秀才くんの憂鬱

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イトスギ です。

良い雰囲気 です。

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 ユウとサワを小屋に残して出ていったシキとイチナの話である。

小屋を出たイチナ。夕日が強い光を放っていて、思わず目を細めた。
「シキ、手伝ってほしいことって?」
イチナは頭をかしげ、シキは頭をかく。
「えっと、あれだよ、えっと、」
「瑠璃と翡翠の餌やり?」
「そ、そう。私がやっても上手くいかなくてね」
門の近くの馬小屋に二頭を預けている。
小屋からは少しばかり離れていて、シキとイチナはそこに向かって歩く。

「イチナが手伝ってくれて助かるよ。君が居れば百人力だからな」
「本当は手伝ってほしいことは無くてサワちゃんとユウくんに気を使ったんでしょ?」
「バレてるか…」
シキは地面に転がる小石をポンと蹴った。柄でもないことをしたからかな。なんか、照れるような、恥ずかしいような。
「ユウくんって、やっぱりサワちゃんのこと好きなのかな?」
「まあ、特別なようには思っているでしょうね。でないと、自然と手を握ったりしませんよ」
「だよね。  うん?シキは色んな女の人にやってない?行く先々で」
「色んな女の人を、私は、特別に思っているというだけです。どの女性の手も、柔らかく、思わず大切にしたくなるもの」
シキは右手を胸にあてた。清廉潔白で純粋にそう思っているかのような素振り。
「なかなか、最低なこと言ってるよね。それって、要は色んな人に気があるってことじゃん」
「気があるのは罪ではない。そうでしょう?」
「いつか痛い目見るよ」
「そういうときは、逃げるので、ご心配なく」
なんと言うか、サイテーだなこいつ そう思った。
「うーっわ」
シキは虫けらでも見るような目で見られる。
「何?その顔は」
「シキ、一途なら良いのに。もったいないよ。人生を損してる」
「老い先短い人生、派手に遊んでもバチは当たらないさ。それと、私が死ぬまでに一人くらいは心に決める女性が現れると思うけどな」
「霖練のフラワさんとか?」
「かもな」
「あ、考えてないでしょ。その返事」
「ちなみに、君も候補には入ってる」
君も? 複数人いる前提がバカにしてるんですか?って感じ。サワちゃんが羨ましいわ。ユウくんみたいな誠実で賢い人に想いを寄せられて。本人は否定してるけど、完全にそうじゃん。私は…
「は?いやいや、何その言い方?絶対にほんの少しも思ってない。もう、顔にかいてあるもん」
「イチナは優しいし頼りになるし、勇気あるし、家族と仲間思いで、ご飯は美味しいし、馬にも好かれてて、いい人だと思うのは本気の話」
イチナは瑠璃と翡翠に干し草を食べさせる。シキが背中を触ろうとすると、頭を振って拒むが、イチナが瑠璃の鼻筋を撫でても気持ち良さそうにする。目を瞑って口角をあげるイチナ。テレパシーでも使って馬との会話を楽しむようなイチナ。シキはそのイチナの様子を見て、不意に微笑んでいた自分を自覚した。
「それと、イチナは私を含め周りの人を笑顔にする力を持っている。私は、イチナの笑顔が好きだ」
「よくそういうことをベラベラと喋れるよね。だから、なんか軽そうに見られるんだよ。シキの言葉ってどんな誉め言葉も価値が薄いような気がしちゃってさ」
本気で言ってるのにイチナに全然伝わってねー!シキは眉間にシワを寄せた。


「暗くなったし、餌あげれたし、そろそろ戻ろう」
「了解」

小屋の扉を僅かに開けて中の様子をうかがう。
「ん、サワちゃんとユウくんが、何か喋ってる、サワちゃん起きたんだ」
イチナとシキは思わずハイタッチをした。パチッと目が合う。
んんっ と咳払いで誤魔化して、パッと手を下げる。
「良かったな」
「あぁ」


「なんだ?君たち?こんなところで」
「先生も中見てください」
後ろから声をかけてきた先生。細い隙間から、ジーッと見る。仲睦まじそうに、手を取り合って、何か話している二人。

「急に入って、驚かせよっか」
絶対、繋いでる手を急に離すからそこ見てな。
「先生…」
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