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道を歩け です。
独立集落 です。
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瑠璃と人影に近づく。
「なんね、あんたら!」
クワやら鎌やらを持って、待ち構える数人の爺さん。いきなり、相当な敵扱いに驚きつつ、冷静に対処することを試みる。
「私たちは旅の者です。決して、怪しいものではありません」
近づいてみて分かったが、どうやらここは、村の入り口みたいだ。小さいが、田んぼもあり、土器を作る釜からの煙が立っている。
「怪しか、このムラば統合しよっと偵察に来よっちょね」
「そうに違いねぇだ」
じりじり近づいてきた爺さんたちに、怯えることなく前を見て立つ。瑠璃も隣で、背筋をシャンとして止まっている。
「いえ、本当に僕は旅をしている者で、統合など微塵も考えていません。旅をする中で、最も大切なのは各地の文化を重んじる心と思っております」
「そげな、言葉重ねたって信じられんもんは信じられん」
「わ!ドカさん、よう見てみぃ。その男の目は青色をしとる」
この、青い瞳をしていれば、面白がり、気味悪がり、好奇の目にさらされる。神秘的と言う人もいれば、鬼の目と恐れおののく者もいる。王宮では無論、僕の容姿についてとやかく言う者はいないが、一歩外へ出れば僕の目というのは色んな憶測を呼び起こす。なりたくて、なっているわけではないのに。
「鬼神じゃ、こげん青か目、人から生まれて持つはずがなかよ」
爺さんたちは一歩引いてこそこそと話し合う。
「すぐに、用意させるだ」
一人が、ムラに走って戻る。
「鬼神様や、すぐにおもてなしの準備させますけん、用意できるまで、ムラの探索ばしとってください」
「あの、僕、ただの人です」
「何を言いよっと。気にせんとってください。鬼神様は鬼神様や」
なんか、さっきから話が噛み合っていない。手をあわせて拝まれても。
しばらく、その門の近くで不毛なやり取りをしていると、サワとイチナと翡翠がやって来た。
「ユウ、待ってたよ。もう、勝手に行かないでよ」
サワは少し不満そうにする。
「悪い」
「なんね、仲間さ連れて」
爺さんは驚いた様子で、三人の顔をそれぞれ交互に見る。それを見て、サワはユウに耳打ちする。
「これで、足止め喰らってたのか」
「そうだ、僕のことを鬼神かなにかと勘違いしているみたいなんだ」
サワは、一歩前に出る。
「冒充使者。 我迷失了,假装是外国人」
サワが道に迷った外国人で僕がその使者のフリをしろということらしい。なるほど、外国人であれば多少変わった身なりをしていても人間として扱ってもらえるし、ムラに入れるかもしれない。
「你明白了吗」
分かった と返事をしてコクッと頷いた。イチナは戸惑う。無理もない。
「このムラを通してほしい。と言っている。彼女は魏の使者で、諸国を見て回っているのです」
「そ、そうです。彼女は、この列島の伝説を追っています」
イチナは、状況を飲み込めないなりにも、なにか察したのか口を開いた。
「ホントに魏から来なすったと?」
「这是正确的。 来吧,让我们穿过泥泞」
「そうです。ムラに通していただけないでしょうか と」
その流暢なサワの言葉を聞いて信じたのか、爺さんはあっけなくムラに三人と二頭を通した。
「やった」
小さくガッツポーズ。
ムラはこじんまりとして、範囲は狭く、十世帯くらいしかいないように思えるが、高い製鉄技術を持ち、どの家でも鉄器や青銅器を使っている。
「綺麗なムラですね」
イチナは、当たり障りのない話をする。
「そうじゃろ、こん土地は良質な金属が採れるんじゃ。こんムラで打ち出された、剣は神の力ば宿ると信じられとる」
剣に神の力?気になる単語だ。サワと目が合う。
「请我教你更多关于剑的故事」
「剣の話をもっと教えてほしいと」
「嬢さん、若いのに剣に興味があるんか」
「是的」
サワはコクンと頷いた。
「もう何年も昔のこと。おらが生まれるよりもずーっとずーっと昔、おらがムラの金属ば欲しがって訪ねて来よった男がおったとよ。んでしゃ、その男は剣を作るのがほんに上手くて、天から才を授かったといっとったそうじゃ。このムラには、500年に一度現れる宝玉があるんや。その宝玉を練り入れて、剣を打つんは神の技や。普通の者は、宝玉にすぐに取り付かれてまうでな。んでも、男は宝玉を使ってたった数日で完璧な剣さ仕上げたとよ。そん、剣は握った者の願いば何でも叶えて、しまいにはこん列島で一番権力のあるものに渡っていったそうじゃ。何でも、八つの頭さ持つ蛇を退治するために」
列島で一番、権力を持っていたのは倭国。邪馬台国のもととなったクニだが、それに劣らないクニがあったと言うのか。魏に渡ったときも、列島で話に上がるクニは倭国と邪馬台国が専らだ。それに、八つの頭を持つ蛇だと?
「このムラで私の先祖は剣を打ったのかな」
「本では、八つの頭を持つ蛇の尻尾から剣は出てきたと書かれていた」
「私の家に伝わる話では、先祖が打ち出したことになっているよ」
「この話には続きがあるとよ」
「教えてください」
「こん剣で大蛇の尻尾を突き刺して封印したそうじゃ。東国に」
「そっか、尻尾に剣が刺さっているのなら、剣が尻尾から出てきたように思えて不思議じゃない」
イチナはどこか納得したように小声で独り言。ユウは小さく拳を握った。
「そうだったんですか。東国に…」
「ま、剣は一度置いといて、このムラば見ていってください」
ムラの至るところで金属を打つ鍛冶屋の音がする。その音を聞きつつ、色んなところを見て回る。本当に手入れの行き届いたムラだ。
サワが指を指した先を見ると、処刑台があった。
「え、何あれ?」
イチナは首をかしげる。
「あれは、処刑台だ。罪を犯したものに使う」
「よくご存じで。あれは、人殺しをした罪人に使うものじゃ」
「使うことあるんですか?」
「8年前に使ってそれきりじゃ。いや、8年前の者は逃げ出したな。直前になって。まだ、ほんの小童やったっけな」
子供にも使うのか?邪馬台国では死刑は存在しない。例えどんな罪を置かそうと生きて償わせる。魏には死刑制度があったが。ずっと、邪馬台国で育っているサワには衝撃的だったようだ。
「そうだったんですか」
「名前を、シェキナと言ったな。今は何しよっとかな」
爺さんは、ムラの集会場で、3人にご馳走を振る舞った。
「美味しかったです。わざわざ、ありがとうございます」
「谢谢」
「ありがとうございます と。僕からも、ありがとうございます」
村人の顔つきが変わった。
「さて、剣の話もしたし、銭は?」
「そや、もてなしの準備もしたなぁ」
そうだよな。こんな、都合のいい話がそうそうに転がっているわけがない。ユウは、懐から金貨を出す。さすが、王子というくらいの金は持っている。
「これを」
ユウが差し出したが、それはパンと払われた。
「何をするのですか」
「わしらが欲しがっとうは、あんたの目さ」
ユウは村人に取り押さえられて、目を無理やり開けられる。
「やめるんだ!」
「ユウくんから離れてください」
イチナは必死に村人をユウから引き剥がそうとするがうまくいかない。
「ユウ!」
サワはユウの脇の下から腕を入れてズルズルとユウを引き抜こうとする。
ユウはユウで必死に抵抗する。足で蹴って、手で払う。丸腰が嫌になる。こんなとこで、足止め食らってる場合じゃないんだ。ドンと曲げた足を勢いよく伸ばす。よろめいた隙をついて、バッと立ち上がる。
「ユウ、刀」
サワが、部屋の隅に立て掛けられたユウの刀をユウに投げる。居てほしい所に居てくれるサワ。流石、視野が広い。パシッとつかみとる。刀を抜いて、構える。
「形勢逆転」
「青い目、鬼神の目があれば、草薙剣を我が物に出来ようぞ!」
「バカか…」
ユウは、襲いかかって来た人の首の付け根を峰打ち。一心不乱で乱れた拳や太刀筋を食らうほど弱くはない。
「イチナさん、サワと、瑠璃と翡翠をこっちに呼んどいて欲しい」
サワはそれを聞いてイチナの手を取り、屋敷を出る。サワがついていれば、大丈夫。絶対的なそういう自信があった。
「ユウ!来て!」
瑠璃と翡翠に股がる二人の姿が横目に見えて、ユウは細い廊下を全速力で駆け抜ける。後ろから、猛然と追いかけてくる人々を振り切って、外へ出る。
「サワ、イチナ、ありがとな」
まぶたに引っ掻き傷を受けて、流血していたユウ。痛々しく、目を開けるのもつらそう。
サワは瑠璃からおりて、追手を煙幕でまく。さらに、マキビシのような物を撒いて追手に時間がかかるようにする。
ムラをやっとの思いで飛び出して、森に行きを潜めた。
「あと、少しだから」
イチナは翡翠を誘導しながら、一番影になるところ探す。
瑠璃の上でぐったりとするユウ。
それを追いかけてきたサワ。
ユウを馬からおろして横にする。
「ユウ…」
サワは心配そうにユウを見る。
「サワ、イチナさん、すまない。僕のせいで」
「ユウ、大丈夫?」
サワが水をバシャッとユウにかける。
「ビックリしたー」
「顔中に引っ掻き傷。痛そう」
「見た目よりは大丈夫。二人は怪我は無かった?」
こんな時でも人の心配か。
「ユウ、目、開けて」
ユウはそっと目を開けた。
すると、白目の部分は赤く血が滲んでいた。まぶたも、真っ赤に血で染まり、細かい引っ掻き傷が無数についている。水で流してみても、どんどん血が出てくる。
「サワちゃん、はいこれ、一応」
イチナがサワに渡したのは、包帯と塗り薬。
「ありがと」
傷口を綺麗に洗い流してから、ユウの目元に包帯を巻くサワ。
「これじゃ、見えないんだけど」
「触ったら良くないのは確かだから」
「そうだけど…」
ユウは、目元に包帯を巻かれて、文句を垂らす。
「しばらくしたら治るよ」
「イチナさんまで」
「大丈夫、大丈夫、目が治るまで、私らがユウの目もやるから」
サワのその軽さが人を不安にさせる。
「あのムラやばかったね。狂気じゃん」
「でも、得た情報もでかい。東国を目指そう」
処置を終えると、森の反対側へ抜けて、また歩き始めた。
「もう、いいの?」
「あぁ、見た目よりはマシと言っただろう。心配にさせてすまなかったな、イチナさん」
ユウは目隠し状態のまま微笑んだ。
「なんね、あんたら!」
クワやら鎌やらを持って、待ち構える数人の爺さん。いきなり、相当な敵扱いに驚きつつ、冷静に対処することを試みる。
「私たちは旅の者です。決して、怪しいものではありません」
近づいてみて分かったが、どうやらここは、村の入り口みたいだ。小さいが、田んぼもあり、土器を作る釜からの煙が立っている。
「怪しか、このムラば統合しよっと偵察に来よっちょね」
「そうに違いねぇだ」
じりじり近づいてきた爺さんたちに、怯えることなく前を見て立つ。瑠璃も隣で、背筋をシャンとして止まっている。
「いえ、本当に僕は旅をしている者で、統合など微塵も考えていません。旅をする中で、最も大切なのは各地の文化を重んじる心と思っております」
「そげな、言葉重ねたって信じられんもんは信じられん」
「わ!ドカさん、よう見てみぃ。その男の目は青色をしとる」
この、青い瞳をしていれば、面白がり、気味悪がり、好奇の目にさらされる。神秘的と言う人もいれば、鬼の目と恐れおののく者もいる。王宮では無論、僕の容姿についてとやかく言う者はいないが、一歩外へ出れば僕の目というのは色んな憶測を呼び起こす。なりたくて、なっているわけではないのに。
「鬼神じゃ、こげん青か目、人から生まれて持つはずがなかよ」
爺さんたちは一歩引いてこそこそと話し合う。
「すぐに、用意させるだ」
一人が、ムラに走って戻る。
「鬼神様や、すぐにおもてなしの準備させますけん、用意できるまで、ムラの探索ばしとってください」
「あの、僕、ただの人です」
「何を言いよっと。気にせんとってください。鬼神様は鬼神様や」
なんか、さっきから話が噛み合っていない。手をあわせて拝まれても。
しばらく、その門の近くで不毛なやり取りをしていると、サワとイチナと翡翠がやって来た。
「ユウ、待ってたよ。もう、勝手に行かないでよ」
サワは少し不満そうにする。
「悪い」
「なんね、仲間さ連れて」
爺さんは驚いた様子で、三人の顔をそれぞれ交互に見る。それを見て、サワはユウに耳打ちする。
「これで、足止め喰らってたのか」
「そうだ、僕のことを鬼神かなにかと勘違いしているみたいなんだ」
サワは、一歩前に出る。
「冒充使者。 我迷失了,假装是外国人」
サワが道に迷った外国人で僕がその使者のフリをしろということらしい。なるほど、外国人であれば多少変わった身なりをしていても人間として扱ってもらえるし、ムラに入れるかもしれない。
「你明白了吗」
分かった と返事をしてコクッと頷いた。イチナは戸惑う。無理もない。
「このムラを通してほしい。と言っている。彼女は魏の使者で、諸国を見て回っているのです」
「そ、そうです。彼女は、この列島の伝説を追っています」
イチナは、状況を飲み込めないなりにも、なにか察したのか口を開いた。
「ホントに魏から来なすったと?」
「这是正确的。 来吧,让我们穿过泥泞」
「そうです。ムラに通していただけないでしょうか と」
その流暢なサワの言葉を聞いて信じたのか、爺さんはあっけなくムラに三人と二頭を通した。
「やった」
小さくガッツポーズ。
ムラはこじんまりとして、範囲は狭く、十世帯くらいしかいないように思えるが、高い製鉄技術を持ち、どの家でも鉄器や青銅器を使っている。
「綺麗なムラですね」
イチナは、当たり障りのない話をする。
「そうじゃろ、こん土地は良質な金属が採れるんじゃ。こんムラで打ち出された、剣は神の力ば宿ると信じられとる」
剣に神の力?気になる単語だ。サワと目が合う。
「请我教你更多关于剑的故事」
「剣の話をもっと教えてほしいと」
「嬢さん、若いのに剣に興味があるんか」
「是的」
サワはコクンと頷いた。
「もう何年も昔のこと。おらが生まれるよりもずーっとずーっと昔、おらがムラの金属ば欲しがって訪ねて来よった男がおったとよ。んでしゃ、その男は剣を作るのがほんに上手くて、天から才を授かったといっとったそうじゃ。このムラには、500年に一度現れる宝玉があるんや。その宝玉を練り入れて、剣を打つんは神の技や。普通の者は、宝玉にすぐに取り付かれてまうでな。んでも、男は宝玉を使ってたった数日で完璧な剣さ仕上げたとよ。そん、剣は握った者の願いば何でも叶えて、しまいにはこん列島で一番権力のあるものに渡っていったそうじゃ。何でも、八つの頭さ持つ蛇を退治するために」
列島で一番、権力を持っていたのは倭国。邪馬台国のもととなったクニだが、それに劣らないクニがあったと言うのか。魏に渡ったときも、列島で話に上がるクニは倭国と邪馬台国が専らだ。それに、八つの頭を持つ蛇だと?
「このムラで私の先祖は剣を打ったのかな」
「本では、八つの頭を持つ蛇の尻尾から剣は出てきたと書かれていた」
「私の家に伝わる話では、先祖が打ち出したことになっているよ」
「この話には続きがあるとよ」
「教えてください」
「こん剣で大蛇の尻尾を突き刺して封印したそうじゃ。東国に」
「そっか、尻尾に剣が刺さっているのなら、剣が尻尾から出てきたように思えて不思議じゃない」
イチナはどこか納得したように小声で独り言。ユウは小さく拳を握った。
「そうだったんですか。東国に…」
「ま、剣は一度置いといて、このムラば見ていってください」
ムラの至るところで金属を打つ鍛冶屋の音がする。その音を聞きつつ、色んなところを見て回る。本当に手入れの行き届いたムラだ。
サワが指を指した先を見ると、処刑台があった。
「え、何あれ?」
イチナは首をかしげる。
「あれは、処刑台だ。罪を犯したものに使う」
「よくご存じで。あれは、人殺しをした罪人に使うものじゃ」
「使うことあるんですか?」
「8年前に使ってそれきりじゃ。いや、8年前の者は逃げ出したな。直前になって。まだ、ほんの小童やったっけな」
子供にも使うのか?邪馬台国では死刑は存在しない。例えどんな罪を置かそうと生きて償わせる。魏には死刑制度があったが。ずっと、邪馬台国で育っているサワには衝撃的だったようだ。
「そうだったんですか」
「名前を、シェキナと言ったな。今は何しよっとかな」
爺さんは、ムラの集会場で、3人にご馳走を振る舞った。
「美味しかったです。わざわざ、ありがとうございます」
「谢谢」
「ありがとうございます と。僕からも、ありがとうございます」
村人の顔つきが変わった。
「さて、剣の話もしたし、銭は?」
「そや、もてなしの準備もしたなぁ」
そうだよな。こんな、都合のいい話がそうそうに転がっているわけがない。ユウは、懐から金貨を出す。さすが、王子というくらいの金は持っている。
「これを」
ユウが差し出したが、それはパンと払われた。
「何をするのですか」
「わしらが欲しがっとうは、あんたの目さ」
ユウは村人に取り押さえられて、目を無理やり開けられる。
「やめるんだ!」
「ユウくんから離れてください」
イチナは必死に村人をユウから引き剥がそうとするがうまくいかない。
「ユウ!」
サワはユウの脇の下から腕を入れてズルズルとユウを引き抜こうとする。
ユウはユウで必死に抵抗する。足で蹴って、手で払う。丸腰が嫌になる。こんなとこで、足止め食らってる場合じゃないんだ。ドンと曲げた足を勢いよく伸ばす。よろめいた隙をついて、バッと立ち上がる。
「ユウ、刀」
サワが、部屋の隅に立て掛けられたユウの刀をユウに投げる。居てほしい所に居てくれるサワ。流石、視野が広い。パシッとつかみとる。刀を抜いて、構える。
「形勢逆転」
「青い目、鬼神の目があれば、草薙剣を我が物に出来ようぞ!」
「バカか…」
ユウは、襲いかかって来た人の首の付け根を峰打ち。一心不乱で乱れた拳や太刀筋を食らうほど弱くはない。
「イチナさん、サワと、瑠璃と翡翠をこっちに呼んどいて欲しい」
サワはそれを聞いてイチナの手を取り、屋敷を出る。サワがついていれば、大丈夫。絶対的なそういう自信があった。
「ユウ!来て!」
瑠璃と翡翠に股がる二人の姿が横目に見えて、ユウは細い廊下を全速力で駆け抜ける。後ろから、猛然と追いかけてくる人々を振り切って、外へ出る。
「サワ、イチナ、ありがとな」
まぶたに引っ掻き傷を受けて、流血していたユウ。痛々しく、目を開けるのもつらそう。
サワは瑠璃からおりて、追手を煙幕でまく。さらに、マキビシのような物を撒いて追手に時間がかかるようにする。
ムラをやっとの思いで飛び出して、森に行きを潜めた。
「あと、少しだから」
イチナは翡翠を誘導しながら、一番影になるところ探す。
瑠璃の上でぐったりとするユウ。
それを追いかけてきたサワ。
ユウを馬からおろして横にする。
「ユウ…」
サワは心配そうにユウを見る。
「サワ、イチナさん、すまない。僕のせいで」
「ユウ、大丈夫?」
サワが水をバシャッとユウにかける。
「ビックリしたー」
「顔中に引っ掻き傷。痛そう」
「見た目よりは大丈夫。二人は怪我は無かった?」
こんな時でも人の心配か。
「ユウ、目、開けて」
ユウはそっと目を開けた。
すると、白目の部分は赤く血が滲んでいた。まぶたも、真っ赤に血で染まり、細かい引っ掻き傷が無数についている。水で流してみても、どんどん血が出てくる。
「サワちゃん、はいこれ、一応」
イチナがサワに渡したのは、包帯と塗り薬。
「ありがと」
傷口を綺麗に洗い流してから、ユウの目元に包帯を巻くサワ。
「これじゃ、見えないんだけど」
「触ったら良くないのは確かだから」
「そうだけど…」
ユウは、目元に包帯を巻かれて、文句を垂らす。
「しばらくしたら治るよ」
「イチナさんまで」
「大丈夫、大丈夫、目が治るまで、私らがユウの目もやるから」
サワのその軽さが人を不安にさせる。
「あのムラやばかったね。狂気じゃん」
「でも、得た情報もでかい。東国を目指そう」
処置を終えると、森の反対側へ抜けて、また歩き始めた。
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