秀才くんの憂鬱

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古仲間 です。

翡翠 です。

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 翡翠と金は、邪馬台国では権力と豊穣の象徴とされている。故に、王族であれば、それらを身に付けることは当たり前であり、それが、誇りだ。どれだけ、服に穴が空こうが、手足が傷まみれになろうが、その二つを持つだけで、周りの態度は変わる。
 ユウは瑠璃硝子に翡翠がちりばめられた500円玉サイズの飾りがついた、金のワイヤーの首飾りをギュッと握る。


どれだけ探してもイリナが見当たらない。顎を伝って雨粒が落ちて、ユウは膝に手を当てて深く息を吐いた。
さっきまで、翡翠を探して、森を分け入っていたせいで、足の指先には生々しい小さな切り傷が無数と出来ていて、それが、一歩踏み出すごとに悲鳴をあげる。じわっと滲む不快な感覚。

「ユウ、大丈夫?」
サワがそう気にかける。
「大丈夫だ。僕のことよりも、はやく、イリナさんを」
この雨のなか、一人で森にいるのは危険だ。濡れた衣服を纏ったままであれば体温も下がるだろう。

声を張り上げ必死にイリナを探す。

日は暮れて、森はゾウゾウザワザワと雨音と風音を響かせ、まるで、一つの生き物みたいに蠢く。

「このまま、見つからなかったらどうしよう…」
「そんな弱気なこと言わないでよ、イチナちゃん。絶対に見つかるよ」
油で浸した手拭いを先に巻いた松明で辺りを照らす。

シキだってまだ万全じゃないのに、どうしてこんなに色々大変なことが起こるんだ。自分自身の運の無さというか、なんというか。



「あ!人がいる!」
ユウが指す先に視線を投げるサワとイチナ。
「え?どこ?」
目を凝らすが見えてこない。
「ほら、あの山桜の近く」
「え?」
「じゃあ、僕に付いてきて」
僕の特技と言えるのか分からないが、僕はどうやら、この青い瞳のせいか、人よりも夜目がきいた。だから、ちょっとした灯りで夜でも本を読める。

「イリナ?」
「それにしては大柄に見える」


「誰だ!」
唐突な大きな声。
何も悪いことはしていないが、思わずビクッとした。三人は足を止める。
なんと、効率の良い声のかけ方だろう。相手の動きを止め、名乗らせる。ほら、もう5人に取り囲まれた。皆、体つきがたくましい。今、攻撃を受ければ、かなり厳しいだろう。いつぞやの盗賊とは訳が違いそうだ。怪しくないと証明するかのように両手をあげた。

「驚かせてしまい、申し訳ございません。私たちは、今、人探しをしていまして、人影が見えたものですから」
「名は?」
「ユウと申します」
「誰がお前の名を訪ねている?探している人の名前だ」
クスッとサワが笑って、ユウは急に恥ずかしくなった。気を取り直して
「イリナ です」
「女子か?」
「はい、どこかでお見かけましたか?」
「さっき、猪用の罠に女子がかかってな。手当てはした。そしたら、その子が、こっちから、音がするって言うもんでなこっちに来てたんだ」
猪用の罠とは一体どんなものだったのだろう。罠の作りによっては、大ケガをしている可能性も否めない。
「今、居ますか?」
イチナがそう訪ねた。
「おう、居るとも。ケガは軽い擦り傷だ。悪いことしちまったな」
はじめは怖い人かと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
男は仲間に指示して、イリナをつれてくる。
イチナがイリナを迎えに行く。
「イリナ、良かった」
「イチナさん…」
「まったく、心配したんだからね」
「はい」

「見つかって良かったな」
「うん、本当に擦り傷だけみたいだし、良かった。でも、何でイリナちゃんは、私たちの側から離れたんだろう」

「あの子が、あんたらと一緒に居るってことはこの馬もか?」
「馬?」
サワは、首をかしげる。ただ、その馬が何者であるかをいち早く理解したユウは馬へ駆けた。イリナは翡翠を追いかけていたんだ。
「翡翠だ!」
「良かったな、飼い主さんが見つかって」
翡翠の手綱を今度こそはガッチリと握る。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
「良いってことよ!」
「あの、あなた方は一体?」
イリナのことも翡翠のことも礼をさせてほしい。
「狩猟と害獣退治が生業の移動民族だ。村っていう村は無くてな、あちこちを転々としながら、依頼があったらそこへ行くんだ」
「では、この辺りも何か依頼があって?」
「あぁ、ドでかい大蛇を退治してほしいってな、依頼主いわく、頭が八つの化け物だそうだ。まあ、見間違いだろうけど」
頭が八つの大蛇?
深く聞かないわけにはいかない!
サワとユウは顔を見合わせた。
「僕ら、その蛇を探しているんです」
正確にはその蛇が持つと言われる剣を探している。
「馬鹿を言うな!お前みたいな、坊っちゃんがこんなに暗い森をどうして探す?悪いが、俺は、冗談には付き合わない主義でな」
笑い混じりにそう言って、本気で取り合うきなんてさらさらない。
「坊っちゃん…?」
「翡翠と金の首飾り、邪馬台国の王家出身なんだろ?羨ましい」
「僕は、そんなんじゃ…」
サワがズイッと一歩前に出た。
「ユウは、冗談を言っているんじゃない。本気ですよ!」
「サワ…」
サワの本気の声にただならぬ迫力を感じたのか、いかにも長であるような人が話に応じることになった。
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