……ありがとう、私をまた、生き返らせてくれて」
「僕の方こそ。
――エディアとのかけがえの無い時間。これからはもっと、賑やかになるね。
僕ももちろん、嬉しさでいっぱいだ」
「はぁっ……はぁっ……!」
激しく息切れしながらも、全速力で山を下り、家の帰路につくルーフェ。
「ちょっ、早いよルーフェ! たしかに急ぐ気持ちは、分かるけどさ」
ケインはその後を、何とか追いかけていた。
……そして、ルーフェがこうも急いでいる理由、それは。
――まさか、こんな時に、子供が産まれそうだなんて!――
そう、ケインが伝えた話と言うのは、エディアが身ごもっていた二人の子供が、生まれようとしていることであった。
幸い助産師がついていることで大丈夫らしいが、それでもルーフェとしては、その時彼女のそばにいたかった。
――生まれる前に、家に帰りつけるか!?
だけど……時間は、もう――
家までの距離は、かなり遠い。
しかもケインがルーフェのもとに、報告に来た時間もある。
それを含めればもう、大分時間が経っているのだ。
……とにかく、ようやく目の前に家は見えてきた。
「ようやく見えてきたね、ルーフェさん」
安堵の表情を見せる、ケイン。
そしてルーフェも。
「ああ。……どうか、無事でいてくれよ」
みるみる迫る、家の明かり。
二人はついに玄関にたどり着くと、その扉を開いた。
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「エディア!」
そう叫び、勢いよく扉を開け、家に入るルーフェ。
するとそこで目にしたのは……。
家にはミリナに助産師、それにルーフェが働く牧場の主のジングさんなど、村の人々がたくさん集まっていた。
「ルーフェもようやく来たか。あそこからこっちまで、大変だったろうに」
「あはは、ジングさん。それはもう大急ぎでしたから。
それに……」
「ようやく帰って来ましたね、ルーフェさん。
ふふふっ……見てください、こんなに元気そうに」
多くの村人の集まる、部屋の真ん中のベッド。
そこにはエディアの姿がありそして、上半身を起こしていた彼女が抱いていた、2つの小さな……赤ちゃんだった。
それぞれ茶髪と、そして灰色髪の赤ちゃん。
ルーフェとエディア、二人の血を引いていると、よく分かる。
ルーフェはエディアと、その子供に近づく。
「これが、僕と、エディアの」
彼女は、こくりと、笑って頷いた。
「そうですよ。私とルーフェ、二人の子供。男の子と、女の子なんですよ」
「……かわいい、な。だけど」
ルーフェは照れたように、こんなことを話す。
「その……帰りが遅れて、ごめん。エディア、大変だったろうに、傍にいてあげられなくて」
「大丈夫ですよ。
たしかに、産むのはとっても痛かったけど、それでも、こうして無事に生まれて、それ以上にずっと、嬉しかったもの。
私とルーフェの子を、こうして手で抱いて、温もりを感じられて、私……」
そう言うエディアの顔は、本当に幸せ一杯で、あった。
彼女にルーフェは、こんな頼み事をする。
「ねぇエディア、良かったら僕も……抱いてみても、いいかな」
「……もちろんよ。はい……」
エディアはそう言うと、自分の両手で抱いていた、子供をルーフェにと。
彼は、一人、そしてもう一人と、自分の手で受け取った。
「何て言うか、この感覚、は」
ルーフェは二人の子を抱きながら、表情を緩めた。
「ルーフェってば、そんな表情をして。ふふっ」
彼の表情を覗き込み、エディアはまた微笑む。
「俺たちの、子供か。本当に、小さくて、柔らかくて……可愛いな」
初めての、感覚。彼は慣れないながらも、とっても感動していた。
「名前は、ルーフェと一緒に決めたよね。
私と同じ髪の色の女の子は、エリナ。そしてルーフェと同じ髪の男の子は……ルイ」
そう。生まれる前に、エディアとルーフェは子供の名前を考えていた。
男の子なのか、それとも女の子なのか。生まれる子供がどちらかになるかと考え、ちゃんと用意していたのだ。
「ねぇ、ルーフェ」
「ん?」
「やっぱり私、ルーフェとまた一緒にいられて、嬉しいの。
……ありがとう、私をまた、生き返らせてくれて」
「僕の方こそ。
――エディアとのかけがえの無い時間。これからはもっと、賑やかになるね。
僕ももちろん、嬉しさでいっぱいだ」
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