8 / 27
第2章
隠し味は……。
しおりを挟む
「ホワイトチョコレートとブラックチョコレート。2種のチョコレートの背中合わせ、です」
「だからですね! 複雑で不思議な味……。なのにチョコ同士が喧嘩しないでマッチしてる。どっちの味わいも殺す事なく生かされてて……私、これ好き」
蕩けていくチョコレートを大事に舌で転がしながら、第3の風味がそっと立ち昇ってくるのを感じて、はっとする。
「あれ? チョコだけじゃ、ない?」
「わ、嬉しい。気付いてくれた。そうなんです。チョコレートだけじゃこの風味は出せないんです」
お皿を片付け終わった柊真君がカウンターから出てくる。
チョコレートだけじゃ出せない。それを聞いて私は考える。
「じゃあ、なんだろう。バター、はありきたりかな?」
この濃厚さ、バターも貢献している気がするけれど。
「バターも入ってます。味覚が敏感なんですね。すごいな。でも……それだけじゃないんですよ」
「そうなんだ。えー、何だろう。気になるな」
「私は食パンの上に載せてトーストするのが好きです」というのはマリさん。
「あ、分かる。俺はそいつと粒あんを載せてトーストするのが好きです」と言うのは柊真くん。
「私は……」
花梨ちゃんが照れたように言う。
「それを使ったケーキが1番好きです」
トーストになって、粒あんとも相性が良くて、ケーキにもなる。
それって一体……。
うーん、と唸る私を皆が楽しそうに見ている。
パンケーキを食べながら考える事数分。
ついに私は両手をあげた。ギブアップだ。
「苺かな? と思ったんだけど。苺ジャムと食パンって美味しいし。餡子も、苺大福とかあるし、苺のショートケーキは普通に美味しいし……」
でもそれは3人のくれたヒントに相性がよさそうな物を無理やり捻り出しただけだ。
うん、うん、と頷きながらも、どこかその答えを待っていたとばかりの柊真君の笑顔。
違う。これ、絶対違うパターン。
「苺ではない?」
「苺ではありません」
背中合わせチョコレートはフルーツ特有の酸味は感じられなかった。そうなると、この濃厚さはなんだろう。
「答えはチーズです」
「チーズ!?」
「そう、クリームチーズ。これが味の決め手」
得意げに答えを披露する柊真くんに、私は『異議あり!』の声をあげる。
「待って。チーズトーストは聞いた事ある。チーズケーキも有名よね。けど……粒あんにクリームチーズって合うの?!」
「合うんですよ、これが。最高の組み合わせなんです」
マリさんと花梨ちゃんが私のリアクションにクスクス笑っている。
「例えば、パイ生地に粒あんとクリームチーズを挟んでもめちゃくちゃ美味いし、大福でもイケますよ。今、目下、粒あんとクリームチーズを使った和風チーズケーキにチャレンジしてて。分量とか工夫すればもう少しで完成しそうなんですけど」
「和風チーズケーキ?」
「あんぱんが存在するなら、つぶあんのチーズケーキがあってもいいですよね」
マリさんがカウンター越しに教えてくれる。
「柊真くんはスイーツ男子なんです。食べる方も作る方も」
「それじゃあ、もしかしてだけど、この背中合わせチョコレートは……」
「俺が作りました。先月の頭、マリさんからようやくOKがもらえて」
私はすっかり感心してしまった。
「もしかして製菓の専門学校に行ってるの?」
「いえ。大学生です。そこのS大に通ってます。土日と、講義がない日とかに入れてもらってるんです」
このルックスでお菓子作りも出来るとか。今時の子のスペック凄い。
滑らかな口どけのチョコレートはもちろん、ロビンソンオリジナルパンケーキを食べ終えてしまうのがもったいなくて、自然とフォークを運ぶスピードが遅くなる。
けど、いつか終わりがやって来てしまう。
最後のひと口をたっぷりチョコレートソースを絡めて口に入れる。
取っておいた背中合わせチョコレートが、パンケーキと一緒に余韻を残して消えていった。
「だからですね! 複雑で不思議な味……。なのにチョコ同士が喧嘩しないでマッチしてる。どっちの味わいも殺す事なく生かされてて……私、これ好き」
蕩けていくチョコレートを大事に舌で転がしながら、第3の風味がそっと立ち昇ってくるのを感じて、はっとする。
「あれ? チョコだけじゃ、ない?」
「わ、嬉しい。気付いてくれた。そうなんです。チョコレートだけじゃこの風味は出せないんです」
お皿を片付け終わった柊真君がカウンターから出てくる。
チョコレートだけじゃ出せない。それを聞いて私は考える。
「じゃあ、なんだろう。バター、はありきたりかな?」
この濃厚さ、バターも貢献している気がするけれど。
「バターも入ってます。味覚が敏感なんですね。すごいな。でも……それだけじゃないんですよ」
「そうなんだ。えー、何だろう。気になるな」
「私は食パンの上に載せてトーストするのが好きです」というのはマリさん。
「あ、分かる。俺はそいつと粒あんを載せてトーストするのが好きです」と言うのは柊真くん。
「私は……」
花梨ちゃんが照れたように言う。
「それを使ったケーキが1番好きです」
トーストになって、粒あんとも相性が良くて、ケーキにもなる。
それって一体……。
うーん、と唸る私を皆が楽しそうに見ている。
パンケーキを食べながら考える事数分。
ついに私は両手をあげた。ギブアップだ。
「苺かな? と思ったんだけど。苺ジャムと食パンって美味しいし。餡子も、苺大福とかあるし、苺のショートケーキは普通に美味しいし……」
でもそれは3人のくれたヒントに相性がよさそうな物を無理やり捻り出しただけだ。
うん、うん、と頷きながらも、どこかその答えを待っていたとばかりの柊真君の笑顔。
違う。これ、絶対違うパターン。
「苺ではない?」
「苺ではありません」
背中合わせチョコレートはフルーツ特有の酸味は感じられなかった。そうなると、この濃厚さはなんだろう。
「答えはチーズです」
「チーズ!?」
「そう、クリームチーズ。これが味の決め手」
得意げに答えを披露する柊真くんに、私は『異議あり!』の声をあげる。
「待って。チーズトーストは聞いた事ある。チーズケーキも有名よね。けど……粒あんにクリームチーズって合うの?!」
「合うんですよ、これが。最高の組み合わせなんです」
マリさんと花梨ちゃんが私のリアクションにクスクス笑っている。
「例えば、パイ生地に粒あんとクリームチーズを挟んでもめちゃくちゃ美味いし、大福でもイケますよ。今、目下、粒あんとクリームチーズを使った和風チーズケーキにチャレンジしてて。分量とか工夫すればもう少しで完成しそうなんですけど」
「和風チーズケーキ?」
「あんぱんが存在するなら、つぶあんのチーズケーキがあってもいいですよね」
マリさんがカウンター越しに教えてくれる。
「柊真くんはスイーツ男子なんです。食べる方も作る方も」
「それじゃあ、もしかしてだけど、この背中合わせチョコレートは……」
「俺が作りました。先月の頭、マリさんからようやくOKがもらえて」
私はすっかり感心してしまった。
「もしかして製菓の専門学校に行ってるの?」
「いえ。大学生です。そこのS大に通ってます。土日と、講義がない日とかに入れてもらってるんです」
このルックスでお菓子作りも出来るとか。今時の子のスペック凄い。
滑らかな口どけのチョコレートはもちろん、ロビンソンオリジナルパンケーキを食べ終えてしまうのがもったいなくて、自然とフォークを運ぶスピードが遅くなる。
けど、いつか終わりがやって来てしまう。
最後のひと口をたっぷりチョコレートソースを絡めて口に入れる。
取っておいた背中合わせチョコレートが、パンケーキと一緒に余韻を残して消えていった。
1
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
君の好きなもの
秋谷イル
ライト文芸
小説家の月見には弟子がいる。数年前から暮らしているアパートの大家の息子・文一。彼は十四歳の不登校児。将来は月見のような小説家になりたいらしい。家賃の割引と引き替えに弟子に取ったこの少年を、月見は今日も渋々迎え入れる。
12月のラピスラズリ
あまくに みか
ライト文芸
第6回文芸社文庫NEO小説大賞 最終選考ノミネート作品
煙の街に住む住人たちは、名前がなかった。
それどころか、彼らはみんな同じ顔をしていた。
彼らは毎日、決められたルールをなぞって、世界の歯車として働いている。
「No.426ab3_F」は煙の街の住人の一人。
灰色の空しか見たことのない彼が、生まれて初めての青い空を見た。心を奪われた彼の足元には『12月のラピスラズリ』という一冊の絵本が。
絵本の物語は、猫が旅に出て、自分の居場所を見つけるという話だった。
絵本を読み終えた彼の元に、絵本に登場する猫と似た、黒い猫が現れてこう言った。
「お前の立っている場所は、ここだけじゃない」と。
彼はたった1つの持ち物である絵本を持って、黒猫と共に外の世界へ踏み出すことを決心する。
旅人となって、自分の「名前」を探す旅へ。
『だから、名前が知りたかった。ずっと一緒にいたかったから』
まだ小さな息子と、空へ旅立った愛猫にこの物語を。
表紙絵は、惑星ハーブティ様の作品です
伊緒さんのお嫁ご飯
三條すずしろ
ライト文芸
貴女がいるから、まっすぐ家に帰ります――。
伊緒さんが作ってくれる、おいしい「お嫁ご飯」が楽しみな僕。
子供のころから憧れていた小さな幸せに、ほっと心が癒されていきます。
ちょっぴり歴女な伊緒さんの、とっても温かい料理のお話。
「第1回ライト文芸大賞」大賞候補作品。
「エブリスタ」「カクヨム」「すずしろブログ」にも掲載中です!
ぼくたちのたぬきち物語
アポロ
ライト文芸
一章にエピソード①〜⑩をまとめました。大人のための童話風ライト文芸として書きましたが、小学生でも読めます。
どの章から読みはじめても大丈夫です。
挿絵はアポロの友人・絵描きのひろ生さん提供。
アポロとたぬきちの見守り隊長、いつもありがとう。
初稿はnoteにて2021年夏〜22年冬、「こたぬきたぬきち、町へゆく」のタイトルで連載していました。
この思い入れのある作品を、全編加筆修正してアルファポリスに投稿します。
🍀一章│①〜⑩のあらすじ🍀
たぬきちは、化け狸の子です。
生まれてはじめて変化の術に成功し、ちょっとおしゃれなかわいい少年にうまく化けました。やったね。
たぬきちは、人生ではじめて山から町へ行くのです。(はい、人生です)
現在行方不明の父さんたぬき・ぽんたから教えてもらった記憶を頼りに、憧れの町の「映画館」を目指します。
さて無事にたどり着けるかどうか。
旅にハプニングはつきものです。
少年たぬきちの小さな冒険を、ぜひ見守ってあげてください。
届けたいのは、ささやかな感動です。
心を込め込め書きました。
あなたにも、届け。
あかりの燈るハロー【完結】
虹乃ノラン
ライト文芸
――その観覧車が彩りゆたかにライトアップされるころ、あたしの心は眠ったまま。迷って迷って……、そしてあたしは茜色の空をみつけた。
六年生になる茜(あかね)は、五歳で母を亡くし吃音となった。思い出の早口言葉を歌い今日もひとり図書室へ向かう。特別な目で見られ、友達なんていない――吃音を母への愛の証と捉える茜は治療にも前向きになれないでいた。
ある日『ハローワールド』という件名のメールがパソコンに届く。差出人は朱里(あかり)。件名は謎のままだが二人はすぐに仲良くなった。話すことへの抵抗、思いを伝える怖さ――友だちとの付き合い方に悩みながらも、「もし、あたしが朱里だったら……」と少しずつ自分を見つめなおし、悩みながらも朱里に対する信頼を深めていく。
『ハローワールド』の謎、朱里にたずねるハローワールドはいつだって同じ。『そこはここよりもずっと離れた場所で、ものすごく近くにある場所。行きたくても行けない場所で、いつの間にかたどり着いてる場所』
そんななか、茜は父の部屋で一冊の絵本を見つける……。
誰の心にも燈る光と影――今日も頑張っているあなたへ贈る、心温まるやさしいストーリー。
―――――《目次》――――――
◆第一部
一章 バイバイ、お母さん。ハロー、ハンデ。
二章 ハローワールドの住人
三章 吃音という証明
◆第二部
四章 最高の友だち
五章 うるさい! うるさい! うるさい!
六章 レインボー薬局
◆第三部
七章 はーい! せんせー。
八章 イフ・アカリ
九章 ハウマッチ 木、木、木……。
◆第四部
十章 未来永劫チクワ
十一章 あたしがやりました。
十二章 お父さんの恋人
◆第五部
十三章 アカネ・ゴー・ラウンド
十四章 # to the world...
◆エピローグ
epilogue...
♭
◆献辞
《第7回ライト文芸大賞奨励賞》
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる