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第三章 新たな強敵(ライバル)達
親父とその息子
しおりを挟むフウマ、ミオ、リッキー、そして先ほど会った男性の四人は、エレベーターに乗ってコロニー最上階へと向かう。
スペースコロニーに代表される宇宙空間の巨大建造物では、エレベーターで上へと昇るにも時間が掛かる。
「君の活躍は、遠くからでも耳にしているよ。たったの数年で随分と結果を出したそうじゃないか」
男性は親しげに、フウマに話す。
「――ありがとうございます。けど僕がここまで来れたのは、リオンドさんがいたからです。僕をレーサーとして育ててくれたのも、あの機体、テイルウィンドを譲ってくれたのも……」
フウマは男性――リオンドに、謙遜した表情を見せた。
「私はただ、きっかけを与えたにすぎないさ。こうして立派なレーサーになれたのは、ひとえに君の才能があったからだ。私の目に、狂いは無かったと言う事だな」
「ちなみに、リオンドさんはどうしてここに?」
「ああ、今では私は宇宙レースの実況者として転身してな、これでも結構有名になったんだ。そしてこのG3レースでも、私が実況を任された訳さ」
そうリオンドが自慢げに話す傍ら、リッキーは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「…………ふん」
「どうしたリッキー? 何だか不満そうだな」
「……いや別に」
リッキーはそう言い、顔を背けた。
――そうやって俺をないがしろにするのは、いつもの事だと思っただけさ――
心の中で一人、父親に毒づきながら。
それからエレベーターは、何度も人の乗り降りを繰り返しながら、しばらくの間上り続けた。
やがて、目的地である最上階へと辿りつく。
コロニーの最上階、それは車輪のようなコロニー中央に位置する構造体である、ハブの頂上だ。
そこは円形の会場となっておりオープンセレモニーにはまだ時間があるにも関わらず、既にそこには大勢の観客が集まっていた。中央には太い柱と、上部に球体型の装置が取り付けられた、高性能投映機が設置されていた。
天井には、半球体の透明なドームがある。おそらく、試合が始まると中央の投映機を使用し、さながらプラネタリウムのようにドームの内側に、レース映像を映写するのだろう。
透明なドームからは今、外の宇宙空間が一望出来た。
「……それでは三人とも、もう会場へと着いた事だ、私はこれで失礼するよ」
「えっ、もう行くんですか?」
「ああ、実況の仕事もあるからな。それに……今は私がいない方が、彼にとっても良いだろう」
そう話しながらリオンドは、リッキーの姿を横目に見た。
彼は相変わらず、リオンドの存在を無視している。
リオンドは三人にじゃあなと別れを言うと、人込みの中に消えた。
その姿が見えなくなるのを確認すると、先程まで黙っていたリッキーは、はぁと溜息をついて二人に詫びを入れた。
「悪いな、かっこ悪い所見せちまって。……フウマ、これでもうお前を子供扱いなんて出来ないな。
昔から俺は、親父とまともに口を聞いた事すらなかった。親父は俺に対していつも無関心で、いつもレースの事ばかりだった。俺がレーサーになろうとした理由も、親父に構って貰いたかったからだ。なのに、親父は見向きもしなかった……。そのまま俺は大人になって、尚更親父と話す機会はなくなった。久しぶりの再会だ、今度こそは…………ちゃんと話がしたいと思った。親父がお前の事を認めた事についても、もう割り切ったつもりだった、それなのに……。俺の方が……余程ガキみたいじゃないか」
かなり落ち込んだ様子で、リッキーは話す。
「……リッキー」
「悪いが、しばらく……一人にしてくれないか? 目的地に着いたんだ、ここまで来れば、後は二人でも大丈夫だろうからな」
そう言うとリッキーは返事を聞かずに、フウマ達から離れて、何処かに行った。
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