秀才くんの憂鬱

N

文字の大きさ
上 下
6 / 70
出発前 です。

叔父様 です。

しおりを挟む
 「あの、ユウくん居ますか?」
子供が友達を遊びに誘うみたいなトーンで、ノックをするのは、ユウが呼びつけたユウの叔父だ。年齢こそ、叔父が上だが、王位継承順位から身分が上なのはユウになる。

「はい、居ますよ。お久しぶりです」
戸を開けると、叔父は特に躊躇う様子もなく部屋に入ってくる。母の弟である叔父とは仲が良い。
「お久しぶりです。と、言っても、一週間ぶりじゃないですか。いやぁ、でも、背が伸びましたね」
「それ、会うたびに言ってますね。一週間じゃ、変わりませんよ」
「そりゃ、かわいい甥っ子の変化には敏感になりますよ」
叔父は、自他共に認める、お姉ちゃん子である。両親が幼い頃に戦死しているから、基本的には年に離れた姉(ユウの母)がずっと育ててくれたと言っている。だから、ユウにも妹たちにもすごく優しい。
「ここに、腰かけておいてください。すみません、お仕事でお疲れのところ」
「なになに、まだまだ若いよ」
力こぶを作る叔父。叔父は、30歳手前だったな。髪の毛もふっさりとしている。
「これ、差し入れでいただいたお茶です」
さっき、イチナが持ってきたお茶を、近いテーブルに置く。
「あぁ、悪いね」
コップを手にとって、お茶を飲む叔父。
「いえいえ」
「さ、それで、本題に入りましょうか。神話ですよね。えっと、草薙剣の」
「はい、これです」
本の重たさに少し、驚いた素振りを見せて、それから、じっくりと読み込む。

 叔父は、警学校出身で、そこから農家になったり、地方の護衛兵になったり、司法部の地方団体に勤めたり、と、職を転々としながら、今は、歴史研究員として、クニで唯一の博物館に勤めている。つまり、興味の幅が広く的確な言葉や方法を教えてくれることが多い。頼りになる兄のようだ。

約1時間半が経過した。
パタンと本を閉じた叔父。
「タヨさん(叔父)、どうですか?」
「なんとも、言えないけれど、これだけはハッキリと言えるよ。この話が本物であっても作り話であっても、このクニの歴史を辿る重要なものです。作り話なら、多分、作り話の中で最も古いでしょうし」
タヨはユウの方に本を渡した。
「その剣は実在すると思いますか?」
「剣に関する表記が、具体的であることなんかを考えるとあっても可笑しくないというのが、俺の見解です」
「そうですか…」
ユウは冷えきったお茶をすすった。
イチナが言っていたことが本当だったら、その剣を見つけるのは僕かもしれない。偶然に見つけた本が、そんな凄いものだったなんて。嬉しいような、ちょっと心配なような。

 タヨは、ユウの少し暗い顔を覗き込むようにして話しかける。夕日が山に隠れようとしている。最後の、悪あがきのように赤い光を部屋の隅々まで入れて、ユウの顔に強い影が浮かぶ。
「…ユウくん、ユウくんは、大人になったら何になりたい?」
「大人になったら?」
「そっか、もう、今でも十分立派な大人だもんね。ごめん、今の忘れて」
タヨはそう言って笑った。一方で、ユウは深刻な顔をしていた。
「僕は、立派な大人なんかじゃないです。今でも、分からなくなります。僕は魏で人生の半分は過ごしてきましたし、憧れていた歴代の王様のように振る舞うことはできないですし、今、勉強していることとかどうやって国民の生活に活かされていくのかも分からなくて…」
自信無さそうな、ユウ。タヨは頭を横に振った。
「ユウくんにはユウくんの良いところがあって、無理に憧れにあわせる必要もないし、今、やってる勉強も無駄にはならないよ。っていうか、こんな三十手前で子供もいる俺でも、分からんことまみれだよ」
タヨは大きく口を開けて笑った。それを、見て、ユウはつられて苦笑いに似た笑顔を溢した。
「タヨさんは、ひとつだけ願いが叶うなら何を願いますか?」
「う~ん、難しい質問だなぁ。まぁ、家内安全かな、家族が楽しく健康で仲良く過ごせますようにってね」
「家内安全?それ、でも」
一家族のことを、願うのは正解?
「うん。あんまり、女王の弟っていう立場で公には言えないけど、正直、俺にとって大事なのは、顔も見たことがない他人のことよりも、自分の家族なんだよ」
タヨの意見は、率直で素直なものだった。口ではいくらでも、何とでも言えたとしても、結局、大切なものには順位が決まっている。
「ユウくんには、まだ、先のことかもだけど、いつか分かるよ」

タヨは、足を組み換えて、ユウの横に置かれた本を指した。
「どうしたんですか?」
「探しに行きたい?その本の剣」
なんとなくの視線で悟られたのかな。
「そんな、あるかどうかすら分からない物を探しに行けるほど暇じゃないです」
「そう?行って後悔はしないと思うよ。姉上がなんて言うか分からないけど、諸国漫遊っていうか、他国の視察っていう名目で行くの悪くないと思うよ。やりたいことを、出来るのは若者の特権だよ」
ぐいぐいと迫ってくるタヨ。
「…また、考えてみます」
「もしも、行きたいなら、叔父はさんは応援するよー!」 
なんというか、相変わらず軽い人だなぁ。いや、僕がいつも、怖がりすぎなんだろうか。まぁ、お母さんに一旦、相談してみようかな。でもなぁ、神話なんか信じている訳じゃないし。イチナさんも言ってたけどなぁ、二つ証拠があるってことは実在するってことなのかな?いや、でも、初めて聞いたし。う~ん
「悩むくらいなら、動いた方が早いよ」
「タヨさんは、あるって思うんですか?それだけ、言うってことは」
「あったら、男のロマンじゃん」
そう、間髪いれずに答えたタヨ。
「ろまん?」
「そう!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

王への道は険しくて

N
恋愛
弥生時代を舞台にした長編作品 王への道~僕とヒミカの成長録~のスピンオフ! 本編の内容とはちょっと違う、ヒミカ視点で描かれる賛との日常、恋心 カイキと陽の馴れ初めもガッツリ触れます。それから、シューとカンの結婚秘話もあります!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...