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『天使』の少女
しおりを挟む〈何か怪しいとは思っていたけれど、まさか女の子が入っていたなんてね……〉
やや困った様子で、ミーシャは呟く。
「俺も、とても驚いたよ」
「クゥ!」
女の子が、ライゼルの横からモニターを覗き込む。
〈でも、とても可愛い女の子ね。私の二人の娘達と、同い年に見えるわ。名前は何かしら?〉
「それが、さっきからこんな調子で、言葉も通じないのさ。社長は、女の子の正体を御存知ですか?」
ミーシャはしばらく考え込むと、何かを思い出したように言った。
〈あの綺麗な金色の翼…………、恐らく彼女は『アンジェリアン』ね〉
その言葉は、ライゼルは初めて聞いた。
「『アンジェリアン』って、一体?」
〈惑星アンジェリオに生息する、原生人型生命体。文明水準は過去の中世ヨーロッパ程度。綺麗に輝く翼を持ち、とても美しくて、心優しい種族よ。けど……〉
「けど?」
〈昔、その美しさのせいで乱獲されたの。捕獲されたアンジェリアンは、金持ちにペットとして高値で売られて、多くは剥製にされたわ。その種族は、死んだら翼の輝きは失われるから、ある薬品を体に注入して、それを防ぐみたいよ〉
話をしているミーシャの様子からは、ある種の嫌悪感が感じられた。自らのエゴの為に、何の罪も無い種族を犠牲にする行為、彼女はそれを許せなかった。
一方ライゼルは女の子に目を移す。女の子は無垢な笑顔で、彼を見ていた。
彼女が剥製にされるなんて……。ライゼルには耐えられなかった。
「そんな! それじゃあ、彼女は…………」
〈心配しないで。そうした乱獲や、人型生命体に対する非人道的行為が問題になって、アンジェリアンは、指定保護異星生命体に指定されているわ。だから今では大丈夫〉
ミーシャはライゼルに、優しく告げた。
〈アンジェリオは、エクスポリスの近くにあるわ。他の積荷もあるから、それを届ける為に、エクスポリスにも寄る必要はあるけどね。つまり…………この可愛い娘ちゃんを、無事故郷に送ってあげて、と言う訳〉
「依頼人に、渡さなくてもいいのか」
〈もちろんよ。依頼人には、私が断っておくわ。『当社は密輸業者ではありません』ってね〉
そう言って、ミーシャは軽くウィンクしてみせた。
「…………有難うございます、社長」
〈うふふ、どういたしまして。でも道程は長いから、彼女と良い関係を築くのも、いいかもね〉
「なっ! ちょっと、社長……」
しかしライゼルが何か言い返す前に、通信が切れた。
傍にいる女の子を見ながら、ライゼルは悩んだ。
良い関係を築くって言っても、どう言う意味だよ?それに……。
視線の先の女の子は確かに無垢ではあるが、その無垢さには、さながら知能が殆んど無いが故の無垢さも、あるように思われた。
フローライトカンパニー本社の社長室。
ミーシャは突然の事態に、一人考え込んでいた。
まさか私の会社に、密輸が依頼されるなんて…………。そう考えると、ショックを受けた。
だが、何かがおかしかった。この事実の裏に、何か隠されている気がした。
とにかく依頼人に連絡する必要がある……。そうミーシャが思った時だった。
一人のスーツを着込んだ男が、社長室に入って来た。男は会社の事務員のようであり、手には大量の書類を持っている。
「どうしたの? 何か用かしら?」
ミーシャの質問に、男は少し呆れて言った。
「忘れましたか? これらは社長がチェックするべき、今までの依頼内容、仕事、会社経営等に関係する書類です。もう四ヶ月も溜め込んでいますよ」
「それは……他にも仕事があったから……」
「とにかく、急いでチェックしてもらえないと困ります。一応言っておきますけど、これが全部ではありません。他にも、まだ大量に残っていますからね」
男はそう言い残して、立ち去った。後には沢山の書類だけが残った。
連絡する前に、まずこれを終わらせないとね……。ミーシャは苦笑いしてそう思った。
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