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プロローグ
しおりを挟む最後の積荷を積載した宇宙船が、惑星ラインディールの重力圏を抜けた。
そして船は、虚空の宇宙空間へと到達した。
宇宙船の操縦室で、一人の青年がモニター通信で、誰かと会話していた。彼が唯一の、宇宙船の乗組員であった。
彼の年齢は二十三歳と若く、少し長めの茶髪で、背がすらっとした精悍な好青年である。
〈ハロー、ライゼル。どうやら積荷は、全て回収したようね〉
モニターから青年に呼びかける声は、かなり親しげな声だった。
ライゼルと呼ばれた青年が会話していたのは、ウェーブがかかった赤髪の女性だった。モデルのようなルックスで、外見はまだ二十代程と、若く見える。
「ああ、積荷は全部回収して、後は目的地に運ぶだけだ。しかし…………何で社長が?」
彼の疑問に、彼女は人の良さそうな笑みを浮かべた。
〈ふふっ、貴方の初の大仕事……、様子が気になって、ね〉
ライゼルは、中小企業に属するフローライトカンパニーの新米社員だ。依頼があれば非合法でない限り何でもこなす、いわゆる何でも屋である。
規模が大きいとは言えない会社だと、一つの専門に特化するよりは、幅広い仕事をこなした方が良いと考えられたからだ。 その為、仕事内容により部門が分かれており、彼が所属しているのはその中の運送部門、つまり星から星への積荷の運び屋だ。
モニターの女性はその社長、ミーシャ・フローライト、部下思いで経営の手腕も高く、小規模ながらも会社を上手く経営していた。
今回ライゼルに任された依頼は、あちこちの星で受け取った、複数の依頼人の積荷をまとめて、都市惑星エクスポリスに運ぶという、大仕事であった。
宇宙運送の仕事には、最近幾らか慣れてきたばかりであり、彼は初めての大きな仕事に緊張していた。
「それは社長、心遣い、とても有難いです」
〈ライゼルには、あの事故の件もあるからね。貴方の責任では決してないけど、なおさら心配になっちゃったのよ〉
「ああ、あれについては、さすがに何度もあることではありませんよ。今回は……多分、全然大丈夫さ」
二人が話している事故、それはライゼルが仕事として、積荷を運んでいた時に起こった事故である。
彼が運んでいた積荷、その一つである宇宙船用の熱核リアクターが、船内で暴走を始めたのだ。
リアクターの暴走により、本体も含めた船内の高熱化、最悪の場合、爆発を起こす危険があった。
そこでライゼルは、格納庫のハッチを全開にし、リアクターを含めた積み荷全てを宇宙に投棄した。
こうした事故の場合、船員は自身と船、そして乗客がいるなら乗客の安全を、積荷よりも優先する事が、宇宙航行の大原則として定められていた。
これは宇宙航行初期に、未発達な技術による宇宙船事故の多発によって、何より人間の生命を最優先するようになった結果だ。
それは今にも引き継がれ、現在でもこうして残っていた。
この大原則のおかげで、フローライト・カンパニーは一切の賠償責任はなかったが、運んだ積荷が存在しないと言うことで、結果、儲けもゼロであった。
〈言っていることが、矛盾しているわよ? もしかして、少し緊張しているのかしら? 大丈夫?〉
それを察したのか、ミーシャは尋ねた。
「心配ないさ。仕事の中身は、いつもと同じだからな」
その通り、主な内容はいつもと同じ。ただ荷物を受け取り、特定の場所へ運ぶ、シンプルな内容だ……。そう考え、ライゼルは緊張をほぐす。
〈なら良かったわ〉
そう言った後、ミーシャは初めて、一企業の社長としての貫禄を持って、言葉を続ける。
〈分かっているとは思うけど、惑星エクスポリスまでは約一ヶ月半。かなり長い道程だけど、それまで気を抜かずにね。それじゃあ……幸運を〉
この言葉を最後に、彼女からの通信は切れた。
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