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番外編1 ――伝えたかった、あの言葉

新たな、一歩

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 ――――

「……もう、帰るのだな」

「はい。短い間でしたが。お世話になりました」

 屋敷の玄関口にて、帰り支度を済ませたクレイが、出迎えに来たトリウス、ウィルに、別れの挨拶をする。

「こちらこそ。君が立ち直ってくれて、本当に良かった」

 クレイの表情には、以前にはなかった明るさが、たしかにあった。

「ところで……これから、君はどうするつもりだい?」

 トリウスは少し気になる様子で尋ねる。
 それに彼は……。

「はい。ここから遠いけど、一度故郷に帰りたいと思います。
 ……そこからまた、一から生活を、やりなおしたくて」

「そうか、それはいいことだ。
 ではなクレイ、どうか元気でな」

「トリウスさんも。……それでは、さようなら」



 クレイは一礼し、背を向けて去って行く。
 するとトリウスが、彼に対して、最後に……。

「……クレイ」

「どうか、しました?」

「もし良ければ、君の兄が、最後に何て言ったのか教えてもらえないだろうか。
 少し、気になってな」


 
 トリウスの問に、クレイは振り返る。
 そして彼は、軽く微笑み……言った。

「大したことではないですよ。
 ……ただ、『僕の幸せを、兄としてずっと願っている』と。そう言われたんだ。
 だから、これからは――」


 ――新しい一歩を、踏み出そう。
 クレイはそう、心に決めたのだ。



 そしてまた、トリウスも……。

 ――ふっ、私は私なりに、冥界の番を……果たしているのだろうか――

 この霊峰、ハイテルペストには彼のように、死者と会うために、何人もの人間がここに来る。
 彼はそのたびに、彼らを屋敷へと呼びそして、亡くした者との邂逅を叶えていた。

 ――あの青年……ルーフェのように蘇らせるのは不可能だが、せめて会わせることくらいは、冥王も許してくれた。
 そのための冥王よりの使者、ウィルだ――

 トリウスの傍らには、冥王から使わされた精霊……ウィルが懐いているように、飛び回る。


 これが、彼の新たな使命。
 無理に止めるのでなく、せめて一度の再会を叶える――。
 それが新たな常世の守り主、トリウスである。
 

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