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第2章
隠し味は……。
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「ホワイトチョコレートとブラックチョコレート。2種のチョコレートの背中合わせ、です」
「だからですね! 複雑で不思議な味……。なのにチョコ同士が喧嘩しないでマッチしてる。どっちの味わいも殺す事なく生かされてて……私、これ好き」
蕩けていくチョコレートを大事に舌で転がしながら、第3の風味がそっと立ち昇ってくるのを感じて、はっとする。
「あれ? チョコだけじゃ、ない?」
「わ、嬉しい。気付いてくれた。そうなんです。チョコレートだけじゃこの風味は出せないんです」
お皿を片付け終わった柊真君がカウンターから出てくる。
チョコレートだけじゃ出せない。それを聞いて私は考える。
「じゃあ、なんだろう。バター、はありきたりかな?」
この濃厚さ、バターも貢献している気がするけれど。
「バターも入ってます。味覚が敏感なんですね。すごいな。でも……それだけじゃないんですよ」
「そうなんだ。えー、何だろう。気になるな」
「私は食パンの上に載せてトーストするのが好きです」というのはマリさん。
「あ、分かる。俺はそいつと粒あんを載せてトーストするのが好きです」と言うのは柊真くん。
「私は……」
花梨ちゃんが照れたように言う。
「それを使ったケーキが1番好きです」
トーストになって、粒あんとも相性が良くて、ケーキにもなる。
それって一体……。
うーん、と唸る私を皆が楽しそうに見ている。
パンケーキを食べながら考える事数分。
ついに私は両手をあげた。ギブアップだ。
「苺かな? と思ったんだけど。苺ジャムと食パンって美味しいし。餡子も、苺大福とかあるし、苺のショートケーキは普通に美味しいし……」
でもそれは3人のくれたヒントに相性がよさそうな物を無理やり捻り出しただけだ。
うん、うん、と頷きながらも、どこかその答えを待っていたとばかりの柊真君の笑顔。
違う。これ、絶対違うパターン。
「苺ではない?」
「苺ではありません」
背中合わせチョコレートはフルーツ特有の酸味は感じられなかった。そうなると、この濃厚さはなんだろう。
「答えはチーズです」
「チーズ!?」
「そう、クリームチーズ。これが味の決め手」
得意げに答えを披露する柊真くんに、私は『異議あり!』の声をあげる。
「待って。チーズトーストは聞いた事ある。チーズケーキも有名よね。けど……粒あんにクリームチーズって合うの?!」
「合うんですよ、これが。最高の組み合わせなんです」
マリさんと花梨ちゃんが私のリアクションにクスクス笑っている。
「例えば、パイ生地に粒あんとクリームチーズを挟んでもめちゃくちゃ美味いし、大福でもイケますよ。今、目下、粒あんとクリームチーズを使った和風チーズケーキにチャレンジしてて。分量とか工夫すればもう少しで完成しそうなんですけど」
「和風チーズケーキ?」
「あんぱんが存在するなら、つぶあんのチーズケーキがあってもいいですよね」
マリさんがカウンター越しに教えてくれる。
「柊真くんはスイーツ男子なんです。食べる方も作る方も」
「それじゃあ、もしかしてだけど、この背中合わせチョコレートは……」
「俺が作りました。先月の頭、マリさんからようやくOKがもらえて」
私はすっかり感心してしまった。
「もしかして製菓の専門学校に行ってるの?」
「いえ。大学生です。そこのS大に通ってます。土日と、講義がない日とかに入れてもらってるんです」
このルックスでお菓子作りも出来るとか。今時の子のスペック凄い。
滑らかな口どけのチョコレートはもちろん、ロビンソンオリジナルパンケーキを食べ終えてしまうのがもったいなくて、自然とフォークを運ぶスピードが遅くなる。
けど、いつか終わりがやって来てしまう。
最後のひと口をたっぷりチョコレートソースを絡めて口に入れる。
取っておいた背中合わせチョコレートが、パンケーキと一緒に余韻を残して消えていった。
「だからですね! 複雑で不思議な味……。なのにチョコ同士が喧嘩しないでマッチしてる。どっちの味わいも殺す事なく生かされてて……私、これ好き」
蕩けていくチョコレートを大事に舌で転がしながら、第3の風味がそっと立ち昇ってくるのを感じて、はっとする。
「あれ? チョコだけじゃ、ない?」
「わ、嬉しい。気付いてくれた。そうなんです。チョコレートだけじゃこの風味は出せないんです」
お皿を片付け終わった柊真君がカウンターから出てくる。
チョコレートだけじゃ出せない。それを聞いて私は考える。
「じゃあ、なんだろう。バター、はありきたりかな?」
この濃厚さ、バターも貢献している気がするけれど。
「バターも入ってます。味覚が敏感なんですね。すごいな。でも……それだけじゃないんですよ」
「そうなんだ。えー、何だろう。気になるな」
「私は食パンの上に載せてトーストするのが好きです」というのはマリさん。
「あ、分かる。俺はそいつと粒あんを載せてトーストするのが好きです」と言うのは柊真くん。
「私は……」
花梨ちゃんが照れたように言う。
「それを使ったケーキが1番好きです」
トーストになって、粒あんとも相性が良くて、ケーキにもなる。
それって一体……。
うーん、と唸る私を皆が楽しそうに見ている。
パンケーキを食べながら考える事数分。
ついに私は両手をあげた。ギブアップだ。
「苺かな? と思ったんだけど。苺ジャムと食パンって美味しいし。餡子も、苺大福とかあるし、苺のショートケーキは普通に美味しいし……」
でもそれは3人のくれたヒントに相性がよさそうな物を無理やり捻り出しただけだ。
うん、うん、と頷きながらも、どこかその答えを待っていたとばかりの柊真君の笑顔。
違う。これ、絶対違うパターン。
「苺ではない?」
「苺ではありません」
背中合わせチョコレートはフルーツ特有の酸味は感じられなかった。そうなると、この濃厚さはなんだろう。
「答えはチーズです」
「チーズ!?」
「そう、クリームチーズ。これが味の決め手」
得意げに答えを披露する柊真くんに、私は『異議あり!』の声をあげる。
「待って。チーズトーストは聞いた事ある。チーズケーキも有名よね。けど……粒あんにクリームチーズって合うの?!」
「合うんですよ、これが。最高の組み合わせなんです」
マリさんと花梨ちゃんが私のリアクションにクスクス笑っている。
「例えば、パイ生地に粒あんとクリームチーズを挟んでもめちゃくちゃ美味いし、大福でもイケますよ。今、目下、粒あんとクリームチーズを使った和風チーズケーキにチャレンジしてて。分量とか工夫すればもう少しで完成しそうなんですけど」
「和風チーズケーキ?」
「あんぱんが存在するなら、つぶあんのチーズケーキがあってもいいですよね」
マリさんがカウンター越しに教えてくれる。
「柊真くんはスイーツ男子なんです。食べる方も作る方も」
「それじゃあ、もしかしてだけど、この背中合わせチョコレートは……」
「俺が作りました。先月の頭、マリさんからようやくOKがもらえて」
私はすっかり感心してしまった。
「もしかして製菓の専門学校に行ってるの?」
「いえ。大学生です。そこのS大に通ってます。土日と、講義がない日とかに入れてもらってるんです」
このルックスでお菓子作りも出来るとか。今時の子のスペック凄い。
滑らかな口どけのチョコレートはもちろん、ロビンソンオリジナルパンケーキを食べ終えてしまうのがもったいなくて、自然とフォークを運ぶスピードが遅くなる。
けど、いつか終わりがやって来てしまう。
最後のひと口をたっぷりチョコレートソースを絡めて口に入れる。
取っておいた背中合わせチョコレートが、パンケーキと一緒に余韻を残して消えていった。
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