テイルウィンド

双子烏丸

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第十一章 束の間の安寧と、そして――

乱闘

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「さて、と。大人しくしてもらおうじゃない」
 そしてブラッククラッカーの上では、相変わらず銃を向けあう二人。
「言われなくてもそうしているさ。……でも、ジョセフもそれは同じだろ? そっちこそ、いつまでそうしているわけにも、いかないはずさ」
 だが、ジョセフは可笑しそうに、ニヤリと笑う。
「銀河捜査局だって、バカじゃあない。とりわけ今は、あのヘンリックもここにいる、すぐにここも気づかれる。
 そうなれば……」
 これにはさすがのカイルも、苦々しい様子をちらと見せた。
 ――が、それでもまだ、彼には余裕があった。
「ふっ、それは僕も――困るな」
 

 途端、カイルの足から回し蹴りが繰り出され、ジョセフの手から銃を蹴り飛ばした。
「だからまだまだ、抵抗させてもらう!」
「そう来たっての!」
 再度銃を構えようとする、カイル。
 だが今度は、ジョセフはその前に彼を掴み、背負い投げで放り投げた!
「……くっ」
 投げ飛ばされたカイルは、ブラッククラッカーから落下しそうになる。
 ――しかし。
 落下する前に、機体の端を掴み、腕の力で跳躍。
 この際に武器となる光線銃を落したが、その勢いのまま彼はジョセフに、飛び蹴りを決めようとする。
 彼は腕の甲で蹴りを防ぐ。……が、その蹴りはかなりの威力。
「まだまだっ!」
 間髪入れず、カイルは卓越した格闘術で、彼を襲う。
 拳または足による蹴りに、突き、打撃――心得があるのか、拳法技を流れるように次々と繰り出す彼に、ジョセフは防御に回避、防戦一方となる。


 ――やはり、カイルは出来るな。さすが、フォード・パイレーツのキャプテン、と言う所かい?――
 何度も腕で攻撃を防いだために、痺れるような激痛で、僅かに呻きながらも、ジョセフは反撃の機会を伺う。
 と、ここでカイルの動きに、若干の隙が出来た。
 ――もらった!――
 ジョセフは渾身のストレートを、カイルの顔めがけて放つ。それはプロのボクサーに勝るとも劣らない、一撃――になるはずだった。
 しかし……彼はそれを間一髪で避けた。
「残念だったね」
 そして避けた次の瞬間、カイルは鋭い拳の一撃を、ジョセフの腹部にめり込ませた。
「かはっ!」
 会心の一発を受け、海老のようにくの字に曲がるジョセフ。
「悪いね、これ以上邪魔されるのは、いくら僕でも面倒だ。どこか適当な場所にでも、倒れていてよ」
 カイルはそう、勝利宣言のように言い放つ。……だが。
「今のは……かなり効いたぜ」
 それでもジョセフは、にいっと笑みを、彼に見せた。
 今のでノックアウトしたと思ったカイルは、驚く。彼はそんな顔に――思い切り頭突きを食らわせた。
「――ちぃっ!」
 それを食らったカイルは、後ろによろめく。
 

 二人の間には、幾らかの距離。
「……ててっ、俺の石頭、なかなか効いただろう」
 自身も痛むのか、少し顔をしかめながらジョセフは言う。
「まあね、ちょっと、クラっとしたさ」
 カイルもカイルで、まだ痛そうに額を押さえる。
「さてと。互いにまだ大丈夫そうだな。じゃあ、第二ラウンドと……参りましょうかね、カイル?」
「はっ!  それは望む所だ、と言いたい所だけど――!」
 そう彼は言い、向こう側に目を向けた、そこには……。


「銀河捜査局だ! お前たち、そこで何をしている!」
 見ると十数人の警備員とともに、銀河捜査局の捜査官とヘンリック、そしてゲルベルトの姿もあった。
「……おい!? 奴らは私の機体に、何をしている! 今すぐ阻止するんだ!」
「落ち着いて頂きたい、ヘンリックさん。――やはり現れたか、フォードパイレーツ。狙いは……ブラッククラッカーだとはな 急いで取り押さえろ!!」
 彼らはブラッククラッカーのもとへと、急ぐ。

 
「ようやく、銀河捜査局のお出ましか。さてとどうする、カイル、しっぽ巻いて逃げるか?」
 ジョセフの挑発に、カイルは答える。
「……ジョセフがそう言うなら、しっぽ巻いて逃げようかな。こうなった以上、困ったことになりそうだしね」
 だが……その瞬間、口角を上げてニイッと、彼は笑った。
「――だけど、このブラッククラッカーは、貰って行くよ!」
 と、カイルが言葉を切った瞬間、足元のブラッククラッカーがグラッと揺れた!
「うわっと!」
 思わず驚いたジョセフは、踏ん張って落ちないようにする。
 ……が、その隙にカイルは機体へと乗り込んだ。
〈さてと、ジョセフさん! そこにいると危ないから、離れた方がいいよ。
 ディアス達は、別の経路で脱出してくれたまえ〉
 広域通信で辺りにカイルの声が響き、本格的に動き出す、ブラッククラッカー。
 ジョセフもまた、危険と判断したのか、機体の上から飛び降りる。
 飛び降りた傍には、フウマもいた。
「まさか、カイルがブラッククラッカーを、動かすなんて――」
「まぁ、驚くのは分かるけどな。……だがフウマも、離れた方がいいぜ」
 ちなみにディアス達カイルの部下は、すでにこの場所から、姿を消していた。
 フウマ、ジョセフもその場から離れる。
 

 銀河捜査局らが、ようやくたどり着いた時にはもう、ブラッククラッカーは移動を始めていた。
「くっ……動き出したか!」
 この様子を見て、ヘンリックは呻く。
「だが、機体を動かせたところで格納区画の機構が動かせなければ……」
 そう思っていた彼だったが……。
 ブラッククラッカーは大型エレベーターに乗り込むと、途端、自動で動き出し上へと昇る。
 ――まさか、都市のシステムまで支配下に置くとは……やるな!――
 そうヘンリックは感心するも、今はそれどころではない。
「このままでは、ブラッククラッカーが奪われてしまうではないか! 急いで何とかしろ!」
「だから、落ち着くよう言っている。それでどうにも出来るものでは、ないだろうに。
 ……それより」
 と、ヘンリックはフウマとジョセフに目を移す。……そして。


「……うっ、うーん」
 すると、さっきまで気絶させられ、近くの壁に置かれていたマリンが、ようやく目を覚ました。
「あれ……私は、さっきジョンに気絶させられて」
 そんなマリンにも目を向け、ヘンリックは話す。
「さて、君たちは――なぜ、ここにいたのかね?」
「……それは」
 ヘンリックの問いに、フウマ、マリンは言いよどむ。
 服を盗んだ犯人を追いかけ、偶然この事件に巻き込まれたと、説明するわけにはいかなかった。
 何しろクレインの行動は、秘密にしておくと約束も、していたからだ。
「どうした? 何か、言えない理由でもあるのかな?」
 詰め寄るヘンリック、絶体絶命とも言った、その時……。
「いやぁ、それがこの二人は、自分たちの機体が心配だってことで、ここに来たって感じさ。
 何しろあんな騒ぎだ。何かあったらと気になるのは、当然だろう? それで俺は二人を心配してともについて来たんだが……その時、奴らとのトラブルに巻き込まれたって訳。
 いやー、まさか銀河捜査局が来てくれて、助かったさ」
 ジョセフは二人に代わって、そうヘンリックに話す。
 最も、当のヘンリックは、それに懸念を示す。
「……ジョセフか。
 お前がいると……いつも、ロクなことはない。今度は何のつもりか知らんが、一体誰がブラッククラッカーを盗んだ?」
 ヘンリックの問いに肩を竦めるジョセフ。
「奴らは、フォード・パイレーツの工作員だとも。あそこのキャプテンが何を考えているか知らんが、おそらくあの機体をご所望との事だろうよ」



 だが、そう話している間にも上へとのぼって行き、格納区画から出ようとするブラッククラッカー。
 これにヘンリックは、呻く。
「くっ、今から捜査局の機体を用意し、間に合うか――」
 彼が待機中の捜査官に出動命令を出そうとするさ中……ジョセフはその場から、離れようとしていた。
「……おい! 勝手にこの場を離れるな!」
 だが、ジョセフは制止するヘンリックに、悪戯気ににっと笑う。


「まぁ、細かいことはいいじゃないか。……それよりここは、オジサンに任せてくれよ?」

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