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八岐大蛇 です。
八岐大蛇③ です。
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血が止まらない。焦りだけが増していく。サワがじわじわと弱っていくのを感じて、ユウの頭には最悪の事態が浮かぶが、それを払い飛ばして、とにかく必死に患部の止血に徹する。サワの血でヌルヌルしている自分の手。
ユウは、自分の服に空いた穴に指を引っ掻けて、そこからビリビリと服を引き裂く。引き裂いた服で、止血を試みる。牙の刺さった少し上の辺りをギューッとかたく結ぶ。その間も血が流れる。この牙は抜いた方が良いのか、悪いのか分からない。抜けば、もっと血が出る。でも、もし、この牙に毒でもあればどうだろう。オロオロとするユウの腕をサワは掴む。ユウはサワの方を見て訴える。
「大丈夫、もう、止まる!」
嘘だ、止まる気配なんて本当はない。サワは頭を左右に振る。
「まだ、生きている頭が…あるかも知れないのに、ここに居たら…」
サワの眼尻から溢れた雫は、地面に小さなシミを作る。
サワが、なんと言おうと僕はここを離れる訳がない。離れられるわけがない。
「だったら何だって言うんだ!」
「ユウだけでも助かってよ、私は、もう、良いからさ」
力なくそう言ったサワ。ユウはギリッと下唇を噛んだ。こんなことまで言わせて、本当に僕は…
ヌッと背後に迫る、生き残った頭たち。今か今かとチャンスを伺うような嫌な眼差し。音も立てずに近づくのに、ユウは瞬時にそれに気がつく。
刀を握り直して、サワの前で盾になる。
前にあるのは、巨大な蛇の頭が3つ。
不安とか恐怖で出来上がった僕の弱い心を奮い立たせて、少しでも強く居られるように、根を生やすみたいにしっかりと地面を踏ん張る。
ユウは目を見開き、八岐大蛇の動きをよく観察する。僕には、サワやシキに備わるような勝負勘はない。それでも、よく見るんだ。そうすれば、一瞬の隙があることに気がつける。
ユウは、刀を振るい、三方向からの蛇の攻撃を、受け止める。ここで、ユウが避ければ、攻撃はサワが無防備な状態で受けることになる。だったら、この手足が千切れる覚悟で戦え、ユウ。
ユウは、大きく開けた蛇の口に手を突っ込んで上顎を貫く。紅く染まった刀の先が蛇の頭から見える。ユウは勢いよく引き抜く。どこか人の悲鳴にも似たような音を発したあと、蛇はガクンと倒れる。これで、あと二匹。
「ユウ!避けろ!」
どこからかシキの声が響いて、ユウはハッと顔をあげる。それとほぼ、同時。蛇の頭にダダッと何本か矢が放たれる。蛇はグワンと矢が飛んできた方向を見る。そこには、シキたちが、瑠璃と一緒に居た。イチナが、さらに何本かの矢をまとめて放つ。
「当たれ!」
イチナはまたも全矢的中を果たすが、鎧のような頑丈な鱗で守られた蛇への効果は芳しくない。
「目だ、目を潰すんだイチナ」
シキがそう助言を送る。目に鱗はない。目は最も弱い部位と言っても過言ではない。
イチナは蛇の青い瞳の真ん中を射抜く。蛇は激しく暴れる。そして、バンッ!と頭部を打ち付ける。やがて、静かになる。
あとは相討ち覚悟で、飛び込むだけだ。ユウは、残ったひとつの頭と死闘を繰り広げる。僅かな隙も与えてはくれない。向こうも必死なのだ。
ユウに隙があったのか、ユウは、蛇に体を締められる、長い蛇の胴体がきつくきつくユウを逃さないようにと挟まれる。強く胸部を圧迫されて、息が出来なくなる。手足を振り回し、この圧迫を解かれようとするが、叶わない。ダメだ、手足がピリピリ痺れて刀を握っていられない。右足に至っては、感覚が消えた。動けと指令を出そうが、それに応えられる体じゃない。このままだと死ぬぞ。せめて、一瞬でも力が緩む瞬間があれば。そうだ、イチナに矢を何本か射てもらえないだろうか。
「イチナ、早く、ユウを助けるんだ」
「ごめん、矢が」
イチナは矢坪をひっくり返すがそこからは何も出てこない。
「何か代わりになるもの」
シキは辺りを探すがそんなものが都合よく落ちているわけもない。
シキとイチナとイリナは石を投げることくらいしかできない。そんなことは何の役にもたたない。
ダメだ、目が霞んでくる。痛みとか、痺れも感じられない。ユウはとうとう刀を落としてしまう。もう、死ぬのか、ここで…
ユウの瞼は重たくなってピタリと閉じられた。
「ユウ…」
落ちてきたユウの刀を蛇の腹に深く刺しこむ。全体重をかける。片足を引きずって、サワが進んだ道には赤い道ができていた。サワは一度、刀を引き抜いて、もう一度、深く刺す。
蛇は、ユウを解放する。ユウの体は重力に任せ、落ちていく。落ちた先は、運良く、既に倒れていた蛇の上。そこから、ずるりと地面に落ちる。サワは、這うようにしてユウの元へと向かう。
そのサワを追うように蛇は体をくねらせついていく。
「おい、化け物!相手はこっちだ!」
声のする方向へ体の向きを変えた蛇。
シキは近づくのを確認して、ギリギリのバランスで止まっている身長よりもでかい岩を三人と二頭の力を合わせて蛇の頭に落とす。
7つの頭すべてを仕留めた
ユウは、自分の服に空いた穴に指を引っ掻けて、そこからビリビリと服を引き裂く。引き裂いた服で、止血を試みる。牙の刺さった少し上の辺りをギューッとかたく結ぶ。その間も血が流れる。この牙は抜いた方が良いのか、悪いのか分からない。抜けば、もっと血が出る。でも、もし、この牙に毒でもあればどうだろう。オロオロとするユウの腕をサワは掴む。ユウはサワの方を見て訴える。
「大丈夫、もう、止まる!」
嘘だ、止まる気配なんて本当はない。サワは頭を左右に振る。
「まだ、生きている頭が…あるかも知れないのに、ここに居たら…」
サワの眼尻から溢れた雫は、地面に小さなシミを作る。
サワが、なんと言おうと僕はここを離れる訳がない。離れられるわけがない。
「だったら何だって言うんだ!」
「ユウだけでも助かってよ、私は、もう、良いからさ」
力なくそう言ったサワ。ユウはギリッと下唇を噛んだ。こんなことまで言わせて、本当に僕は…
ヌッと背後に迫る、生き残った頭たち。今か今かとチャンスを伺うような嫌な眼差し。音も立てずに近づくのに、ユウは瞬時にそれに気がつく。
刀を握り直して、サワの前で盾になる。
前にあるのは、巨大な蛇の頭が3つ。
不安とか恐怖で出来上がった僕の弱い心を奮い立たせて、少しでも強く居られるように、根を生やすみたいにしっかりと地面を踏ん張る。
ユウは目を見開き、八岐大蛇の動きをよく観察する。僕には、サワやシキに備わるような勝負勘はない。それでも、よく見るんだ。そうすれば、一瞬の隙があることに気がつける。
ユウは、刀を振るい、三方向からの蛇の攻撃を、受け止める。ここで、ユウが避ければ、攻撃はサワが無防備な状態で受けることになる。だったら、この手足が千切れる覚悟で戦え、ユウ。
ユウは、大きく開けた蛇の口に手を突っ込んで上顎を貫く。紅く染まった刀の先が蛇の頭から見える。ユウは勢いよく引き抜く。どこか人の悲鳴にも似たような音を発したあと、蛇はガクンと倒れる。これで、あと二匹。
「ユウ!避けろ!」
どこからかシキの声が響いて、ユウはハッと顔をあげる。それとほぼ、同時。蛇の頭にダダッと何本か矢が放たれる。蛇はグワンと矢が飛んできた方向を見る。そこには、シキたちが、瑠璃と一緒に居た。イチナが、さらに何本かの矢をまとめて放つ。
「当たれ!」
イチナはまたも全矢的中を果たすが、鎧のような頑丈な鱗で守られた蛇への効果は芳しくない。
「目だ、目を潰すんだイチナ」
シキがそう助言を送る。目に鱗はない。目は最も弱い部位と言っても過言ではない。
イチナは蛇の青い瞳の真ん中を射抜く。蛇は激しく暴れる。そして、バンッ!と頭部を打ち付ける。やがて、静かになる。
あとは相討ち覚悟で、飛び込むだけだ。ユウは、残ったひとつの頭と死闘を繰り広げる。僅かな隙も与えてはくれない。向こうも必死なのだ。
ユウに隙があったのか、ユウは、蛇に体を締められる、長い蛇の胴体がきつくきつくユウを逃さないようにと挟まれる。強く胸部を圧迫されて、息が出来なくなる。手足を振り回し、この圧迫を解かれようとするが、叶わない。ダメだ、手足がピリピリ痺れて刀を握っていられない。右足に至っては、感覚が消えた。動けと指令を出そうが、それに応えられる体じゃない。このままだと死ぬぞ。せめて、一瞬でも力が緩む瞬間があれば。そうだ、イチナに矢を何本か射てもらえないだろうか。
「イチナ、早く、ユウを助けるんだ」
「ごめん、矢が」
イチナは矢坪をひっくり返すがそこからは何も出てこない。
「何か代わりになるもの」
シキは辺りを探すがそんなものが都合よく落ちているわけもない。
シキとイチナとイリナは石を投げることくらいしかできない。そんなことは何の役にもたたない。
ダメだ、目が霞んでくる。痛みとか、痺れも感じられない。ユウはとうとう刀を落としてしまう。もう、死ぬのか、ここで…
ユウの瞼は重たくなってピタリと閉じられた。
「ユウ…」
落ちてきたユウの刀を蛇の腹に深く刺しこむ。全体重をかける。片足を引きずって、サワが進んだ道には赤い道ができていた。サワは一度、刀を引き抜いて、もう一度、深く刺す。
蛇は、ユウを解放する。ユウの体は重力に任せ、落ちていく。落ちた先は、運良く、既に倒れていた蛇の上。そこから、ずるりと地面に落ちる。サワは、這うようにしてユウの元へと向かう。
そのサワを追うように蛇は体をくねらせついていく。
「おい、化け物!相手はこっちだ!」
声のする方向へ体の向きを変えた蛇。
シキは近づくのを確認して、ギリギリのバランスで止まっている身長よりもでかい岩を三人と二頭の力を合わせて蛇の頭に落とす。
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