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「怪物」の遺書
しおりを挟む< ――拝啓、私の遺書を手にした人物へ
この遺書を今読まれていると言う事は、私は死に、私が起こした事件によって多くの人々が傷付いた後であるだろう。しかし私は一切の後悔はしていない。
25年前、私はとある田舎の一家庭に生まれた。両親は私が生まれ持ったこの顔のせいで私を家の一室に閉じ込め、鎖でつなぎ止めて世間から隔離した。
親は私に食事を運んで来る時にしか会う事が出来ず。会うたびに私は親からこう言われた。「お前は怪物だ」と。こんな事を言われるなら、むしろ会わない方が遥かに良かった。
こんな生活が8年間続いたある日、変化が訪れる。両親はこの日始めて私を部屋から出してくれた。そして玄関まで連れて行くと、そこには見知らぬ男がいた。 男はサーカスの団長だった。団長は両親に多額の金を払って、私をサーカスに売ったのだ。
サーカスに売られてから私は多くのパフォーマンスが教え込まれた。だが私にはそういった類の才能は無く、とても簡単な物しか出来なかった。現に他の団員に較べて私の技術は一番下であった。
それでもサーカスでは十分だった。私が舞台に出ると、常に観客は大いに沸いた。無論パフォーマンスの出来ではない。私の、この醜い顔のせいである。
それでもそれは私にとっては嬉しかった。自分の肉親からは怪物と呼ばれ蔑まれて来たが、やっと周りが私の事を認め喜んでくれ、愛してくれた。そう思ったからだ。
サーカスは色々な場所を廻って行き、その先々で私のショーは人気を博した。その収入で生活もとても裕福になり、周りからの賞賛は相変わらずだった。私は正に幸せの絶頂だった。
だがいつ頃だからか……私の人気が増す事に比例して心の中に、訳の分からない不快感が増し始めていた。
その不快感が何であるか気づかずに、それは次第に増し続け、ショーを休む事も多くあった。
そんな中、ショーの休みが多く続いたある日、とうとう業を煮やした団長が私にこう言った。
「いい加減にしろ! 一体何が不服だと言うのだ。自分の顔を鏡で見てみろ。ろくな技術も無いお前が何故こんな生活が出来ていると思う? それはお前の人間離れした顔のお陰なんだぞ。殆ど顔を観衆にさらけ出すだけで金が手に入る、こんなに楽な生活はどこにも無いぞ」
更に追い討ちをかけるように続けた。
「言っておくが、それは逆に言えばこうした仕事以外にお前は生きていく術は無いって事だ。……この顔では誰も気味悪がって仕事を与えてくれまい。そこも踏まえて、よく肝に命じておくのだな」
私はようやくその不快感の正体を悟った。本当は気づいてなかっただけで、私もそれを感じ初めていた頃から無意識に、ある事が分かり初めていたからだ。
それは、私を両親から買ったサーカス団も、私のショーを見に来た観客達も、私を愛していた訳でも無かったと言う事だ。
私のこの顔がとても醜く、それを見たさで来ていただけであり、サーカス団はそうなると分かっていたから私を買ったのだ。
団長にそう言われてすぐにサーカスの公演があった。私がショーに出ると、今までと同じように周りは大いに沸いた。
前までは私を喜んでくれていた等と思っていたそれは、今では違って見えた。周りは好奇の目で私を見ており、面白がったり、怖がったりしていた。
こうして周りへの絶望は確実な物となった。私を見る目は昔の両親と何も変わっていない。結局私は動物園の檻に入った珍しい動物と同じく、人間ではないある種の怪物として見世物にされていただけなのだ。それよりも更に私を絶望させたのは、今までそれに気づかないで、愛してくれている、喜んでくれていると錯覚していい気になっていた自分自身の愚かさだった。
所詮、私は生まれてからずっと『怪物』であったのだ。
もはや私には生きる気力はもう無く、あるのは私を見世物にした周りへの強い憎しみだけである。これを書き終えて銀行に預けた後で始まるサーカスの公演で、私は死ぬ事になるだろう。
私は本当は普通に生きたかった。最も、この顔ではそれは不可能な話だった。
だが私を怪物としたのは顔だけでは無い。周りが私を怪物と見なして扱った事により、私が怪物にさせられたせいでもあるのだ。せめて誰か一人でも私を人間として扱ってくれたならば、こんな結末を迎えずに済んだかもしれない。
最後にこれを読んだ者に言いたい。読んだ後で私の事をどう思おうが構わない、しかし私がこの凶行を及ぶまでに至った葛藤と苦しみ、それが誰にも知られずに終わるのは絶えられない。此処に書かれた内容は記事にして出すのもいいだろう、決して損は無い筈だ。
ただ、私はこの想いを、どうか一人でも多くの人間に知ってもらいたい。これが怪物、グレゴリー・アルフレッドの願いである
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