5 / 27
第2章
最悪の週末
しおりを挟む
土曜日は出かける気がしなくてほとんど家に引きこもっていた。
DVDでも観てのんびり過ごそうかと思っていたけれどいざ、TVを前にすると観る気が失せた。
溜まった家事や、読みかけの本も、何も手がつかない。
結果的にぼーっとして無駄に半日が過ぎる。
何もせずにぼーっとする暇があるという事は、それだけ考える時間があるという事だ。
考えない様にしようとすればする程、宇都さんの怒った顔、棘のあるセリフを思い出してしまう。
忘れたくても忘れられない。
明日が終わればやってくる月曜日。
どんな顔で私は仕事をすればいいんだろう。
何も悪い事はしていない筈なのに、職場にいるのが辛くてたまらない。
いっその事、チロルが人間みたいに話せて、私の無実を証明してくれればいいのに。
そしたらこんなにややこしい事にはならなかったのに。
うだうだと横になって、夜が来て。
一睡も出来ないまま朝が来た。
頭が重い。
相変わらず胃の調子も悪くてダブルパンチだ。
「行きたくないなぁ。会社」
月曜日になるまでをカウントダウンしてしまう自分がいる。昨日の夜は自炊するのも食べに行くのも面倒くさくて、結局インスタントのラーメンで済ませてしまった。
今日までそれとなると、なんだか気持ち的に虚しいものがある。
「ごはん、食べなきゃ……」
頭痛を止めるには頭痛薬を飲まなければいけないのに空っぽの胃にそんなものを流し込めば、更に荒れてしまうに決まっている。
気だるい体を起こして、どうにか服を着替える。
出よう。とにかく外へ。
このまま家にいてはよくない暗い考えに押しつぶされてしまう気がする。
コンビニでもいい。
スーパーでもいい。
1人になっちゃ駄目だ。
財布と、携帯とを持って、スニーカーを引っかける。
薄いマンションの扉がどうにも重たく感じた。
1階に降りようとして乗ったエレベーターで、鏡に映った自分を見た。
化粧気のない顔。適当な洋服。本当に近所に出かける時にしか使わないミニトート。
冴えない、と思う。
やる気がないにも程がある。
自分で自分に呆れると同時にひやりとした。
このままじゃ、私は、押し切られて宇都さんの言葉に負けてしまう。
どうにかしてコンビニまで辿り着いたけれど、自動ドアの前に立った途端、身体がコンビニに入るのを全力で拒否した。
違う、ここじゃない。
多分、入ったらもっと疲れてしまう。
せっかく出て来たのに、こんな事なら家にいれば良かったかもしれない。
どっと背中に疲労が乗る。
「もう、やだ」
踵を返そうとして、コンビニののぼりが目に入った。新商品のパンケーキが美味しい! と銘打ってある。
ぐにゃぐにゃと風に煽られてのぼりのなかのパンケーキは揺れる。
それで思い出した。
ふわふわで口の中でとろける様な不思議な感覚。
絶妙ともいえるネーミングセンス。
1人客を拒まない優しい雰囲気。
整えられた清潔な空間。
あそこなら、あそこのパンケーキなら食べられるかもしれない。
スマホで営業時間を調べるのももどかしく、私は歩き始めていた。
都会の隅っこで、ひっそり佇む小さなカフェへ。
DVDでも観てのんびり過ごそうかと思っていたけれどいざ、TVを前にすると観る気が失せた。
溜まった家事や、読みかけの本も、何も手がつかない。
結果的にぼーっとして無駄に半日が過ぎる。
何もせずにぼーっとする暇があるという事は、それだけ考える時間があるという事だ。
考えない様にしようとすればする程、宇都さんの怒った顔、棘のあるセリフを思い出してしまう。
忘れたくても忘れられない。
明日が終わればやってくる月曜日。
どんな顔で私は仕事をすればいいんだろう。
何も悪い事はしていない筈なのに、職場にいるのが辛くてたまらない。
いっその事、チロルが人間みたいに話せて、私の無実を証明してくれればいいのに。
そしたらこんなにややこしい事にはならなかったのに。
うだうだと横になって、夜が来て。
一睡も出来ないまま朝が来た。
頭が重い。
相変わらず胃の調子も悪くてダブルパンチだ。
「行きたくないなぁ。会社」
月曜日になるまでをカウントダウンしてしまう自分がいる。昨日の夜は自炊するのも食べに行くのも面倒くさくて、結局インスタントのラーメンで済ませてしまった。
今日までそれとなると、なんだか気持ち的に虚しいものがある。
「ごはん、食べなきゃ……」
頭痛を止めるには頭痛薬を飲まなければいけないのに空っぽの胃にそんなものを流し込めば、更に荒れてしまうに決まっている。
気だるい体を起こして、どうにか服を着替える。
出よう。とにかく外へ。
このまま家にいてはよくない暗い考えに押しつぶされてしまう気がする。
コンビニでもいい。
スーパーでもいい。
1人になっちゃ駄目だ。
財布と、携帯とを持って、スニーカーを引っかける。
薄いマンションの扉がどうにも重たく感じた。
1階に降りようとして乗ったエレベーターで、鏡に映った自分を見た。
化粧気のない顔。適当な洋服。本当に近所に出かける時にしか使わないミニトート。
冴えない、と思う。
やる気がないにも程がある。
自分で自分に呆れると同時にひやりとした。
このままじゃ、私は、押し切られて宇都さんの言葉に負けてしまう。
どうにかしてコンビニまで辿り着いたけれど、自動ドアの前に立った途端、身体がコンビニに入るのを全力で拒否した。
違う、ここじゃない。
多分、入ったらもっと疲れてしまう。
せっかく出て来たのに、こんな事なら家にいれば良かったかもしれない。
どっと背中に疲労が乗る。
「もう、やだ」
踵を返そうとして、コンビニののぼりが目に入った。新商品のパンケーキが美味しい! と銘打ってある。
ぐにゃぐにゃと風に煽られてのぼりのなかのパンケーキは揺れる。
それで思い出した。
ふわふわで口の中でとろける様な不思議な感覚。
絶妙ともいえるネーミングセンス。
1人客を拒まない優しい雰囲気。
整えられた清潔な空間。
あそこなら、あそこのパンケーキなら食べられるかもしれない。
スマホで営業時間を調べるのももどかしく、私は歩き始めていた。
都会の隅っこで、ひっそり佇む小さなカフェへ。
1
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
黒い鍵の令嬢と陰陽師執事は、今夜も苦しむ魂を救う
柚木ゆず
児童書・童話
罪のない者には救いを。罪を犯した者には罰を。
救いの力を持つ令嬢・宝城エリスと、陰陽師の力を持つ執事の青年・安倍(あべの)蓮。
2人は今夜も、誰かによって苦しめられている魂を救うのでした――。
※8月5日に追記させていただきました。
少なくとも今週末まではできるだけ安静にした方がいいとのことで、しばらくしっかりとしたお礼(お返事)ができないため感想欄を閉じさせていただいております。
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
ある日、家に帰ったら。
詠月日和
ライト文芸
「……不法侵入だ」
「わいが言うのもなんやけど、自分、ずれてるって言われん?」
ぽてりと重たそうなまあるい頭につぶらな瞳。
ある日家に帰ったら、ぬいぐるみみたいな『ペンギン』に出迎えられた。
ぺたぺたと足音を立てながら家中を歩き回る。よく食べてよく寝て、私が出掛けている間にテレビを夢中で見ては電気代を底上げする。
20歳をきっかけに一人暮らしを始めたはずの私の生活に、この意味のわからない生き物は現れた。
世界を救うわけでもなく、異世界に迷い込むわけでもなく、特別な使命を課せられたわけでもなく、未知の生物とただ同居してるだけの毎日。
特に何があるわけでもないけれど、話し相手がいるだけで毎日が少しだけ生きやすい気がする。
間違いなく不思議で、でも確かに生活に溶け込んだ今の私の日常について。
想い出キャンディの作り方
花梨
青春
学校に居場所がない。
夏休みになっても、友達と遊びにいくこともない。
中一の梨緒子は、ひとりで街を散策することにした。ひとりでも、楽しい夏休みにできるもん。
そんな中、今は使われていない高原のホテルで出会った瑠々という少女。
小学六年生と思えぬ雰囲気と、下僕のようにお世話をする淳悟という青年の不思議な関係に、梨緒子は興味を持つ。
ふたりと接していくうちに、瑠々の秘密を知ることとなり……。
はじめから「別れ」が定められた少女たちのひと夏の物語。
ばあちゃんの豆しとぎ
ようさん
ライト文芸
※※「第七回ほっこり・じんわり大賞」にて奨励賞をいただきました。ありがとうございます※※
「人生はアップで観れば悲劇、遠写なら喜劇 byチャールズ・チャップリン」
2児の母である「私」。祖母が突然亡くなり、真冬の北三陸に帰省する事に。しかも祖母の遺志で昔ながらの三晩続く通夜と葬儀を自宅で行うという。実家は古民家でもなければ豪邸でもないごく普通の昭和築6SK住宅で、親戚や縁故だらけの田舎の葬式は最低でも百人以上の弔問客が集まるーーそんな事できるの???
しかも平日ど真ん中で療育の必要な二男、遠距離出張中でどこか他人事の夫、と出発前から問題は山積み。
18歳まで過ごした実家、懐かしい顔ーーだが三世代六人が寝泊まりし、早朝から近所の人から覚えてないような親戚までもが出入りする空間にプライバシーは無く、両親も娘に遠慮が無い。しかも知らない風習だらけでてんやわんや。
親子、きょうだい、祖父母と孫ーー身内だからこそ生じる感情のズレやぶつかり合い、誰にも気づいてもらえないお互いのトラウマ。そんな中、喪主の父と縁の下の力持ちの母がまさかの仲違いで職務放棄???
自由過ぎる旧友やイケメン後輩との意外な再会ーー懐かしい人々の力を借りながら、家族で力を合わせて無事に祖母を送る事はできるのか……?
※2000年代が舞台のフィクションです。
※複数の地方の風習や昭和、平成当時の暮らしぶりや昔話が出てきますが、研究や定説によるものではなく個人の回想によるものです。
※会話文に方言や昭和当時の表現が出てきます。ご容赦ください。
※なお、某朝ドラで流行語となった「じぇじぇじぇ!」という感嘆詞について、番組放送前は地域限定型の方言でネイティブ話者は百人程度(適当)であった事をついでに申し添えておきます(豆知識)
小京都角館・武家屋敷通りまごころベーカリー 弱小極道一家が愛されパン屋さんはじめました
来栖千依
キャラ文芸
父の急死により、秋田の角館をシマに持つ極道一家・黒羽組を継ぐことになった女子高生の四葉。しかし組は超弱小で、本家に支払う一千万の上納金すら手元にない。困る四葉のもとに、パン職人の修行のために海外へ行っていた幼馴染の由岐が帰ってきた。「俺がここでベーカリーをやるから、売り上げはお前が取れ」。シマの住民に愛されるパン屋さんを目指して店を手伝う四葉だが、美味しいパンを求めてやってくるお客にはそれぞれ事情があるようで…?
リエゾン~川辺のカフェで、ほっこりしていきませんか~
凪子
ライト文芸
山下桜(やましたさくら)、24歳、パティシエ。
大手ホテルの製菓部で働いていたけれど――心と体が限界を迎えてしまう。
流れついたのは、金持ちのボンボン息子・鈴川京介(すずかわきょうすけ)が趣味で開いているカフェだった。
桜は働きながら同僚の松田健(まつだたける)と衝突したり、訪れる客と交流しながら、ゆっくりゆっくり心の傷を癒していく。
苦しい過去と辛い事情を胸に抱えた三人の、再生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる