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第6章
届いてほしい
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謝るのって誰のため? ジロー先輩? ううん、それって自分のためじゃない?
生意気で嫌な後輩って、思われたくないだけじゃない?
上履きの先を見つめる。
ごまかしちゃだめだ。
本当の気持ちは、ちゃんと口に出して伝えないと。
「ジロー先輩!」
「ん?」
勇気を出して、顔を上げる。
「ジロー先輩の言うとおりです。どうして女の子じゃないのに、少女漫画が好きなんだろうって思っちゃいました。でも、同時にいいな、とも思ったんです」
ジロー先輩が、黙って話を聞いてくれる。
「友達と夢中になって好きな事について語り合えるの、いいなって思いました。だって、先輩達、漫画の話してるとき、すごく楽しそうだから。それに、私転校してきたばかりっていうのもあって……」
笑われたらどうしよう。
寂しい子だなって、かわいそうって思われたら悲しい。だけど。
「私、まだ、桜ヶ丘中学校で友達いないから! 熱くなれるくらい夢中になれるものもないから。将来の夢だって決まってないし、羨ましいです!」
2人とも、しばらく黙ったままだった。
これが、私の本当の気持ち。
届くかな。
届くといいな。
ふふっと静先輩が笑い声をもらす。
「正解だったね、ジローちゃん」
「ああ。正解だったな。夏帆を恋研に勧誘して」
ニコニコ笑い合う先輩達が予想外で、私は反応に困ってしまう。
それからおもむろにジロー先輩はこちらに向き直って、質問の答えをくれた。
「俺が少女漫画家になりたいって言うと『変だ』、『無理だ』、『やめとけ』の3拍子がいつも返ってくる。けど、助けられたんだよ、俺は昔、少女漫画に。今も沢山助けられてる。だから、俺は少女漫画家になりたい。変でも無理でもやめろって言われてもなりたい」
ジロー先輩のポーカーフェイスが崩れる。
キラキラしてて、格好いいと思った。
夢がある人ってこんなに眩しいんだ!
「それにしても、ショックだったよ、俺らは。夏帆ちゃん」
静先輩が大きくため息をついて、見学スペースの手すりに背中を預けた。
「もう、とっくに友達だと思ってたんだけど!」
「え?」
「本当だな。見事にカウントされてなかったな」
静先輩にジロー先輩が便乗する。
「で、でも、私恋研の部員でもないし、あんなひどいこと言っちゃったし。先輩達を傷つけたんじゃー……」
2人がきょとんとする。
「傷ついてないけど。ねぇ、ジローちゃん」
「ああ。むしろ、夏帆がストレートに聞いてくれたから俺も説明しやすかった」
ピィッと練習試合終了のホイッスルが鳴る。
バスケ部のメンバーはそれぞれ休憩に入るみたいだ。
「お、甘粕くん外に水飲みに行くみたいだよ。話を聞くなら今だね」
見学スペースから伸びる階段を降りていく先輩達がこっちを振り返って、声を揃える。
「行こう、夏帆」
「早く、夏帆ちゃん!」
2人に手招きされて、私はなんだか心が温かくなったんだ。
生意気で嫌な後輩って、思われたくないだけじゃない?
上履きの先を見つめる。
ごまかしちゃだめだ。
本当の気持ちは、ちゃんと口に出して伝えないと。
「ジロー先輩!」
「ん?」
勇気を出して、顔を上げる。
「ジロー先輩の言うとおりです。どうして女の子じゃないのに、少女漫画が好きなんだろうって思っちゃいました。でも、同時にいいな、とも思ったんです」
ジロー先輩が、黙って話を聞いてくれる。
「友達と夢中になって好きな事について語り合えるの、いいなって思いました。だって、先輩達、漫画の話してるとき、すごく楽しそうだから。それに、私転校してきたばかりっていうのもあって……」
笑われたらどうしよう。
寂しい子だなって、かわいそうって思われたら悲しい。だけど。
「私、まだ、桜ヶ丘中学校で友達いないから! 熱くなれるくらい夢中になれるものもないから。将来の夢だって決まってないし、羨ましいです!」
2人とも、しばらく黙ったままだった。
これが、私の本当の気持ち。
届くかな。
届くといいな。
ふふっと静先輩が笑い声をもらす。
「正解だったね、ジローちゃん」
「ああ。正解だったな。夏帆を恋研に勧誘して」
ニコニコ笑い合う先輩達が予想外で、私は反応に困ってしまう。
それからおもむろにジロー先輩はこちらに向き直って、質問の答えをくれた。
「俺が少女漫画家になりたいって言うと『変だ』、『無理だ』、『やめとけ』の3拍子がいつも返ってくる。けど、助けられたんだよ、俺は昔、少女漫画に。今も沢山助けられてる。だから、俺は少女漫画家になりたい。変でも無理でもやめろって言われてもなりたい」
ジロー先輩のポーカーフェイスが崩れる。
キラキラしてて、格好いいと思った。
夢がある人ってこんなに眩しいんだ!
「それにしても、ショックだったよ、俺らは。夏帆ちゃん」
静先輩が大きくため息をついて、見学スペースの手すりに背中を預けた。
「もう、とっくに友達だと思ってたんだけど!」
「え?」
「本当だな。見事にカウントされてなかったな」
静先輩にジロー先輩が便乗する。
「で、でも、私恋研の部員でもないし、あんなひどいこと言っちゃったし。先輩達を傷つけたんじゃー……」
2人がきょとんとする。
「傷ついてないけど。ねぇ、ジローちゃん」
「ああ。むしろ、夏帆がストレートに聞いてくれたから俺も説明しやすかった」
ピィッと練習試合終了のホイッスルが鳴る。
バスケ部のメンバーはそれぞれ休憩に入るみたいだ。
「お、甘粕くん外に水飲みに行くみたいだよ。話を聞くなら今だね」
見学スペースから伸びる階段を降りていく先輩達がこっちを振り返って、声を揃える。
「行こう、夏帆」
「早く、夏帆ちゃん!」
2人に手招きされて、私はなんだか心が温かくなったんだ。
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