テイルウィンド

双子烏丸

文字の大きさ
上 下
33 / 204
第三章 新たな強敵(ライバル)達 

親父とその息子

しおりを挟む

 フウマ、ミオ、リッキー、そして先ほど会った男性の四人は、エレベーターに乗ってコロニー最上階へと向かう。
 スペースコロニーに代表される宇宙空間の巨大建造物では、エレベーターで上へと昇るにも時間が掛かる。
「君の活躍は、遠くからでも耳にしているよ。たったの数年で随分と結果を出したそうじゃないか」
 男性は親しげに、フウマに話す。
「――ありがとうございます。けど僕がここまで来れたのは、リオンドさんがいたからです。僕をレーサーとして育ててくれたのも、あの機体、テイルウィンドを譲ってくれたのも……」
 フウマは男性――リオンドに、謙遜した表情を見せた。
「私はただ、きっかけを与えたにすぎないさ。こうして立派なレーサーになれたのは、ひとえに君の才能があったからだ。私の目に、狂いは無かったと言う事だな」
「ちなみに、リオンドさんはどうしてここに?」
「ああ、今では私は宇宙レースの実況者として転身してな、これでも結構有名になったんだ。そしてこのG3レースでも、私が実況を任された訳さ」
 そうリオンドが自慢げに話す傍ら、リッキーは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「…………ふん」
「どうしたリッキー? 何だか不満そうだな」
「……いや別に」
 リッキーはそう言い、顔を背けた。
 ――そうやって俺をないがしろにするのは、いつもの事だと思っただけさ――
 心の中で一人、父親に毒づきながら。


 それからエレベーターは、何度も人の乗り降りを繰り返しながら、しばらくの間上り続けた。
 やがて、目的地である最上階へと辿りつく。
 コロニーの最上階、それは車輪のようなコロニー中央に位置する構造体である、ハブの頂上だ。
 そこは円形の会場となっておりオープンセレモニーにはまだ時間があるにも関わらず、既にそこには大勢の観客が集まっていた。中央には太い柱と、上部に球体型の装置が取り付けられた、高性能投映機が設置されていた。
 天井には、半球体の透明なドームがある。おそらく、試合が始まると中央の投映機を使用し、さながらプラネタリウムのようにドームの内側に、レース映像を映写するのだろう。
 透明なドームからは今、外の宇宙空間が一望出来た。
「……それでは三人とも、もう会場へと着いた事だ、私はこれで失礼するよ」
「えっ、もう行くんですか?」
「ああ、実況の仕事もあるからな。それに……今は私がいない方が、彼にとっても良いだろう」
 そう話しながらリオンドは、リッキーの姿を横目に見た。
 彼は相変わらず、リオンドの存在を無視している。
 リオンドは三人にじゃあなと別れを言うと、人込みの中に消えた。 



 その姿が見えなくなるのを確認すると、先程まで黙っていたリッキーは、はぁと溜息をついて二人に詫びを入れた。
「悪いな、かっこ悪い所見せちまって。……フウマ、これでもうお前を子供扱いなんて出来ないな。
 昔から俺は、親父とまともに口を聞いた事すらなかった。親父は俺に対していつも無関心で、いつもレースの事ばかりだった。俺がレーサーになろうとした理由も、親父に構って貰いたかったからだ。なのに、親父は見向きもしなかった……。そのまま俺は大人になって、尚更親父と話す機会はなくなった。久しぶりの再会だ、今度こそは…………ちゃんと話がしたいと思った。親父がお前の事を認めた事についても、もう割り切ったつもりだった、それなのに……。俺の方が……余程ガキみたいじゃないか」
 かなり落ち込んだ様子で、リッキーは話す。
「……リッキー」
「悪いが、しばらく……一人にしてくれないか? 目的地に着いたんだ、ここまで来れば、後は二人でも大丈夫だろうからな」
 そう言うとリッキーは返事を聞かずに、フウマ達から離れて、何処かに行った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

宇宙を渡る声 大地に満ちる歌

広海智
SF
九年前にUPOと呼ばれる病原体が発生し、一年間封鎖されて多くの死者を出した惑星サン・マルティン。その地表を移動する基地に勤務する二十一歳の石一信(ソク・イルシン)は、親友で同じ部隊のヴァシリとともに、精神感応科兵が赴任してくることを噂で聞く。精神感応科兵を嫌うイルシンがぼやいているところへ現れた十五歳の葛木夕(カヅラキ・ユウ)は、その精神感応科兵で、しかもサン・マルティン封鎖を生き延びた過去を持っていた。ユウが赴任してきたのは、基地に出る「幽霊」対策であった。

【完結】Transmigration『敵陣のトイレで愛を綴る〜生まれ変わっても永遠の愛を誓う』

すんも
SF
 主人公の久野は、あることをきっかけに、他人の意識に潜る能力を覚醒する。  意識不明の光智の意識に潜り、現実に引き戻すのだが、光智は突然失踪してしまう。  光智の娘の晴夏と、光智の失踪の原因を探って行くうちに、人類の存亡が掛かった事件へと巻き込まれていく。  舞台は月へ…… 火星へ…… 本能寺の変の隠された真実、そして未来へと…… 現在、過去、未来が一つの線で繋がる時…… 【テーマ】 見る方向によって善と悪は入れ替わる?相手の立場にたって考えることも大事よなぁーといったテーマでしたが、本人が読んでもそーいったことは全く読みとれん… まぁーそんなテーマをこの稚拙な文章から読みとって頂くのは難しいと思いますが、何となくでも感じとって頂ければと思います。

†ブラックボックス・ネスト†

猩々飛蝗
SF
ちくわぶアンソロジー企画参加作。猩々飛蝗に「テーマがちくわぶなら何してもいいよ」って言っちゃうとこうなる。

DOLL GAME

琴葉悠
SF
 時は新暦806年。  人類の住処が地球外へも広がり、火星、木星、金星……様々な惑星が地球人の新たな居住地となっていた。  人々は平和を享受していたが、やがてその平和も終わりをつげ新たな戦争の時代に入った。  「代理戦争」。自らが行うのではなく、他者に行わせる戦争だった。  そしてその戦争の中で、新たな兵器が生み出された。  「DOLL」。大型特殊兵器であった。  人間の姿をモデルに作られた「DOLL」は、今までの陸上兵器とも、水上兵器とも、飛行兵器とも違う、画期的な兵器だった。  戦争は「DOLL」を使った戦争へと変化した。  戦争が表面上終結しても、「DOLL」はその存在を求められ続けた。  戦争により表面化した組織による抗争、平和を享受してきた故に求めていた「争い」への興奮。戦いは幾度も繰り返される、何度も、尽きることなく。  人々は「DOLL」同士を戦わせ、それを見ることに熱中した。  その戦いは「DOLLGAME」と呼ばれ、大昔のコロシアムでの戦いを想像させる試合であった。勝敗は簡単、相手の「DOLL」を戦闘不能にすれば勝ち。  その「DOLL」を操縦するものは「人形師」と呼ばれ、人々の欲望の代理人として戦っていた。  「人形師」になる理由は人それぞれで、名誉、金、暇つぶし等が主だった。  その「人形師」の中で、自らの正体を隠す「人形師」がいた。  パイロットスーツに身を包み、顔を隠し、黙々と試合を行い、依頼をこなす。  そんな「人形師」を人々は皮肉にこう呼んだ。  「マリオネット」と。

サイバーパンクの日常

いのうえもろ
SF
サイバーパンクな世界の日常を書いています。 派手なアクションもどんでん返しもない、サイバーパンクな世界ならではの日常。 楽しめたところがあったら、感想お願いします。

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

15分で時間が解決してくれる桃源郷

世にも奇妙な世紀末暮らし
SF
 住まいから15分で車を使わず徒歩と自転車または公共交通手段で生活、仕事、教育、医療、趣味(娯楽)、スポーツなどを日常における行動機能にアクセスできる都市生活モデル。そして堅実なセキュリティに広大なデジタルネットワーク。それを人々は「15分都市」と呼んだ。しかし、そんな理想的で楽園のように思われた裏側にはとんでもない恐ろしい内容が隠されていた。

処理中です...