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第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕
ジンジャーブレッドの意思
しおりを挟む親善試合の最後に使用した最後の手段――『量子化次元加速ドライブ』を使えば、この状況など簡単に打開出来る。
それは彼のスポンサーかつ、ブラッククラッカーの開発を行った、ゲルベルト重工が生み出した特殊機関であった。
だがジンジャーブレッド自身も、簡単なその内容は、知っている。
量子化次元加速ドライブ――今までの推進機関とは根本的に異なる、超加速機関。
それには機体を量子に分解し、亜空間を通過し空間的近道を行うワープ機関の原理、この応用が使われている
言うなれば……通常推進機関と、ワープ機関の併用だ。
高度なコンピューター制御により期待の量子化を通常のワープの半分、つまり半量子化に留め、その工程の間に機体加速を最大にまで急上昇を行う。
無論、そんな中途半端な状態では、亜空間の通過は不可能である。……が、それでも通常空間と亜空間の境界線、そこまでなら辿り着ける。
量子化次元加速ドライブとは、半量子状態のまま、その境界線伝いに加速を行うものだ。もちろんワープのような短縮は不可能だが――通常の加速よりも遥かに高い速度の飛行を、可能にする。
当然、それは簡単なものでは、決してない。
加速の間、機体を半量子化に留めているための制御と、通常空間と亜空間の境界上への位置を維持するにも、高いコンピューターの処理能力が必要になる。
当然パイロットの通常の操縦では手に負えるわけがなく、その上コンピューターに求められるポテンシャルも、並大抵では足りない。
だが……この機体とジンジャーブレッドには、両者を直接繋ぐ、人機一体型の操縦システムが搭載される。
これにより彼の操縦内容はダイレクトに伝えられ、また人間の脳とコンピューターとの並立処理により、性能面を十二分に補っていた。
まさに、ジンジャーブレッドだからこそ、それが使用可能なのだ。
しかし……彼はそれの使用を、躊躇う。
確かに量子化次元加速ドライブは、強力なものだ。あまりに強力であるために……どんな状況でも容易に覆せる程の。
だからこそ、ジンジャーブレッドは使いたくなかった。
かつてはそんな訳の分からないオーバーテクノロジー紛いの物に頼らず、勝利を勝ち取ったのが現役のジンジャーブレッドだ。今更もってそれに頼るのは、彼のプライドが許さなかった。
何より――今戦っている相手、シロノとホワイトムーン、こんな物を使えば、同じくレースに賭けている者に対する……裏切りになると思った。
自らの誇りと、アイデンティティを守るために、ここで追い抜かれるわけにはいかない。
だが、それでも――何をしてもいいわけでは、ないはずだ。
少なからずの葛藤の末、ジンジャーブレッドはその使用を諦めた。
――そんな物に、頼らずとも私は……負けはしないさ!――
葛藤を振り切った、ジンジャーブレッド。激痛は今でも続くが……それでもその痛みさえ幾らか、軽くなった。
――――
再び勢いを取り戻したブラッククラッカーに、シロノは僅かに驚く。
ついさっきまでは、動きにも隙と遅れがやや目立ち、後一歩まで追い詰める事が可能なくらいであった。
しかし……今では、それも難しそうだ。
――さすがです、ジンジャーブレッド! 一時は心配しましたが……調子も戻ったみたいですね――
これで振り出しに戻りはした、が、シロノは悔しがることなく、むしろ安心しているようだった。
再度、ブラッククラッカーを攻めるも、先ほどまでの隙さえ、今では見えない。これでは……追い抜くのは難しい。
ディスプレイを見ると、その機体の先に、ぽつぽつと無数の物体が見える。
……あれは、惑星ルビーの周囲に存在する、小惑星群だ。更に先に赤く見える星こそが、トライジュエル星系の第二惑星のルビーである。
――あそこまで行かれては、猶更むずかしいでしょうね。それでも私は――
ブラッククラッカーと、ホワイトムーン、宇宙空間の中で二機は接戦を繰り広げる。
互いの動きは互角……と言いたい所だが、優位なのはブラッククラッカー、動きはそちらの方が一段程上だ。
――でも、そう来なくてはね。これでこそ……ジンジャーブレッドです!――
そして、二機は小惑星群へと入った。
周囲に無数に入り乱れる、岩石の塊、目の前のブラッククラッカーは、その中を潜り抜けて行く。
対するホワイトムーンは、それに比べて機動力に限界がある。
次第に距離を離されて行く、二機の間隔。
すると突然、その間に巨大な小惑星が割って入った。
突如現れた岩の壁を、機体は急上昇して避けた。……しかし、その先にはブラッククラッカーの姿はない。既に目視出来ない程に、遠ざかってしまったのだ。
これには、シロノもフッと笑う。
――ちょびっと残念ですけど、まだまだ始まったばかりですものね。まぁ、じっくり勝負をつけましょうか――
まだ焦るような状況ではない。勝負は、これからなのだから――
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