テイルウィンド

双子烏丸

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第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕

それぞれの戦い

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 ――――
 サファイアの空を飛ぶ、レース機体の数々……。
 シロノはさっそく、第三陣のグループに追いつこうとしていた。
 ――今回は、最初から本気を出させて頂きます!――
 いつもならもう少し様子を見る所だが、今回は相手が相手だ、はじめから順位を狙って行くことにする。
 やはりホワイトムーンは高性能機、加速度も十分に高く、第四陣として出発した中でも、良い順位に位置していた。


 しかし、ブラッククラッカーは更に先へと行っていた。
 恐らく、単純な加速度にはホワイトムーンに分はあった。だが、スタートダッシュ時の初期加速は、ジンジャーブレッドの方が優秀だ。
 その時点で、決して遠く離れている訳ではないが、距離を取られる結果となった。
 現在においても、ジンジャーブレッドとの距離は、ディスプレイで確認出来る


 今でも周囲に流れる気流へと上手く乗り、なかなか接近出来ずにいた。
 恐らく、現在の速度はほぼ、互角の状態。現にレーダーでも、ディスプレイ映像においても、その距離は殆ど変化は見られない。
 ――下手すると、ツインブルーの時よりも、ブラッククラッカーにとっては追い風なのでしょうね。……今のうちにリードして、優位に立つつもりでありましたが、厳しそうですね――
 だが、実際はホワイトムーンの方が、僅かに速度は上回ってはいた。このまま行けば、恐らく追いつくことは可能なはずだ。
 ……しかし、このままの状況が、いつまで続くか分からない。その間に――もし何か起こったなら……どうなるか。


 ――それに、どうやら他のレーサーも、似た考えらしい。
 他のレース機体、特に加速性能の高い機体が数機、同じように追って来ているのが見える。
 特に、マリンのクリムゾンフレイム、リッキーのワールウィンドの接近が確認できる。
 あの二機はそれこそ、加速型の機体だ。あの二人なら間違いなく、そう来るだろうと言うことはシロノにも想像出来た。
  ――ふむ、やはりと言うべきか……まぁ、簡単にいきませんよね。フフッ……まずはあなた達が相手です!――
 前髪を少しいじり、シロノは優雅に微笑んでみせた。
 



 ――――
 ――ふっ、シロノ! ここで会ったが百年目……ってね!――
 爛々と目を輝かせ、マリンは獲物を前にした肉食獣のように、舌なめずりする。
 ――親善試合ではシロノに花を持たせたけど、今回はそうはいかないわ! シロノにも、ジンジャーブレッドにも、それに他のレーサーにだって、私の行く手を阻ませはしない!――
 マリンはクリムゾンフレイムの高加速により、第四陣の中でも高位に立った。
 今傍にいるのは、シロノのホワイトムーンと、リッキーのワールワインドの二機。しかしマリンにとって、リッキーは眼中になかった。
 ここでの本命は――シロノただ一人。
  
 
 ホワイトムーン、クリムゾンフレイムは並び、僅か遅れてワールウィンドが飛ぶ。
 クリムゾンフレイムは高速で、前方のホワイトムーンを追い抜こうとする。
 ……が、二機の速度はほぼ互角、まだ一手足りない。
 親善試合で対ジンジャーブレッドに使った奥の手、超加速機構、システム・スパークラーを使う手もあった。
 何しろ、G3レースは前半、後半と二レースに分かれている。例え今使ったとしても、メンテと補修さえ行う時間があるなら、後半戦でも使う分は残っている。
 しかし、何となくマリンは、それを使うのを躊躇った。
 なんとなく……まだ使う時ではないように、思えたからだ。
 ――我ながら、変な理由ね。でも――
 マリンはやや忌々しげに、後ろを追うワールウィンドを見た。
 ワールウィンドの速度も高く、気を抜けば抜かされてしまいそうだ。
 

 ――厄介じゃない。私とシロノの間に割って入られているのは癪だけど、その腕と機体は、認めてあげるわよ――
 何だかんだと、ワールウィンドと……レーダーの表示によればそのパイロット、リッキーの腕前は、評価していた。
 しかし、いつまでもこの状態を、引き伸ばすわけにもいかない。
 だが今の環境のままでは、決定的な変化が起こる事など期待も出来ない。
 ……何とか、この状況を打開しないと。
 マリンがそう考えていたさ中、前方に黒い影が現れた。
 白く、巨大に発達した、積乱雲が海上を覆う――。海と雲の狭間は闇に覆われ、稲妻が幾筋も走り、風の唸りまでも感じさせるほどに、吹きすさぶ嵐の中にあった。
 ――これは、面白いわね。……さてとシロノ、それにリッキーと言うレーサーさん、一体どう出るのかしらね――
 ただ、それと同時に少し、考える所もあった。
 ――でも、いつも通りにやっているだけでは、ダメな気もするんだよね。結局、一度もシロノに勝てていないし。いっそのこと――
 


 ――――
 先を行った、ホワイトムーンと、クリムゾンフレイム。
 眼下に広がるのは、まるで雪景色を思わせるような白い雲海、雲中には稲光が走る様子が見てわかる。
 ――若いもんだな、あの二人、随分と勝負に出るじゃないか! まぁ、分からなくもないがな――
 はるか上空、積乱雲の真上を迂回するワールウィンド、嵐の中を突っ切るよりは遠回りにはなるが、それも戦略の一つ。
 何しろ、あの嵐の規模は激しく、無事に抜けられる保証もなかった。
 最も――単純な気流の激しさは、ツインブルーなどのガス惑星には幾らか劣る。
 だが、その分テラフォーミングされた惑星特有の、ガス惑星以上の重力と、激しい雨、加えて激しい稲妻がある。
 リッキー自体も、重力下でのレースには、慣れている訳でもない。
 ここは無難な方法を、彼は取ろうとしたわけだが……



〈ふっ、リッキーさん! なかなかやるじゃないか!〉
「そっちもな、ジョン!」
 何機も飛行するレース機体の中、リッキーのワールウィンドと、ジョンのスワローは競う。
 互いに速度も互角に近く、いい感じに接戦を繰り広げる。
 白い雲の中を幾度も抜け、途中、他の機体……先に出発した第三陣のレース機も含め、何機も抜いて行く。
 ワールワインドは加速が高いが、やはり重量がある。スワローは軽量で、また機動力も高い。
 スワローはその名通り、さながらツバメのように雲海すれすれに、流れるように飛行し、嵐の影響により流れる気流に乗り、本来の加速を上増しさせていた。
 今はやや、ジョンの方が優勢だ。僅かではあるが、スワローがリードしており、ワールウィンドが追跡する感じとなる。
「見た感じ、元々は戦闘機の類か? 随分良い機体だ」
〈ふっ、ちょっとしたルートで入手したのさ。リッキーの機体も悪くないけど、こっちの方に分があるね、ここでは僕が頂きかな?〉
「甘いぜ小僧! 前のシュトラーダならともかく、ワールウィンドの大気圏飛行の適性は悪くないぜ?」
 ワールウィンドも、どうにか気流の流れを上手く掴んだらしい、相乗効果で速度を増し、スワローに並ぶ。


「ふっ! やろうと思えばこれぐらいはな!」
 何とか同等に並び、リッキーはニッと笑う。
〈さすがに、やるときはやるね。でも、僕だって……〉
 二人の対決がヒートアップした、その時だった。



 突如、雲海から現れ、その前へと現れる黄金色の二機の機体。
 それはフィナとティナの乗機、アトリとヒバリの姿だった。
 機体から届いた通信を入れると、そのパイロットである双子が、モニターに現れた。
〈ハハッ! 久しぶりじゃあないか、リッキー! 親善試合ぶりだな!〉
〈こんなところで会うなんて、リッキーさん、私たちが相手です〉
 リッキーは通信越しに、双子に余裕の表情を見せる。
「これは、嬢ちゃん達じゃあないか! ほう? なかなかやるじゃないかよ」
〈相手が可愛い女の子だって油断してると、後悔するぜ! 今みたいにな!〉
 事実、アトリ、ヒバリはワールウィンドの先を行っていた。
 飛び方は、速度はスワローのそれに近いが、統率の取れた二機の動きに阻まれ、ワールウィンド、スワローは先を越せずにいた。


「ちっ! 何てコンビネーションだ!」
〈全くだね。……僕とリッキー、二人がかりでも難しいよ〉
 リッキーとジョンは、フィナとティナの動きに翻弄され、行く手を阻まれる。
〈当然です、私たちの絆を、甘く見ないで下さい〉
 一見内気なフィナ、しかしレースになると、姉のティナほどではないにしろ、強気な様子を見せた。
〈その通り! ……まぁ、あの下の嵐は、危ないからな。さっきまでアイツと競っていたんだが、ちょっと厳しいから抜けてきた所、アンタ達とご対面! と言うわけさ!
 ……にしても、アイツもよくやるよ。あんな中を飛び続けるなんてさ〉
 見ると、雲海から続々と、他の機体が脱出するのが見える。よほど……嵐は激しいのだろう。
「アイツ? 一体、誰の事だよ?」
 リッキーの問いに、ティナは高笑いした。
〈何だリッキー! 知らないのかよ、アンタだってよく知っている人間だぜ?
 ふっ、可愛い顔してよくやるよ、あの生意気小僧は!〉
「生意気小僧だって! って事はあいつ……」
 これを聞いたリッキーは、ある人物を思い浮かべた。それは――


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