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第八章 本番へ――
赤き瞳
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――――
「あれは……テイルウィンドに似ている? いや、それよりずっと、図体が大きく頑丈そうだけど」
〈これが、リッキーさんの機体ですよ。その名も……〉
〈――ワールウィンド、俺の新たな翼だ!〉
突然、通信に割り込んで来たリッキーは、自慢げに宣言した。
フウマは興味津々に、ディスプレイに映される、ワールウィンドの姿を眺める。
「ワールウィンド……ね。随分と、いい機体じゃん」
〈へへっ! ありがとな、フウマ! だが……いくら褒めても、レースでは、手加減しないぜ?〉
そんなリッキーに、相変わらずフウマは強気な様子を見せる。
「はっ! それはこっちの台詞さ! いい機体なのは認めるけど、機体を替えたばかりで操縦は慣れたのかよ? 機体の不慣れで負けたなんてナシだよ」
〈心配ご無用だ。見た目はこんな感じだが、操縦系統は前の機体と殆ど同じさ。
まぁ、機体のバランスなんか色々と、微妙に違う所があるが……それはハンデって事にしておくぜ〉
やはり彼は彼で、相変わらずだった。
「さてと――今はそろそろ、開催地へ向かおうか。どっち道僕たちの行き先は、同じだろ? 話がしたいなら、道中にでも聞くよ」
シロノも同意する。
〈旅は道連れ、世は情けと言いますしね。折角の機会ですし、三人で一緒に向かうのも、悪くありません。まぁ一人で長い間……航行するのも退屈ですものね〉
行先は、最大の宇宙レース――G3レースの開催地。
三機は次々とワープ機関を作動させる。
量子化を示す銀色の輝きが機体を包み込み、機体の輝きが一瞬、目視出来ない程増した。
そして光の消えた次の瞬間には、その姿は通常空間から掻き消えた。
――――
とある宇宙船のブリッジにて……。
ゲルベルト重工から訪れたスーツ姿の代理人が、目の前にいる何者かに、深々と頭を下げる。
「これはこれは……私共の依頼を受けて下さり、誠にありがとうございます。会長も貴方の仕事に、心からの感謝と期待をしておられる事でしょう」
しかし、誰とも知れない何者かの人影は、代理人の姿を見もせず、ブリッジから臨む宇宙空間を眺める。
人影は鋭い、澄んだ声で返答をする。
「……ああ、報酬は十分だからな。それに他の同業者に、仕事を奪われるのも、癪だ」
「ええ、そうでしょうとも。残りの報酬は、貴方の働き次第で上増ししましょう。私共の仕事を上手く行ってくれれば…………まぁ、それは要らぬ心配でしょう」
対するネチネチとした、胡散臭いセールスマンの声。この代理人はかつて親善試合で、ジンジャーブレッドとも話していた代理人と、同一人物であった。
「……俗物めが」
そんな代理人を不快に思い、人影は小さく舌打ちをする。
「いいだろう。――依頼は、今からこの宙域を通過する、レース機体の足止めか捕獲。要するに……G3レースとやらに、参加させなければ良いのだろう? 理由は何故か、気にはなるがな」
「その通りでございます。だが、理由は、お聞きなさるな。貴方にとってもレースなどの些事、関係ありますまい?
――ただ貴方は、我々の依頼する仕事をこなしてくれれば、それでいいのですよ」
途端、人影は強く気に障ったのか、代理人を睨む。
その瞳は普通の眼ではない。機械による義眼の、赤いセンサーの輝きを見せた。
「ひっ!」
代理人は怖気づき、小さく叫び声を上げてたじろぐ。
「まぁ、言いたくないなら構わん。依頼されたからには……仕事をさせてもらうさ」
興味を失くしたように人影は、このつまらない男から、再び視線を外して宇宙を眺める。
「あれは……テイルウィンドに似ている? いや、それよりずっと、図体が大きく頑丈そうだけど」
〈これが、リッキーさんの機体ですよ。その名も……〉
〈――ワールウィンド、俺の新たな翼だ!〉
突然、通信に割り込んで来たリッキーは、自慢げに宣言した。
フウマは興味津々に、ディスプレイに映される、ワールウィンドの姿を眺める。
「ワールウィンド……ね。随分と、いい機体じゃん」
〈へへっ! ありがとな、フウマ! だが……いくら褒めても、レースでは、手加減しないぜ?〉
そんなリッキーに、相変わらずフウマは強気な様子を見せる。
「はっ! それはこっちの台詞さ! いい機体なのは認めるけど、機体を替えたばかりで操縦は慣れたのかよ? 機体の不慣れで負けたなんてナシだよ」
〈心配ご無用だ。見た目はこんな感じだが、操縦系統は前の機体と殆ど同じさ。
まぁ、機体のバランスなんか色々と、微妙に違う所があるが……それはハンデって事にしておくぜ〉
やはり彼は彼で、相変わらずだった。
「さてと――今はそろそろ、開催地へ向かおうか。どっち道僕たちの行き先は、同じだろ? 話がしたいなら、道中にでも聞くよ」
シロノも同意する。
〈旅は道連れ、世は情けと言いますしね。折角の機会ですし、三人で一緒に向かうのも、悪くありません。まぁ一人で長い間……航行するのも退屈ですものね〉
行先は、最大の宇宙レース――G3レースの開催地。
三機は次々とワープ機関を作動させる。
量子化を示す銀色の輝きが機体を包み込み、機体の輝きが一瞬、目視出来ない程増した。
そして光の消えた次の瞬間には、その姿は通常空間から掻き消えた。
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とある宇宙船のブリッジにて……。
ゲルベルト重工から訪れたスーツ姿の代理人が、目の前にいる何者かに、深々と頭を下げる。
「これはこれは……私共の依頼を受けて下さり、誠にありがとうございます。会長も貴方の仕事に、心からの感謝と期待をしておられる事でしょう」
しかし、誰とも知れない何者かの人影は、代理人の姿を見もせず、ブリッジから臨む宇宙空間を眺める。
人影は鋭い、澄んだ声で返答をする。
「……ああ、報酬は十分だからな。それに他の同業者に、仕事を奪われるのも、癪だ」
「ええ、そうでしょうとも。残りの報酬は、貴方の働き次第で上増ししましょう。私共の仕事を上手く行ってくれれば…………まぁ、それは要らぬ心配でしょう」
対するネチネチとした、胡散臭いセールスマンの声。この代理人はかつて親善試合で、ジンジャーブレッドとも話していた代理人と、同一人物であった。
「……俗物めが」
そんな代理人を不快に思い、人影は小さく舌打ちをする。
「いいだろう。――依頼は、今からこの宙域を通過する、レース機体の足止めか捕獲。要するに……G3レースとやらに、参加させなければ良いのだろう? 理由は何故か、気にはなるがな」
「その通りでございます。だが、理由は、お聞きなさるな。貴方にとってもレースなどの些事、関係ありますまい?
――ただ貴方は、我々の依頼する仕事をこなしてくれれば、それでいいのですよ」
途端、人影は強く気に障ったのか、代理人を睨む。
その瞳は普通の眼ではない。機械による義眼の、赤いセンサーの輝きを見せた。
「ひっ!」
代理人は怖気づき、小さく叫び声を上げてたじろぐ。
「まぁ、言いたくないなら構わん。依頼されたからには……仕事をさせてもらうさ」
興味を失くしたように人影は、このつまらない男から、再び視線を外して宇宙を眺める。
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