秀才くんの憂鬱

N

文字の大きさ
上 下
58 / 70
八岐大蛇 です。

心準備 です。

しおりを挟む
 5人は、明日への休息をとる。6畳くらいの所に5人が横になれば、ちょっと窮屈だが別に寝られない程ではない。
ユウの隣にはサワが寝ていた。

ツンツンと鼻を触られてパカッと目を開けるユウ。寝ぼけた目を擦る。
「サワ、」
「シッ」
「分かった、ちょっと、外へ出よう」

ユウとサワは3人の睡眠の邪魔をしないように静かに外へ出る。外に出ると、腰をおろして、二人は隣に座る。
「どうしたの?」
「眠れなくて…ごめんね、寝られないのは私だけなのに、起こしちゃって」
申し訳なさそうにしたサワ。
「いいよ、寝れないのは走り続けるのとはまた別の辛さがあるからね」
「こんな風に二人で夜に喋るのなんて二回目じゃない?」
「あーそうだね、あれは出発の晩だっけ」
「うん」
サワは、ユウの肩に頭をコテンとのせて体重の一部を預ける。
「…不安、なんだよね、」
「…僕もさ」
「え、ユウはなんかの自信があるのかと思ってた」
「自信があるように振る舞わないと、怖さに負けるから、それくらい、」
サワはユウの拳が細かく震えるのを見た。
「ごめんね、カッコ悪くて、頼りないよね」
「それは、お互い様」
そう言って、笑ったサワに真剣な眼差しを向ける。
「でも、今は、前に眠れなかった夜とは違う」
あのときは、サワの不安や怖さを受け入れることが怖くて握ることのできなかったサワの手を握る。
「え…」
驚いたような顔をしたサワ。目線が左右に動く。でも、最後にはユウの真っ青な瞳をサワは見た。
「サワ、僕は、臆病だし、絵に描いたような立派な王子でもないけれど、それでも、サワの感じる不安や恐怖を僕に分けてほしい。僕は、サワが「大丈夫」って思える理由になるような存在になる、必ず」
そう宣言というか決意を表したユウ。サワは、ユウの手を握り返す。
「私だって、同じだよ。ユウのそういう存在になる」
「サワ…」
何か、熱い想いが繋がったような心地がして、僕の心に蔓延る不安が少し前向きな緊張感に変わった。






「いよいよだな」
シキが微かにしらみだした山に目を凝らす。
「あぁ、肩の調子は?」
「痛みはあるが、固定していたらましだ」
「そうか、なら良かった。今日は、翡翠に乗って」
「ありがとな。あ、そう言えば、昨日の夜、サワと二人でどこに行ってたんです?」
ニヤニヤしながらシキは尋ねる。
「眠れないって言ってたから、ちょっと夜風に当たってきただけ」
「それだけ?本当のことを言って」
「それだけ!」
二人で出ていたことがバレていたのか。それだけでも、ちょっと恥ずかしいんだが。その上、何をしたかだと?言えるわけがない。口付けをしましたなど言えるわけがない。
「ユウ、赤くなってるぜ」
「え、嘘?ね、ほんと?」
「ほんとー。もうちょっと、顔に出ないように訓練しとけ」
冗談っぽく笑ったシキと、手で顔をおおったユウ。


イリナとイチナとサワの三人は、それぞれ服を着替えていた。キュッと腰ひもを締める。サワは、細かい暗器をセットする。
「なんか、男性陣楽しそう」
シキとユウの二人の声だけが聞こえてくる。
「何話してるんだろう?」
イチナがそういうと、イリナがピクッと反応する。
「昨日の夜にユウさんとサワさんが何をしていたのかで盛り上がっているみたいです」
「へー」
いたずらっ子みたいな顔をしたイチナと反対を向くサワ。
「いやいや、本当に何もしてないよ!」
「そんなに恥ずかしがらなくても良いよ、だって、好きあってるのは周知の事実だし」
「そう改めて言われると恥ずかしいから!」
耳まで赤く染まったサワ。これはからかいがいがあるように思ったのか、イチナはサワの反応を面白く思う。
「口付けかなー?」
「え?!ち、違うよ、ちょっと、話し聞いてもらっただけだから!」
「ここだけの話、ね?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。 だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。 そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。

「君は保留だった」らしいです

カレイ
恋愛
「僕は貴族に生まれたけれど、浮気しないし、ずっと君一筋だよ」 「わかってくれ、君を愛してるんだ」  これらはヴィオラの夫……ルーカスがよく言う言葉。  最初こそその言葉を信じ彼を愛していたものの、冷たくなっていく夫にヴィオラは次第に愛想を尽かしていく。  しかも夫は浮気しているらしい。  そこで浮気現場を押さえて問い詰めると、ヴィオラに対しルーカスはこう言ってのける。 「君は保留だった」  なら、その保留に捨てられてくださいな。  

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

けん玉ロード

Leon
青春
主人公の「剣沢翔(つるぎさわ かける)」は私立新山(にいやま)中学1年生。いつも遅刻ギリギリで登校するため、「新山のギリセのヒーロー」と自称するが周りからは「遅刻マスター」と呼ばれている。  その日の帰り道、翔は近くの公園で昔懐かし「けん玉」をしている少年を見かけた。彼の名は「玉木流時郎(たまき りゅうじろう)」。  彼にすすめられて、翔は初めてけん玉を手にした。するとビックリ!けん玉が突然輝き、喋り出したのだ。  それに勘づいた流時郎は一翔を練習に誘い、大会に出ないかと提案した。  果たして翔はどこまで成長していくのか?そして光輝くけん玉の正体とは?今始まるけん玉ストーリー。

【本編完結】転生モブ少女は勇者の恋を応援したいのに!(なぜか勇者がラブイベントをスッ飛ばす)

和島逆
ファンタジー
【後日談のんびり更新中♪】 【ファンタジー小説大賞参加中*ご投票いただけますと嬉しいです!】 気づけば私は懐かしのRPGゲームの世界に転生していた。 その役柄は勇者の幼馴染にして、ゲーム序盤で死んでしまう名もなき村娘。 私は幼馴染にすべてを打ち明け、ゲームのストーリーを改変することに。 彼は圧倒的な強さで私の運命を変えると、この世界を救う勇者として旅立った。前世知識をこれでもかと詰め込んだ、私の手作り攻略本をたずさえて――……! いやでも、ちょっと待って。 なんだか先を急ぎすぎじゃない? 冒険には寄り道だって大事だし、そもそも旅の仲間であるゲームヒロインとの恋愛はどうなってるの? だから待ってよ、どうしてせっかく教えてあげた恋愛イベントをスッ飛ばす!? 私の思惑をよそに、幼馴染は攻略本を駆使して超スピードで冒険を進めていくのであった……。 *ヒロインとの恋を応援したいモブ少女&応援なんかされたくない(そして早く幼馴染のところに帰りたい)勇者のお話です

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。 そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。 そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。 クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。

異界の探偵事務所

森川 八雲
ミステリー
探偵の蒼葉次郎が不可思議な事件を解決する

処理中です...