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第肆章 決戦

戦闘開始

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 ラキサ――いや、常世の守り主は彼の様子から、退く意思はないと判断したようだ。

「そうか、あくまで冥界へと足を踏み入れるつもりか。――ならば覚悟するがいい! 愚か者め!」

 冷たい表情のまま彼女は、猛るかのように叫んだ。
 同時に……その体は一気に、無数の白い光球となり爆散した。
 まるで花火のように広がる、光り輝く粒子。
 光の粒は遺跡の広範囲に広がると、今度は集束をはじめた。
 粒子は集束すると同時に、何か、別の姿のシルエットを形作る。
 少女の姿とは異なる、異形の姿。光はその姿へと身体を再構築する。




「グルルルッ……」

 姿を現したのは、白銀の竜。
 両翼を大きく広げ、先ほどの名残なのか、光の粒子を散らす。 
 
 ――やはり、あの時俺と戦った、竜だったのか。……ラキサ、君は―― 

 霊峰ハイテルペストに初めて訪れた時、ルーフェと戦い深手を与えた、あの竜だ。
 白銀の巨体を持つ、神々しいまでの存在…………。
 目の前に君臨する巨竜、それは竜の一族の末裔であるラキサの本当の姿。そして、常世の守り主の正体でもある。

 ――やはり、戦わなければいけないのか――

 圧倒的な存在を目の前にして、躊躇うルーフェ。
 例え今は、常世の守り主だったとしても、その正体がラキサと言う名の、少女であることに変わりはない。
 もしあの竜を倒せば。その時には彼女の命も、失われるだろう。


 ルーフェは大切な人、エディアを、生き返らせるために旅をし、戦って来た。
 そして今、一人の命を取り戻すために、また一人の命を奪うことになるのだろう。
 ――だが、彼女を失った、その時からすべてを犠牲にしてでも取り戻すと、そうルーフェは覚悟を決めていた。

 ――だが今更、俺は引けない! ラキサ……君の命を引き換えにしてでも、エディアを取り戻す!――


 

 竜の出現、そして……ルーフェの決意。
 これに呼応したのか、彼が持つ剣は、強く輝きはじめた。
 剣に浮かび上がるのは、輝く竜の模様。
 それは、ラキサが与えた力の一部だ。
 この力が今、剣を介して自分に伝わって来るかのように、ルーフェは感じる。
 彼女の力は、あの竜と同等のものだ。これで彼は、戦う力を手にしたのだ。



 その剣から発する力を同じく感じたのは、竜も同じだった。
、脅威を覚えたのか、先手を打つ動きに出る。。
 激しい咆哮とともにエネルギーを溜め、口を大きく開き、竜は光弾を放った。
 すぐさまルーフェは後ろに下がり光弾を避ける。
 と、同時に――周囲に輝く光と轟き。
 光弾は先程まで彼がいた場所へと衝突し、爆発。後には大きくえぐれた地面の跡が残った。
 その威力は相当なもの。
 もし、当たれば一たまりもない事は、この跡を見れば一目で分かる。

 ――やはり、この剣の力だけでも、厳しいか――

 だが、ルーフェには満足に、考える時間さえ与えられない。
 竜は続けざまに、ルーフェ目かけて光弾を連射した。
 次々と爆風が巻起こる中、ルーフェは高い身体能力を駆使して直撃を避ける。
 これまで、様々な戦いを潜り抜けた彼。その身体、戦闘能力は抜きすさんでいた。



 しかし……幾らルーフェだろうとも、限界があった。
 やがて、回避が遅れた彼に、一発の光弾が襲う。
 今まで避けて来たが、今度こそ直撃は免れない。ルーフェは覚悟を決め、せめて僅かでも身を守ろうと、剣で身構える。
 光弾は剣に、衝突した。
 予想される衝撃に、ルーフェは身構える。……が。
 それでも、あの破壊的な威力が、彼を襲うことはなかった。
 剣は光弾のエネルギーを吸収し、消滅させた。
 その高いエネルギーを取り込み、ルーフェの力もみなぎるかのようだ。
 
 ――これなら……いける!――
 
 ルーフェは剣の柄をぐっと握ると、竜に目かけて突撃した。
 迫って来る彼に竜は、左前足を構え、鋭い爪で引き裂こうとする。
 剣と爪、その二つが、激しくぶつかる。
 両者は一瞬、鍔迫り合った……かに見えたが。
 力押しでは圧倒的に――竜に分があった。



 その強大な力で、ルーフェは一気に弾き飛ばされた。
 それでも、彼の戦意は衰えない。 
 弾き飛ばされるやいなや、空中で態勢を整えて、何とか着地する。
 着地はしたものの、勢いはまだ残り後方になおも、飛ばされそうになる。
 ……両足に力を入れ、何とか踏みとどまったものの、そこは崖っぷち。
 後少しで、彼は崖から、真っ逆さまとなる所だった。
 ――しかし、竜もまた、無事ではなかった。

 
 
 竜の絶叫が、周囲に響く。
 その爪の一部は砕け、足には鋭い傷が生じて水色の血が噴き出す。
 ようやく相手に、一撃を与えることが叶ったルーフェ。
 ではあったが……

「――っつ!」

 この光景を目にした時、ルーフェの心が痛み、表情は歪んだ。
 与えられた力は強く、それはあの竜に傷を付ける程。これならば、竜を倒して、冥界へと辿りつくのも不可能ではない。
 それなら、喜んでも良いはずだ。なのに…………今は剣がとても重い――。

 ――どうしてだ!? 俺は決意を決めた、そのはずなのに――
 
 自分にそう、ルーフェは言い聞かせる。
 やはり何処かに、捨てきれない躊躇いが、確かに存在しているのだ。
 しかしそれでも、まだ戦いは続く。


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