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第3章
先輩について
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「宇都さんには娘さんがいます。でも、旦那さんは―……」
言いよどむ私に柊真君が「もしかして」と後を引き取った。
「死別されてるんですか?」
「あ、ううん。違うの。生きていらっしゃるの。だけど、3年くらい前……だったかな。離婚されて。今は宇都さんは1人暮らしをされている筈です」
「え、娘さんは?」
花梨ちゃんの呟きにも似た問いに私は答える。
「旦那さんが引き取ったみたいなの。元々パパっ子だったから、って宇都さんは言っていました。娘さんとの関係は良好みたいです。宇都さんの家に遊びに来ることもあるって言っていましたから」
「娘さんは自由に宇都さんの家に出入り出来るんでしょうか?」
「どうかなぁ。でも、出来ると思います。以前、今日は娘が泊まりに来るから早く帰らなきゃと嬉しそうだった事があるので。合鍵を渡しているんじゃないでしょうか」
「マリさんは娘さんが怪しいと思ってるんですか?」
私が聞きたかった事を柊真君が聞いてくれる。
「第3者になりうる人は誰かなと思っただけ。決めつけるのは早いわ。それに……合鍵を持っている人は娘さんだけとは限らないでしょう?」
「元旦那さんには渡さないだろうし……。他に誰かいますかね?」
花梨ちゃんが「あ、そっか」と納得顔をする。
「自分がいない時にチロルに何かあった時の為に、実家のお母さんとかに渡すかも。後は……」
「え? 他にもいるの?」
柊真君が花梨ちゃんの言葉に驚いた顔をした。
「俺、全然思いつかないんだけど」
「もしかしてって思っただけなので、違うかもしれないんですけど。あの、えっと、お付き合いしている人がいるかもって……」
「へ?」
柊真君が眉を上げる。
私は大きく頷いていた。
「すごい。よく分かったね。宇都さん、今恋人がいるの。仲が良くて、すごく順調みたいで、一緒に住もうっていう話になってるってそういえば言ってました!」
「え、え、待ってください。まだ別れて3年ですよね? もう次に行くんですか?」
戸惑い気味の柊真くんにマリさんが苦笑いをする。
「娘さんと同居しているならともかく、未来に目を向けられる潔さを持ってるのが女性よ、柊真君」
でも、これで、とマリさんは右手の指を3本立てた。
「仮定だけれど、合鍵を持っていそうな人は3人出てきたわ。娘さん、恋人の男性、実家のお母さん。宇都さんがいないところで、何かアクションを起こせる可能性のある人達よ。ただ、この中の誰かがそうだとして、動機がよく見えないわね。ものすごく犬嫌いで犬を憎く思っているならともかく、どちらかと言えば……」
「見た感じ、そんな事をする理由が浮かばないですね。むしろ可愛がりそうな気がします」
「ええ。私もそう思います。娘さんは宇都さんと離婚前にはチロルと一緒に住んでいた訳だし、恋人の男性は、わざわざ宇都さんに嫌われるような事はしないでしょう。実家のお母さんは娘の大事にしているチロルに嫌がる様な事をして、困らせるなんていうのは普通に考えれば不思議な話です」
「分からないですよ」
柊真くんが異を唱える。
「例えば、恋人の男性。実は犬アレルギーで、宇都さんとは一緒に住みたいけど、チロルとは住みたくない。邪魔なチロルに嫌がらせを……」
「そんな事をして、結局は宇都さんを困らせる事になるだけでしょ。アレルギーなら正直に言えばいいだけだし。昔の嫁いびりじゃないんだから」
マリさんに一蹴されてへこたれる柊真君じゃなかった。
言いよどむ私に柊真君が「もしかして」と後を引き取った。
「死別されてるんですか?」
「あ、ううん。違うの。生きていらっしゃるの。だけど、3年くらい前……だったかな。離婚されて。今は宇都さんは1人暮らしをされている筈です」
「え、娘さんは?」
花梨ちゃんの呟きにも似た問いに私は答える。
「旦那さんが引き取ったみたいなの。元々パパっ子だったから、って宇都さんは言っていました。娘さんとの関係は良好みたいです。宇都さんの家に遊びに来ることもあるって言っていましたから」
「娘さんは自由に宇都さんの家に出入り出来るんでしょうか?」
「どうかなぁ。でも、出来ると思います。以前、今日は娘が泊まりに来るから早く帰らなきゃと嬉しそうだった事があるので。合鍵を渡しているんじゃないでしょうか」
「マリさんは娘さんが怪しいと思ってるんですか?」
私が聞きたかった事を柊真君が聞いてくれる。
「第3者になりうる人は誰かなと思っただけ。決めつけるのは早いわ。それに……合鍵を持っている人は娘さんだけとは限らないでしょう?」
「元旦那さんには渡さないだろうし……。他に誰かいますかね?」
花梨ちゃんが「あ、そっか」と納得顔をする。
「自分がいない時にチロルに何かあった時の為に、実家のお母さんとかに渡すかも。後は……」
「え? 他にもいるの?」
柊真君が花梨ちゃんの言葉に驚いた顔をした。
「俺、全然思いつかないんだけど」
「もしかしてって思っただけなので、違うかもしれないんですけど。あの、えっと、お付き合いしている人がいるかもって……」
「へ?」
柊真君が眉を上げる。
私は大きく頷いていた。
「すごい。よく分かったね。宇都さん、今恋人がいるの。仲が良くて、すごく順調みたいで、一緒に住もうっていう話になってるってそういえば言ってました!」
「え、え、待ってください。まだ別れて3年ですよね? もう次に行くんですか?」
戸惑い気味の柊真くんにマリさんが苦笑いをする。
「娘さんと同居しているならともかく、未来に目を向けられる潔さを持ってるのが女性よ、柊真君」
でも、これで、とマリさんは右手の指を3本立てた。
「仮定だけれど、合鍵を持っていそうな人は3人出てきたわ。娘さん、恋人の男性、実家のお母さん。宇都さんがいないところで、何かアクションを起こせる可能性のある人達よ。ただ、この中の誰かがそうだとして、動機がよく見えないわね。ものすごく犬嫌いで犬を憎く思っているならともかく、どちらかと言えば……」
「見た感じ、そんな事をする理由が浮かばないですね。むしろ可愛がりそうな気がします」
「ええ。私もそう思います。娘さんは宇都さんと離婚前にはチロルと一緒に住んでいた訳だし、恋人の男性は、わざわざ宇都さんに嫌われるような事はしないでしょう。実家のお母さんは娘の大事にしているチロルに嫌がる様な事をして、困らせるなんていうのは普通に考えれば不思議な話です」
「分からないですよ」
柊真くんが異を唱える。
「例えば、恋人の男性。実は犬アレルギーで、宇都さんとは一緒に住みたいけど、チロルとは住みたくない。邪魔なチロルに嫌がらせを……」
「そんな事をして、結局は宇都さんを困らせる事になるだけでしょ。アレルギーなら正直に言えばいいだけだし。昔の嫁いびりじゃないんだから」
マリさんに一蹴されてへこたれる柊真君じゃなかった。
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