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イチナとイリナ です。
裏切り です。
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ユウの目の前で手をヒラヒラさせる。うん、反応はない。この刀を盗って、イリナが帰ってくるなら。ゴクリと唾を飲み込む。王子の、いや、仲間を助けるどころか、自分の欲のために、仲間を裏切ろうとしている。こんなのって最低だ。でも、こんなチャンスがもう一度あるとも限らない。イチナは目を瞑って、グーンと胴体と刀の距離をとってから、腕を伸ばして、刀を引き抜いた。さすがは王子だ。金の装飾が入った柄など早々お目にかかれないし、刀身はギラギラと光って、刃先には波打つ紋様が入っている。刀だけで、農民が10年は暮らせる価値がありそうだ。
イチナは刀を弓矢を入れる袋と同じ袋に入れて、バッと隠した。
細く息を吐いて、心臓を落ち着かせる。
これは、イリナを取り戻すため。そう、思えば思うほどに、まるで、掛け替えのない大切な仲間と、たった一人の妹を天秤にかけているみたいで気分が悪い。
「父さん!」
イチナは大声でそう呼ぶ声が聞こえて、ビクッとして、声がした方を見る。見ると、シキがガバッと勢いよく起き上がった瞬間だった。
シキはワシャワシャと頭をかきむしる。そして、今までに見たことが無いような顔をした。強く歯を食い縛って、額に血管を浮かべて、上瞼と下瞼をくっつけて、子供が痛みに耐えるみたいな顔をして、シキは肩を震わせる。
一体、どんな、夢を見せられたのだろう。
「シキ…」
そう言って、膝を地面につけたまま、シキに伸ばしかけた手は裏切りにもとれる行為に染めていた手。イチナが躊躇い、手を引っ込めるスピード以上で、シキはイチナに抱きついた。シキの頭がイチナの肩に乗って、想像以上の近さにドキッとする。シキはギューッとイチナを締め付ける腕に力を入れる。イチナとシキの境界は曖昧に滲む。シキの溢れる涙が、イチナの肩に小さなシミを作る。
「離して」
「…やだ」
「私、汚れてるし…」
「どうだっていい」
らしくない。シキがこんなんなんてらしくない。
イチナは子供を落ち着かせるみたいに、シキの頭に優しく手を当てて、撫でる。
「シキ…大丈夫、大丈夫」
柔らかい声だ。
シキは徐々に冷静さを取り戻したのか、呼吸が落ち着いていく。
「イチナ、私は、」
混乱状態から脱したシキは、イチナの体に巻き付けた腕をほどく。シキが離れると、冷たい空気がフワッと懐に入ってくる。
「夢だから、もう、大丈夫」
イチナはシキにそう言うと立ち上がる。そして、瑠璃が持つ鞄から竹の水筒を取り出す。
シキはグーパーと手を交互にする。
「父が消える夢を見た」
「…」
どれ程、怖い夢だっただろう。シキがこうまでなるなんて。
家族が離れる苦しみはよく分かってるつもりだから。
イチナは無言で、シキに水を渡した。
「ありがとう」
シキは、ゆっくりと口をつける。
シキはパッと私を見上げる。目があってしまった。
「おかわり?」
「いや、」
「じゃあ、何?どこか痛い?」
「さっき、抱きついたこと、謝りたくて。何て言うか、その、さっきのは私じゃなくて、えっと、イチナがその場に居たからというか…ほんと、ごめん」
深々と頭を下げたシキ。
「誰でも良かったんだ…」
小声でボソッと言ったイチナ。なんで、落ち込んでいる自分がいるんだろう。
パンパンと頬を叩く。
イチナの小声を拾ったシキはその言葉をそっと胸のうちに仕舞いこんだ。「誰でも良かったんだ…」抱きついたことには怒って無かったんだ。誰でも抱きついた訳じゃないよ、イチナだったから、咄嗟に抱きついてしまったんだ。まあ、口にできるわけないけど。
「ごめん、やっぱり、おかわりしてもいいかい?」
「仕方ないなー」
「ユウたちも寝ているのか?」
「そうみたい」
「まるで、魔術だな。イチナも寝ていたのか?」
そうだな、寝ている間の夢になれば良かった。
「あれ?イチナ、弓は出てるのに袋の口を閉じているのには何か意味があるのか?」
袋に手を伸ばしかけたシキ。なんで、こんなときばっかり洞察力に優れているのか。イリナはダッシュで、袋の口を踏みつける。まさか、ユウの刀とサワの武器が入っているなんて、口が割けたって言えない。
「そ、そんなに?」
「え、えっと、ま、マムシ、袋にマムシが入ったから」
「冬眠中なのに驚いたのかな」
覗こうとするシキ。
「ほんと、毒とかあるし、離れて」
「私が逃がそうか?」
「ううん、大丈夫」
食いぎみに答えたイチナ。
「イチナに危ないことさせられないよ」
「マムシが居るんだよ、シキこそ」
「なぜ、そう頑なになる?」
シキは、イチナを抱えあげて、ポカスカと叩かれながら、イチナを数メートル離れたところに移動させてから、縦長の巾着の形をした弓矢を入れる袋を取り上げて、持ち上げる。矢だけにしてはやけに重たい。だが、生き物が動く気配というのを感じられず、シキは袋の口を開けて覗きこむ。
「これ…」
中に入っているのは、ユウの刀。嘘だろ。イチナが盗み?それも、同じ仲間の。呆然として手の力が抜けたシキからイチナが袋を取り返す。
「イチナ、どうして、こんなことができる?教えてくれ、これは、どうするつもりだった?」
シキは、幻滅したと言わんばかりの眼差しをイチナに向ける。
イチナは刀を弓矢を入れる袋と同じ袋に入れて、バッと隠した。
細く息を吐いて、心臓を落ち着かせる。
これは、イリナを取り戻すため。そう、思えば思うほどに、まるで、掛け替えのない大切な仲間と、たった一人の妹を天秤にかけているみたいで気分が悪い。
「父さん!」
イチナは大声でそう呼ぶ声が聞こえて、ビクッとして、声がした方を見る。見ると、シキがガバッと勢いよく起き上がった瞬間だった。
シキはワシャワシャと頭をかきむしる。そして、今までに見たことが無いような顔をした。強く歯を食い縛って、額に血管を浮かべて、上瞼と下瞼をくっつけて、子供が痛みに耐えるみたいな顔をして、シキは肩を震わせる。
一体、どんな、夢を見せられたのだろう。
「シキ…」
そう言って、膝を地面につけたまま、シキに伸ばしかけた手は裏切りにもとれる行為に染めていた手。イチナが躊躇い、手を引っ込めるスピード以上で、シキはイチナに抱きついた。シキの頭がイチナの肩に乗って、想像以上の近さにドキッとする。シキはギューッとイチナを締め付ける腕に力を入れる。イチナとシキの境界は曖昧に滲む。シキの溢れる涙が、イチナの肩に小さなシミを作る。
「離して」
「…やだ」
「私、汚れてるし…」
「どうだっていい」
らしくない。シキがこんなんなんてらしくない。
イチナは子供を落ち着かせるみたいに、シキの頭に優しく手を当てて、撫でる。
「シキ…大丈夫、大丈夫」
柔らかい声だ。
シキは徐々に冷静さを取り戻したのか、呼吸が落ち着いていく。
「イチナ、私は、」
混乱状態から脱したシキは、イチナの体に巻き付けた腕をほどく。シキが離れると、冷たい空気がフワッと懐に入ってくる。
「夢だから、もう、大丈夫」
イチナはシキにそう言うと立ち上がる。そして、瑠璃が持つ鞄から竹の水筒を取り出す。
シキはグーパーと手を交互にする。
「父が消える夢を見た」
「…」
どれ程、怖い夢だっただろう。シキがこうまでなるなんて。
家族が離れる苦しみはよく分かってるつもりだから。
イチナは無言で、シキに水を渡した。
「ありがとう」
シキは、ゆっくりと口をつける。
シキはパッと私を見上げる。目があってしまった。
「おかわり?」
「いや、」
「じゃあ、何?どこか痛い?」
「さっき、抱きついたこと、謝りたくて。何て言うか、その、さっきのは私じゃなくて、えっと、イチナがその場に居たからというか…ほんと、ごめん」
深々と頭を下げたシキ。
「誰でも良かったんだ…」
小声でボソッと言ったイチナ。なんで、落ち込んでいる自分がいるんだろう。
パンパンと頬を叩く。
イチナの小声を拾ったシキはその言葉をそっと胸のうちに仕舞いこんだ。「誰でも良かったんだ…」抱きついたことには怒って無かったんだ。誰でも抱きついた訳じゃないよ、イチナだったから、咄嗟に抱きついてしまったんだ。まあ、口にできるわけないけど。
「ごめん、やっぱり、おかわりしてもいいかい?」
「仕方ないなー」
「ユウたちも寝ているのか?」
「そうみたい」
「まるで、魔術だな。イチナも寝ていたのか?」
そうだな、寝ている間の夢になれば良かった。
「あれ?イチナ、弓は出てるのに袋の口を閉じているのには何か意味があるのか?」
袋に手を伸ばしかけたシキ。なんで、こんなときばっかり洞察力に優れているのか。イリナはダッシュで、袋の口を踏みつける。まさか、ユウの刀とサワの武器が入っているなんて、口が割けたって言えない。
「そ、そんなに?」
「え、えっと、ま、マムシ、袋にマムシが入ったから」
「冬眠中なのに驚いたのかな」
覗こうとするシキ。
「ほんと、毒とかあるし、離れて」
「私が逃がそうか?」
「ううん、大丈夫」
食いぎみに答えたイチナ。
「イチナに危ないことさせられないよ」
「マムシが居るんだよ、シキこそ」
「なぜ、そう頑なになる?」
シキは、イチナを抱えあげて、ポカスカと叩かれながら、イチナを数メートル離れたところに移動させてから、縦長の巾着の形をした弓矢を入れる袋を取り上げて、持ち上げる。矢だけにしてはやけに重たい。だが、生き物が動く気配というのを感じられず、シキは袋の口を開けて覗きこむ。
「これ…」
中に入っているのは、ユウの刀。嘘だろ。イチナが盗み?それも、同じ仲間の。呆然として手の力が抜けたシキからイチナが袋を取り返す。
「イチナ、どうして、こんなことができる?教えてくれ、これは、どうするつもりだった?」
シキは、幻滅したと言わんばかりの眼差しをイチナに向ける。
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