テイルウィンド

双子烏丸

文字の大きさ
上 下
189 / 204
最終章 レースの決着

それぞれの、葛藤

しおりを挟む
――――

 あれから再び、部屋で過ごしていたミオたち。
 確かに部屋は、居心地の良いものではあるが、状況が状況……気分は良くなれない。
 それぞれ、様子を伺いながら、今後を考えていた四人。すると――
〈やぁ。皆さん、調子はどうかな?〉
 再び、ジョセフからの通信が届いた。
「……何だ、またジョセフかよ。こうして人質とお喋りするのも、依頼の一つって訳か?」
〈くくっ、つれない事を言うなよ、ティナ。せっかく君たちに、いい情報を持ってきたと言うのにさ〉


  ティナの嫌味に、ジョセフは含み笑いをして、こんな事を伝えた。
〈レーサー達は、こちらの条件を呑んでくれた。
 であれば……こちらも事をこれ以上大きくするのは、望んでいない。条件通りG3レースに負けてさえくれれば、君たちはちゃんと、無事に帰れるとも。
 ……ま、そのまま帰すのは不都合だから、ここでの記憶は全部消させてもらうことにはなるけどな〉
 これには、周囲に動揺が走る。
 ――そんな。フウマが……私のせいで――
 自分が人質になったせいで、フウマがレースを諦めることになった。ミオはそれに、ショックを受ける。
「……ごめんなさい、兄さん」
「まさか、こうなるとは。リッキー、すまないな」
 アインも、そしてリオンドもその気持ちはミオと同様だった。
 また。ティナも言葉は発しないものの、悔しげな様子で、拳を握っている。
〈おやおやおや、せっかく無事に帰れると言うのに、あんまり嬉しそうではないじゃないか。
 ……まぁ、レースよりも君たちが、無事でいることが彼らの喜びさ。気に病むことはない〉
 確かに、ジョセフの言うとおり。
 レースの勝利よりも、大切な人の安全――。レーサー達もそれを望むからこそ、この選択をしたわけだ。
 それでも……やはり。
「……こんな終わり方、あんまりだよ」
 ミオは辛そうに、一人呟いた。



 ――――

 レースは淡々とすすみ、ついにジンジャーブレッドをトップに、最終目的地である惑星サファイアの大気圏を、降下する。
 ――ついにここまで、来たか。だけど――
 フウマは、寂しげに、目の前に広がる大海原を眺める。
 ――もう僕たちには、関係ない……か――
 もはや、レースをしているわけではない。
 こんなのは、ただの、猿芝居にすぎない。
 過ぎないのだが……。


 ――それでも、ちゃんと負けないと……ね。ミオの無事が、かかっているんだからさ――
 大切な人の、運命がかかっている。せいぜい約束は、果さなければ。
〈……フウマ〉
 すると通信で、心配そうに封魔に、通信を送るシロノ。
「シロノ、か。まぁどうにか……元気だとも」
 フウマはシロノに、無理に笑ってみせた。
 それに対して――
〈フウマってば、無理をして。やはりそんな様子を見るのは、辛いですね。……私も人のことは、いえませんけど〉

 
「無理をしているのは、お互い様……だろ」
 こう言っているシロノであるが、彼もまた、無理をしていた。
〈そんなことありません。……と、言いたいところですが、弟を人質にとられたら、こうもなりますよ〉
 彼も彼で、弟が人質に取られていた。やはり心配なのだ。
「まさか、こんな事になるなんて、さ。
 僕やシロノだけじゃない。リッキーにマリンさん、フィナだって同じように、大切な人をとられているんだ。
 ジンジャーブレッドさんだって――」
 正面に映るのは、単調な飛行を続ける、ブラッククラッカー。
「彼も、大丈夫……なのかな」



 そう気に掛けるフウマに対し、シロノは……。
〈……フウマはどうして、ジンジャーブレッドの事まで。
 ゲルベルトのもとでレーサーとして出場し、彼もまた、これに少なからず関与しているはず。
 なのに――〉
 シロノはジンジャーブレッドを、責めていた。
 そしてフウマがそこまで、彼の肩を持つのか、分からなくもあった。
「それは……僕には、言えない」
 だが、フウマはそれに、答えることは出来ない。
〈一体、どうして?〉
「ジンジャーブレッドさんと、約束したんだ。……誰にも
、このことは言わないでくれって」
 どうやら、理由は言えないようだ。
 シロノはそれに、仕方がないと言うように、諦めを見せる。
「でしたら……仕方がないですね。まぁ、今はそれどころでないことも、事実ですしね。
 ……この事は、忘れることにしましょう」
 彼にはこの事に追及する、余裕もなかった。


 そしてまた、フウマも……
 ――本当に、僕に出来ることなんて、ないな。……情けないよ――
 出来ることと言えば、レースに負けることくらい。それでも……仕方がない、やれることはそれしかないのだから。




 ――――

 レースの実況を行う、レイ。
〈さて、G3レースはいよいよクライマックス!
 トップを飛行するワールウィンドにアトリ、クリムゾンフレイムとホワイトムーン、そして二位のテイルウィンドと一位のブラッククラッカーの六機は、ついに惑星サファイアへと戻って来たわ! ついに、決着が間近に迫った感じね〉
 横のモニターには、サファイア上空を飛行する、六機のレース機の姿が見える。
 トップのブラッククラッカーが先を行き、残り五機が後ろに固まった感じ、である。
「小惑星帯での勝負は白熱していたけど、ここに来てからは順位に変動は……ない感じね。少し変な感じもするけど、これもレースだから、仕方ないのかもね」
 

 やはりレイも、このレースには違和感を持っていた。
 やや不自然なまでの、勝負感のなさ……。気になってはいるものの――。
 ――でも、司会である私が、変なことは言えないしね。
 ここは……どうにか、場を持たせないと――
 気にはなるが……自分の立場上、どうしようもない。
「……優勝に近いのは、ジンジャーブレッドね! でも、レースは最後まで何が起こるかわからないもの! どうか最後まで、楽しんで行ってね!」
 とにかく今は、自分なりに出来ることを、しておきたいレイである。



 ――――
 
 部屋にはモニターも置かれており、ミオ達もまた、レースの様子を見ていた。
 人質をとられた、レーサーたち。このままではジンジャーブレッドの、優勝になるだろう。
「このままだと、フウマが負けちゃう。どうにかして、脱出してこの事を知らせないとだけど……」
 ミオは部屋のあちこちに、視線を移す。
 ――あれから、部屋の天井床や、通気口、壁や床など、どこかに抜け道がないか全員で探した。……だが無駄だった。
 ジョセフの言うとおり、ここは特別室、逃げられないよう部屋は厳重に、固められていた。


 誰も彼も、もう半分諦めかけている、そんな様子だった。
「はぁ、せめて外部と連絡を取れれば良いんだが、通信機器も没収されてしまっている。これでは、な」
 リオンドの言う通り、元々持っていた通信端末など、外と連絡を取る手段はすべて取り上げられていた。
 一方ティナは苛立って、蒲団を被る。
「けっ! 本当にムカつくぜ! どうすりゃいいってのさ」
「僕も、タブレットを取られてしまったんだ。せめてもう一つ、万が一のために別の通信機でも、用意しておけば……」



 と、そこまで話していたら、ふと突然何かを思い出したような表情を、アインは見せた。
「そうだ! 確か僕は……」
 彼は何か言いかけようとするも、慌てて口を閉ざす。
「どうしたのさアイン、そんな様子をして、気になるぜ」
 ティナはその様子に、気にする様子を見せる。
 するとアインは、盗聴を警戒し、小声である事を伝えた。


「外との通信だけど、僕なら何とか取れそう……なんだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マーメイド

奈落
SF
TSFの短い話です 肉体強化薬(水中) 非常用キットに納められた、本当の非常時にのみ使用が認められる肉体強化薬を使用したオレは…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...