55 / 63
番外編 その3 ささやかな幸せの、物語。
父親として
しおりを挟む
――――
それから、また日にちが経ち。
「それじゃあね、エディア」
仕事の支度をしたルーフェは、家のベッドで横になっているエディアへと声をかけた。
「行ってらっしゃい、ルーフェ。今日もお仕事、頑張ってくださいね」
「ミリナも、ありがとう。僕が出かけている間、エディアの事をよろしく頼むよ」
彼は今家にいる少女、ミリナにもそう言う。
彼女も最近、この家で色々と世話を焼いてくれる。なぜならば……
「ふふふ、私からもありがとうね。
……もう、こんなに大きくなって。一人で何かするのも、出来ないから」
そう。エディアのお腹の子は、さらに大きくなって、ベッドの毛布からはそれが、大きく膨らんでいるのが見える。
「それに、分かるの。
きっともうすぐ産まれそうだって。名前だって、もう決めているのよ」
「へぇ! ねぇねぇ、どんな名前なの? 教えてくれないかしら?」
「いいわよ、ミリナちゃん。えっとね……」
しかし、ルーフェにはゆっくりしている、時間はなかった。
「そろそろ、僕は行かないと。今日は少し遠い牧草地での仕事だから、帰りは遅くなると思うけど……早く帰るように、するから」
そう言ってはエディアの傍に来て、口付けを交わした。
「……んっ。ありがとう、ルーフェ」
エディアとルーフェ、二人は笑い合ってそして、彼は家を後にした。
――――
羊の群れの、放牧。
群れは村の牧場から、いくらか離れた小高い山の中腹に位置する、青々とした牧草地にて。
何十頭もの羊が、牧草地の草を食んだりなどして過ごす中、ルーフェは近くの岩に腰掛け、少し考えにふけっていた。
―ー本当に、良かったな。色々あったけど……ここまで来れて、さ――
彼が思い浮かべるのは、村での日々と、そしてエディアのこと。
何もかも、本当に……。
――それにしても、この僕が父親、か。
旅をしていた頃はずっと、エディアを取り戻すことばかり、だったからな――
まさか自分が子を持つとは、今でも信じられない。だけど……
「まぁ、なるからには良い父親に……ならないと」
彼がそう一人呟いた、時だった。
「ルーフェさん! ルーフェさん」
すると遠くから、誰かの声が聞こえた。
見ると草地の向こうから、ケインが手を振りながら、こちらに走って向かって来ていた。
「ケイン、じゃないか。こんなに遠くまで、どうしたんだい?」
ケインは彼のもとに来ると、息を切らしていたのを整え、こう言った。
「大変なんだ、急いで家に戻って来て!
エディアさんが――!」
それから、また日にちが経ち。
「それじゃあね、エディア」
仕事の支度をしたルーフェは、家のベッドで横になっているエディアへと声をかけた。
「行ってらっしゃい、ルーフェ。今日もお仕事、頑張ってくださいね」
「ミリナも、ありがとう。僕が出かけている間、エディアの事をよろしく頼むよ」
彼は今家にいる少女、ミリナにもそう言う。
彼女も最近、この家で色々と世話を焼いてくれる。なぜならば……
「ふふふ、私からもありがとうね。
……もう、こんなに大きくなって。一人で何かするのも、出来ないから」
そう。エディアのお腹の子は、さらに大きくなって、ベッドの毛布からはそれが、大きく膨らんでいるのが見える。
「それに、分かるの。
きっともうすぐ産まれそうだって。名前だって、もう決めているのよ」
「へぇ! ねぇねぇ、どんな名前なの? 教えてくれないかしら?」
「いいわよ、ミリナちゃん。えっとね……」
しかし、ルーフェにはゆっくりしている、時間はなかった。
「そろそろ、僕は行かないと。今日は少し遠い牧草地での仕事だから、帰りは遅くなると思うけど……早く帰るように、するから」
そう言ってはエディアの傍に来て、口付けを交わした。
「……んっ。ありがとう、ルーフェ」
エディアとルーフェ、二人は笑い合ってそして、彼は家を後にした。
――――
羊の群れの、放牧。
群れは村の牧場から、いくらか離れた小高い山の中腹に位置する、青々とした牧草地にて。
何十頭もの羊が、牧草地の草を食んだりなどして過ごす中、ルーフェは近くの岩に腰掛け、少し考えにふけっていた。
―ー本当に、良かったな。色々あったけど……ここまで来れて、さ――
彼が思い浮かべるのは、村での日々と、そしてエディアのこと。
何もかも、本当に……。
――それにしても、この僕が父親、か。
旅をしていた頃はずっと、エディアを取り戻すことばかり、だったからな――
まさか自分が子を持つとは、今でも信じられない。だけど……
「まぁ、なるからには良い父親に……ならないと」
彼がそう一人呟いた、時だった。
「ルーフェさん! ルーフェさん」
すると遠くから、誰かの声が聞こえた。
見ると草地の向こうから、ケインが手を振りながら、こちらに走って向かって来ていた。
「ケイン、じゃないか。こんなに遠くまで、どうしたんだい?」
ケインは彼のもとに来ると、息を切らしていたのを整え、こう言った。
「大変なんだ、急いで家に戻って来て!
エディアさんが――!」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる