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第5章
もっともっと好きなこと
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「けれど、チロルは本当に優秀な犬でお行儀が悪い事は一切しませんでした。その代わり、お散歩に行かなくなってしまった。お母さんからその話を聞いて、杏里さんは困惑した筈です。けれど一方で、こうも思った。これは、チャンスだ。だって、めったにお父さんに相談しないお母さんが自ら連絡を取ったのですから。宇都さん、チロルがお散歩に行かなくなった頃、時々玩具を壊しているとおっしゃっていましたね。あれをしたのは、チロルじゃありません。お父さんとお母さんに仲直りして欲しかった学校帰りの杏里さんです」
「……杏里」
「ごめんなさい!」
杏里ちゃんが視線を私に向けて、頭を下げた。
「チロルが散歩に行かなくなって、けどお母さんがお父さんに電話をしてくれて、ラッキーだと思ったの。チロルが玩具まで壊すようになったら、お母さんお父さんの所にチロルを連れてくるんじゃないかって。けど、段々怖くなった。チロルはどうしてお散歩に行かないんだろう。病気かも知れない。どうしよう、私がメロンパンあげたからかな、とか思って。そうしたら今度はお母さんと同じ会社の人が預かってからそうなったって話になって。……言い出せなくなって」
泣きそうな顔の杏里ちゃんがもう1度、消えいりそうな声で言った。
「ごめんなさい」
私は何と言葉をかけてあげればいいか分からなかった。いいよ、大丈夫。気にしないで。どれが正解なんだろう。
私は困って、マリさんの方を向いた。
マリさんは私達を見て、微笑んでいる。
ー……ああ、そうか。
私は気づく。
許す事って、笑顔になるって事だ。
相手を安心させてあげるって事だ。
そう思ったら自然と口角が上がった。
「ありがとう、杏里ちゃん」
私の言葉に杏里ちゃんの目が不思議そうに瞬く。
「正直に話してくれて。勇気を出してくれて、ありがとう」
人から疑われるのは辛い。
信じてもらえないのはすごく悲しい。
でも、心の中に抱えていた秘密をこうして杏里ちゃんは打ち明けてくれた。謝ってくれた。
その誠実さに感謝したい。
その気持ちを大事にしたい。
私は杏里ちゃんに手を差し出す。
「杏里ちゃんが本当の事を伝えてくれて私、嬉しいんだ。だからね、握手してくれる?」
杏里ちゃんがこくん、と頷いて手を差し出す。
私はその手をきゅっと握り返した。
杏里ちゃんの表情から緊張が少しとれた気がした。
そんな私達を見遣って、立ち尽くした宇都さんは口を閉ざしている。
柊真君がマリさんを見遣り、それからそっと宇都さんに声をかけた。
「宇都さん、どうぞ座ってください。ウチのオーナーの話はまだ終わっていないみたいです」
促された宇都さんが、元の席に腰を下ろす。
それを見守って、マリさんは口を開いた。
「柊真君の言う通り、この話はこれで終わりではありません。チロルが散歩に行かなくなった、その原因ですが」
「……お分かりになるんですか?」
マリさんにそう問いかける宇都さんの言葉は先程とは打って変わって、覇気がなかった。
「結論から言うと、チロルは散歩に行きたくないのではなく散歩に行くより優先したい事があったんです」
「散歩に行くより優先したい事?」
「……杏里」
「ごめんなさい!」
杏里ちゃんが視線を私に向けて、頭を下げた。
「チロルが散歩に行かなくなって、けどお母さんがお父さんに電話をしてくれて、ラッキーだと思ったの。チロルが玩具まで壊すようになったら、お母さんお父さんの所にチロルを連れてくるんじゃないかって。けど、段々怖くなった。チロルはどうしてお散歩に行かないんだろう。病気かも知れない。どうしよう、私がメロンパンあげたからかな、とか思って。そうしたら今度はお母さんと同じ会社の人が預かってからそうなったって話になって。……言い出せなくなって」
泣きそうな顔の杏里ちゃんがもう1度、消えいりそうな声で言った。
「ごめんなさい」
私は何と言葉をかけてあげればいいか分からなかった。いいよ、大丈夫。気にしないで。どれが正解なんだろう。
私は困って、マリさんの方を向いた。
マリさんは私達を見て、微笑んでいる。
ー……ああ、そうか。
私は気づく。
許す事って、笑顔になるって事だ。
相手を安心させてあげるって事だ。
そう思ったら自然と口角が上がった。
「ありがとう、杏里ちゃん」
私の言葉に杏里ちゃんの目が不思議そうに瞬く。
「正直に話してくれて。勇気を出してくれて、ありがとう」
人から疑われるのは辛い。
信じてもらえないのはすごく悲しい。
でも、心の中に抱えていた秘密をこうして杏里ちゃんは打ち明けてくれた。謝ってくれた。
その誠実さに感謝したい。
その気持ちを大事にしたい。
私は杏里ちゃんに手を差し出す。
「杏里ちゃんが本当の事を伝えてくれて私、嬉しいんだ。だからね、握手してくれる?」
杏里ちゃんがこくん、と頷いて手を差し出す。
私はその手をきゅっと握り返した。
杏里ちゃんの表情から緊張が少しとれた気がした。
そんな私達を見遣って、立ち尽くした宇都さんは口を閉ざしている。
柊真君がマリさんを見遣り、それからそっと宇都さんに声をかけた。
「宇都さん、どうぞ座ってください。ウチのオーナーの話はまだ終わっていないみたいです」
促された宇都さんが、元の席に腰を下ろす。
それを見守って、マリさんは口を開いた。
「柊真君の言う通り、この話はこれで終わりではありません。チロルが散歩に行かなくなった、その原因ですが」
「……お分かりになるんですか?」
マリさんにそう問いかける宇都さんの言葉は先程とは打って変わって、覇気がなかった。
「結論から言うと、チロルは散歩に行きたくないのではなく散歩に行くより優先したい事があったんです」
「散歩に行くより優先したい事?」
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