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最終章 レースの決着
―それでも
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――――
「そんな。じゃあ、あのジンジャーブレッドさんは……」
同じころ、本物のジンジャーブレッドから話を聞いていた、ミオたち。
「レースに出場していた方は、まさかそのクローン、だったとはな。
まさかこの私が、気付きもしなかったとは、な」
レースの実況をしていたリオンドもまた、この事実に驚愕した様子である。
かつて現役だった頃に、彼はジンジャーブレッドとも戦ったこともあった、加えて実況と言う立場もあり、この事に気づきもしなかったことに……我ながら以外な様子だった。
ジンジャーブレッド、いや、本名ジンデ・ブレンディーはリオンドに顔を向け、微笑みを見せる
「……リオンド・マーティス。君とも昔、何度もレースをしたものだ。あの頃のレーサーとしては、恐らく一、二を争う……強敵、であったな」
「お褒めに預かり、光栄だ。――だが、まさかあのジンジャーブレッドがこんなに……」
確か、年齢としてはリオンドと近いはずだ。
だが……この車椅子の男は、彼よりも二十、いや三十も老けたような印象だ。
ジンデは、複雑な様子で、言葉を発する。
「驚くのも、無理はない。
実は私は……ある時に病が発症してな、筋肉組織と各器官、神経系の原因不明の衰弱を伴う、不治の病だ。
丁度、二十七年前。あの時から私の身体は徐々に衰弱していてな、レースから姿を消したのも……まさに、そのためだとも」
今明かされた、彼の真実。
「そんな。――でも、それとレースに出ている、あのジンジャーブレッドと、一体何の関係が」
今度はアインが、そう訪ねた。
確かに不治の病にかかり、もはやレースを続けられない状況
に陥ったのは事実だろう。
……しかし、それと今の状況が、どう結びつくのかは、分からない。
だがこれにも、理由があった。
ジンデの表情には、暗い陰が差す。そして説明を、続ける。
「もはやこの身体では……レースに出ることは叶わなかった。だが、それから数十年経とうとも……叶うことなら再び、常勝無敗の伝説のレーサーである、ジンジャーブレッドとしてレーサーに出れたらと――ずっと願っていた」
まだまだこれからであると言うのに、病によりたった三年で、突然選手生命を絶たれた彼。
考えれば、その未練は、並大抵のものではないはずだ。
「そんなさ中、ゲルベルト重工の人間がやって来た。
奴らが持ち掛けたのは……私の遺伝子サンプルと引き換えに、『ジンジャーブレッド』のレース復帰を提案した。
……目的は、私のクッキーを元にした、新型戦闘機の開発だ。だが、クッキーの人機一体システムは、並大抵の人間が扱える代物ではない。そこで私の脳髄の一部をクローンとして生産し、生体コンピューターとして搭載する予定……であったのだ」
「はんっ! 聞けば全く、ゾッとする話だぜ」
思わずティナも、嫌な表情を浮かべる。
ジョセフもその様子に、苦笑いする。
「これがゲルベルトのやり方さ。人間そのもののクローンは、社会的に禁じられているわけだが、その一部だけならギリギリセーフってわけだ。そしてジンジャーブレッドの脳を載せた戦闘機が、兵器として売れれる……と。
まぁ、ベットで子供に読み聞かせたい、話じゃあないな」
そんな会話をする、二人。
するとアインが――ある事に気づく。
「ですが、人間のクローンが禁止されているなら、あのジンジャーブレッドだって……」
彼の言葉に、ジンデもまた、頷く。
「ジンジャーブレッドの復帰とは、予め病となる要素を排除した私のクローンを生み出し、私に成り代わる……と言うことだ。
向こうもプロトタイプのブラッククラッカーを、操縦するパイロットが必要だった。彼は一つと言うわけだ。
代わりに私の存在は、なかった事にしてもらってな。病気にかかってからの記録も、ゲルベルト重工が手を回して全て削除して貰った。
つまり、事が上手く行けば、クローンの方が本物として、これから活躍することに、なるはずだったが……」
「ま、それもゲルベルトの逮捕によって、水の泡だね。
そうでなくても、クローンの身体には、限界があった。
確かに病気となる遺伝的要素は排除したものの、無理に改変を加えたせいでその身体は不安定。それに幾らクローンでも、オリジナルのように人機一体型のシステムを使いこなすには、至っていないようだった。
使う度に全身の負荷がかかり、このG3レースを行うだけでも、もはや精いっぱい。どの道上手く行く計画では、なかったんだ」
ジョンの言う通り、結局彼はゲルベルトに利用されていたに、すぎなかったのだ。
「……とにかく、この事をレーサーにも、伝えないとね。ゲルベルトの不正行為は、とっくに明らかにされた。もう最後の最後だけど、クライマックスぐらいは。ちゃんとやらせたいだろ?」
やはり辛そうな、ジンデではあったが……。
「私からも……そう願う。もはやこうなった以上、彼らには迷惑をかけられないからな」
「……ジンデ、さん」
ミオは気に掛けるも、これはもう、彼自身の問題だ。彼女が口を挟めることでは、ない気もした。
そしてジョンが、様子を見て、話しを切り出した。
「さて、と。そろそろ彼らにも、伝えることを、伝えないとね。
……思うことは、分からなくもないけど」
――――
それは、前半戦が始まる前の、出来事だった。
あの時フウマが、スカイガーデンポリスの格納区画で、ブラッククラッカーの中に入った時、そこにいたのは苦しそうに呻き、顔を抑えるジンジャーブレッドであった。
……そして、彼がフウマに顔を向けた、その時。
ジンジャーブレッドが見せた、顔の半分――恐らく激痛のあまり、かかじったせいなのだろう――、それは破けて皮膚がだらりと下にさがり、そこから若い青年の素顔が露わになっていた。
顔の半分は、壮年の男性であるのに対し、もう半分はそれよりもずっと若い、青年の顔。
それはあまりに――異質であった。
「ジンジャーブレッドさん。……その、顔は」
「――見たな」
息を荒らげながら、ジンジャーブレッドは睨む。
これに、戸惑うフウマ。
「でもこれは、一体何なのさ」
「いいから出ていけ。君には、関係な……ぐうっ!」
再び痛みが襲い、ジンジャーブレッドが苦しそうに胸をおさえる。
「大丈夫!? さっきから、ずっとそんな感じでさ……」
フウマは傍に駆け寄り、彼の容態を気に掛ける。
しばらく呼吸が乱れ、呻くも、再び落ち着いた様子のジンジャーブレッドは、申し訳なさそうな表情を見せる。
「……すまない。私のことを気にかけてくれたのに、な」
「僕は、気にしてないさ。それより――ジンジャーブレッドさんは、どうしたの?
もし辛いなら、医者に見てもらった方が……」
だが、ジンジャーブレッドは首を振る。
「いや、いい。これも私の身体に――ガタが来たにすぎない」
「ガタが来ただって!? どう言う、ことなのさ」
その問いかけに、彼は躊躇いを見せるも、覚悟を決めたように口を開く。
「仕方ない、か。……ここまで来たからには、話すしかあるまい」
そしてジンジャーブレッドは、自分の身の内を、話し始めた。
――――
「まさか……そんな事って」
ジンジャーブレッドの正体は、オリジナルのクローン。
そしてその目的は、ゲルベルトによる新型戦闘機のプロトタイプ、ブラッククラッカーのパイロット兼生体ユニットとしての役目を、果たすことにあった。
「だがそれが、事実だ。……だが、この事はどうか、他言無用に頼む」
「それはいいけど、でも、身体は――」
話によると、その身体はもう、限界に近いらしい。
恐らくこのレースを行えば、本当にどうなるか……。
「それでも、私はレースを続けたいのだ。
確かに、本物のジンジャーブレッドでは、ないかもしれない。
……しかし、一人のレーサとして、最後までやり遂げたい。ゲルベルトの思惑とは、関係なくな。
それに今は、私こそがジンジャーブレッドだ。その名を託されたからには、退くわけには、行くものか」
そう、経緯はどうであろうとも、彼の信念そして、レースにかける思いはまさに――レーサそのものだ。
まさに彼は、ジンジャーブレッド、あの伝説のレーサーの名を、引き継ぐだけの資格があった。
「……あなたは、そこまでして」
「もし君が、私と同じ境遇であったとて、きっと……同じ思いを抱くはずだ」
「それは――」
フウマには、返す言葉がなかった。
「つまり、こう言うことだ。
――これから、後半戦が始まる。フウマ、そこでまた君と戦いたい、どうか……また私と相手をしてくれると、約束して欲しい」
彼――ジンジャーブレッドは、深々と頭を下げる。
ここまで言われた以上、同じくレーサとして、返す言葉はたった一つ。
「分かった。レースの最後まで、共に頑張ろう」
「そんな。じゃあ、あのジンジャーブレッドさんは……」
同じころ、本物のジンジャーブレッドから話を聞いていた、ミオたち。
「レースに出場していた方は、まさかそのクローン、だったとはな。
まさかこの私が、気付きもしなかったとは、な」
レースの実況をしていたリオンドもまた、この事実に驚愕した様子である。
かつて現役だった頃に、彼はジンジャーブレッドとも戦ったこともあった、加えて実況と言う立場もあり、この事に気づきもしなかったことに……我ながら以外な様子だった。
ジンジャーブレッド、いや、本名ジンデ・ブレンディーはリオンドに顔を向け、微笑みを見せる
「……リオンド・マーティス。君とも昔、何度もレースをしたものだ。あの頃のレーサーとしては、恐らく一、二を争う……強敵、であったな」
「お褒めに預かり、光栄だ。――だが、まさかあのジンジャーブレッドがこんなに……」
確か、年齢としてはリオンドと近いはずだ。
だが……この車椅子の男は、彼よりも二十、いや三十も老けたような印象だ。
ジンデは、複雑な様子で、言葉を発する。
「驚くのも、無理はない。
実は私は……ある時に病が発症してな、筋肉組織と各器官、神経系の原因不明の衰弱を伴う、不治の病だ。
丁度、二十七年前。あの時から私の身体は徐々に衰弱していてな、レースから姿を消したのも……まさに、そのためだとも」
今明かされた、彼の真実。
「そんな。――でも、それとレースに出ている、あのジンジャーブレッドと、一体何の関係が」
今度はアインが、そう訪ねた。
確かに不治の病にかかり、もはやレースを続けられない状況
に陥ったのは事実だろう。
……しかし、それと今の状況が、どう結びつくのかは、分からない。
だがこれにも、理由があった。
ジンデの表情には、暗い陰が差す。そして説明を、続ける。
「もはやこの身体では……レースに出ることは叶わなかった。だが、それから数十年経とうとも……叶うことなら再び、常勝無敗の伝説のレーサーである、ジンジャーブレッドとしてレーサーに出れたらと――ずっと願っていた」
まだまだこれからであると言うのに、病によりたった三年で、突然選手生命を絶たれた彼。
考えれば、その未練は、並大抵のものではないはずだ。
「そんなさ中、ゲルベルト重工の人間がやって来た。
奴らが持ち掛けたのは……私の遺伝子サンプルと引き換えに、『ジンジャーブレッド』のレース復帰を提案した。
……目的は、私のクッキーを元にした、新型戦闘機の開発だ。だが、クッキーの人機一体システムは、並大抵の人間が扱える代物ではない。そこで私の脳髄の一部をクローンとして生産し、生体コンピューターとして搭載する予定……であったのだ」
「はんっ! 聞けば全く、ゾッとする話だぜ」
思わずティナも、嫌な表情を浮かべる。
ジョセフもその様子に、苦笑いする。
「これがゲルベルトのやり方さ。人間そのもののクローンは、社会的に禁じられているわけだが、その一部だけならギリギリセーフってわけだ。そしてジンジャーブレッドの脳を載せた戦闘機が、兵器として売れれる……と。
まぁ、ベットで子供に読み聞かせたい、話じゃあないな」
そんな会話をする、二人。
するとアインが――ある事に気づく。
「ですが、人間のクローンが禁止されているなら、あのジンジャーブレッドだって……」
彼の言葉に、ジンデもまた、頷く。
「ジンジャーブレッドの復帰とは、予め病となる要素を排除した私のクローンを生み出し、私に成り代わる……と言うことだ。
向こうもプロトタイプのブラッククラッカーを、操縦するパイロットが必要だった。彼は一つと言うわけだ。
代わりに私の存在は、なかった事にしてもらってな。病気にかかってからの記録も、ゲルベルト重工が手を回して全て削除して貰った。
つまり、事が上手く行けば、クローンの方が本物として、これから活躍することに、なるはずだったが……」
「ま、それもゲルベルトの逮捕によって、水の泡だね。
そうでなくても、クローンの身体には、限界があった。
確かに病気となる遺伝的要素は排除したものの、無理に改変を加えたせいでその身体は不安定。それに幾らクローンでも、オリジナルのように人機一体型のシステムを使いこなすには、至っていないようだった。
使う度に全身の負荷がかかり、このG3レースを行うだけでも、もはや精いっぱい。どの道上手く行く計画では、なかったんだ」
ジョンの言う通り、結局彼はゲルベルトに利用されていたに、すぎなかったのだ。
「……とにかく、この事をレーサーにも、伝えないとね。ゲルベルトの不正行為は、とっくに明らかにされた。もう最後の最後だけど、クライマックスぐらいは。ちゃんとやらせたいだろ?」
やはり辛そうな、ジンデではあったが……。
「私からも……そう願う。もはやこうなった以上、彼らには迷惑をかけられないからな」
「……ジンデ、さん」
ミオは気に掛けるも、これはもう、彼自身の問題だ。彼女が口を挟めることでは、ない気もした。
そしてジョンが、様子を見て、話しを切り出した。
「さて、と。そろそろ彼らにも、伝えることを、伝えないとね。
……思うことは、分からなくもないけど」
――――
それは、前半戦が始まる前の、出来事だった。
あの時フウマが、スカイガーデンポリスの格納区画で、ブラッククラッカーの中に入った時、そこにいたのは苦しそうに呻き、顔を抑えるジンジャーブレッドであった。
……そして、彼がフウマに顔を向けた、その時。
ジンジャーブレッドが見せた、顔の半分――恐らく激痛のあまり、かかじったせいなのだろう――、それは破けて皮膚がだらりと下にさがり、そこから若い青年の素顔が露わになっていた。
顔の半分は、壮年の男性であるのに対し、もう半分はそれよりもずっと若い、青年の顔。
それはあまりに――異質であった。
「ジンジャーブレッドさん。……その、顔は」
「――見たな」
息を荒らげながら、ジンジャーブレッドは睨む。
これに、戸惑うフウマ。
「でもこれは、一体何なのさ」
「いいから出ていけ。君には、関係な……ぐうっ!」
再び痛みが襲い、ジンジャーブレッドが苦しそうに胸をおさえる。
「大丈夫!? さっきから、ずっとそんな感じでさ……」
フウマは傍に駆け寄り、彼の容態を気に掛ける。
しばらく呼吸が乱れ、呻くも、再び落ち着いた様子のジンジャーブレッドは、申し訳なさそうな表情を見せる。
「……すまない。私のことを気にかけてくれたのに、な」
「僕は、気にしてないさ。それより――ジンジャーブレッドさんは、どうしたの?
もし辛いなら、医者に見てもらった方が……」
だが、ジンジャーブレッドは首を振る。
「いや、いい。これも私の身体に――ガタが来たにすぎない」
「ガタが来ただって!? どう言う、ことなのさ」
その問いかけに、彼は躊躇いを見せるも、覚悟を決めたように口を開く。
「仕方ない、か。……ここまで来たからには、話すしかあるまい」
そしてジンジャーブレッドは、自分の身の内を、話し始めた。
――――
「まさか……そんな事って」
ジンジャーブレッドの正体は、オリジナルのクローン。
そしてその目的は、ゲルベルトによる新型戦闘機のプロトタイプ、ブラッククラッカーのパイロット兼生体ユニットとしての役目を、果たすことにあった。
「だがそれが、事実だ。……だが、この事はどうか、他言無用に頼む」
「それはいいけど、でも、身体は――」
話によると、その身体はもう、限界に近いらしい。
恐らくこのレースを行えば、本当にどうなるか……。
「それでも、私はレースを続けたいのだ。
確かに、本物のジンジャーブレッドでは、ないかもしれない。
……しかし、一人のレーサとして、最後までやり遂げたい。ゲルベルトの思惑とは、関係なくな。
それに今は、私こそがジンジャーブレッドだ。その名を託されたからには、退くわけには、行くものか」
そう、経緯はどうであろうとも、彼の信念そして、レースにかける思いはまさに――レーサそのものだ。
まさに彼は、ジンジャーブレッド、あの伝説のレーサーの名を、引き継ぐだけの資格があった。
「……あなたは、そこまでして」
「もし君が、私と同じ境遇であったとて、きっと……同じ思いを抱くはずだ」
「それは――」
フウマには、返す言葉がなかった。
「つまり、こう言うことだ。
――これから、後半戦が始まる。フウマ、そこでまた君と戦いたい、どうか……また私と相手をしてくれると、約束して欲しい」
彼――ジンジャーブレッドは、深々と頭を下げる。
ここまで言われた以上、同じくレーサとして、返す言葉はたった一つ。
「分かった。レースの最後まで、共に頑張ろう」
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