思い出を探して

N

文字の大きさ
上 下
19 / 26

怜と陽葵

しおりを挟む
 火事から3週間後。

男子禁制の女子会は恋バナの園である。女子会と言っても怜と陽葵だけで飲んでいる。陽葵も怜も夕方から陽葵の家で飲み始めて酔っている。そして、冷静口調だが、怜の方が結構きている。
「陽葵は、好きなの?賢太郎さんのことが」
急な質問にギクリとする陽葵。
「うーん、どうだろうなぁ、怜は好きなの?」
相手に同じ質問を返した陽葵。怜を観察する。
「、、、」
小さく頷く。
「そっかぁ、ハハ  そっかぁ、そっかぁ、私はもういいや」
「どうして?嫌いになったんですか?」
「なんか、嫌じゃんほら、嫌じゃないの?友達が同じ人を好きって、嫉妬とか?だったら、穏便な方へってね」
陽葵はテキトーな感じでそう言った。ただ、それをテキトーでは流さなかったのが怜である。
「…私だって、嫉妬はします。でも、それはつまり、私のせいで、陽葵が賢太郎さんを好きになれないということですか?」
「うーん、じゃなくて!私は、怜も大好きなの」
「私がもし、陽葵の立場だったら、そんな風に割りきれません。
どうして、同じ人を好きになったら、片方が諦めないといけないのですか?
誰かが、もしくは誰かの影響で、それが私のせいだったら諦める理由にはしてほしくないんです」
「良いじゃん、本人が言ってるんだよ?お堅いなぁ怜は。だって、普通に考えてみてよ、怜は婚約者になった。私はどう?ただ、職場が同じだけ、もう分かるじゃん」
陽葵はビールを手に持つ。
「私は、賢太郎さんとの婚約の話やそれ以前の話は覚えていません。それに、いまは、彼とは婚約はおろか付き合ってすら居ません。ですが、陽葵は賢太郎さんを近くで見て色々なことを知っています。職場の姿だって知っています。きっと、私なんかよりもずっと賢太郎さんのことを知っているはずなんです」
怜もなかなか頑固である。ただ、陽葵も怜の言い分を良しとは思わない。
「普通は、」
「普通の話ではなくて、陽葵と賢太郎さん、二人の話をしているんです。私には、どうしても理解ができません。賢太郎さんは、素敵な方です。優しくて、彼が近くにいると安心できます。好きになって当然だと思います。カッコいいですし」
顔を赤らめて付け足した言葉。
「うん?カッコよくはないよ、背も低いし、それに優柔不断で」
「色々なことを考えた上で判断してくれます」
「空気読むっていうかなんかいっつも遠慮ばっかり」
「周りをよく見ています、それに気遣いができます」
怜は真剣な眼差しで陽葵を見る。
「ハハ それな!」
「陽葵が、もし私が理由で、賢太郎さんを好きだという気持ちを封じているのでしたら、私は許しません!だって、」
「怜の気持ちはよぉぉく分かった!じゃあさ、勇元に電話かけたし、好きって言って」
もう、電話のコール音が聞こえる。
「もしもし、勇元です。」
「あ、今、怜と飲んでるんだけど、怜が勇元に言いたいことがあるんだって、勇元のよく知ってる怜だよ」
「明神怜さんと?」
前の高田先輩の言葉を聞いたあとだと、一体、どういう気持ちなのか、状況なのか考えてしまう。
「うん」
「どうして一緒に飲んでるんですか?」
「仲の良い友達だから」
怜も高田先輩もそれで納得しているのなら、僕が変に心配する必要性はない。
一体何を言われるのだろう?そんなことをぼやぁっと思いながら耳を傾ける。
「ほら、怜、」
電話越しにガタッという音がする。
「もしもし?怜さん?」
「は、はい」
「えっと、何?」
無言…
「賢太郎さんを好きだと私が言ったらどうしますか?」
「何かの罰ゲームでも受けてるん?」
「いえ、大丈夫です」
「そうやな、もしそう言われたら、まず喜ぶな」
「ありがとうございます。さようなら」
プツン電話は一方的に切られた。
一体、何だったんだ?  
当然の疑問である。


「な、分かった?勇元くんは、怜のことが、たとえ記憶をなくしていても好きなんだよ」
これでわかるだろ?っと言わんばかりの陽葵。

「陽葵は、平気なの?」
「怜が幸せになるんだよ、平気っていうかむしろめでたい?そりゃ、ちょっとは嫌だよ、でも怜が相手だったら私に勝ち目はないし、好きな人の気持ちを尊重することが大事だと私は思ってる。勇元くんの気持ちも怜の気持ちも。それに、なーんか二人が仲良くしてると、もっとやれ!って思ってる自分がいるのも事実だから。勇元くんって、怜からメッセージ来てるとなんかニタニタしてさ、怜も勇元と電話してるとき楽しそうだし」
「本当ですか?私は本当に賢太郎さんに好かれているのか分かりません」
「う~ん、確かに好かれてはいないだろうね」
「やっぱり、賢太郎さんといるときの自分を思い返してみたら、何で賢太郎さんみたいな素敵な人が私なんかをって思うことがあって」
落胆一色の怜。
「ハハ、怜って本当に鈍い、勇元は、好いてるんじゃなくて、心から愛してるんだよ」
笑いながら、怜の空いたグラスに、ビールを注ぐ。
「そうなんですか?」
「じゃないと、一緒に他人と暮らせるわけがないだろ!怜、もっと自信持てよ!私は、応援してるから」
「あ、ありがとうございます」
「よっしゃ、今日はまだとっておきのおつまみと日本酒があるし、それ開けよっか!」
「はい!」


「もしもし?勇元くん?」
「あ、はい」
「怜が寝ちゃったんだけど、迎えに来る?それとも家で寝かせといた方がいい?きっと、起きないと思うんだけど」
賢太郎は時計を横目に見る。
「すみません、今日はアルコールをとっているので迎えにいくのは難しくて、終電も終わっていますよね?」
高田は、横目に時計を見る。
「じゃぁ、明日の朝、そっちに送るわ」
「申し訳ございません。ありがとうございます」
「いいって、じゃぁ」
「はい。あの本当にありがとうございます」

電話は終わる。怜が酔っぱらって寝るなんて、見たことも聞いたこともなかった。
スースーと寝息をたてる怜にそぉっと布団をかけた陽葵。

「幸せになりなよ、怜」

「さ、私も寝るかな」
パチンと電気を切る。


 翌日の昼前、怜を車で送り届けた陽葵。アパートの下まで迎えに来た賢太郎。
「あ、賢太郎さん」
「おかえり
高田先輩、ありがとうございます。何かお礼でも」
「良いのいいの。私も楽しくなってついつい長引いちゃった感じだし」
「そうですか?」
「うん
怜、昨日はありがと、いろいろ、聞いてもらって。じゃあね」
「陽葵もいろいろありがとうね、バイバイ」
「はーい、またねー」
車の窓が上がって、陽葵の車は走り出す。

「怜さん、昨日は何を話したん?怜さんが寝るほど飲むって」
怜は昨日の会話の記憶を辿り、賢太郎には話せない内容であると判断する。
「それは、女の秘密」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出を探して

N
恋愛
明神 怜 はウエディングドレスを見に行った日の帰り、交通事故にあって記憶を失った。不幸中の幸いか、多くのことは数日中に思い出し、生活を営める。だが、婚約者だけ分からない。婚約者である賢太郎は、ショックを受けつつ前向きに、怜に向き合いゼロから好きになってもらう努力をする。 二人はどうなる…

アドルフの微笑

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の神楽颯人は目つきがとても鋭く、髪が白いため小さい頃から「狼」「白狼」「アドルフ」などと恐れられていた。  梅雨の日の夜。颯人は趣味で育てている花の様子を見ていると、人気のあるクラスメイトの美少女・月原咲夜と会う。すると、咲夜は、  「あたしのニセの恋人になってくれませんか?」  颯人にそんなお願いを言ってきたのだ。咲夜は2年生の先輩からラブレターをもらったが、告白を断りたいのだという。  颯人は咲夜のニセの恋人になることは断るが、クラスメイトとして先輩からのラブレターについて解決するまで側にいると約束する。このことをきっかけに、それまで話したことがなかった咲夜の関係や颯人の高校生活が変化し始めていく。  時には苦く、鋭く、シニカルに。そして、確かな温かさと甘みのある学園ラブストーリー。  ※「微笑」は「ほほえみ」と読みます。  ※完結しました!(2020.8.17)

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~

美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。 貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。 そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。 紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。 そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!? 突然始まった秘密のルームシェア。 日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。 初回公開・完結*2017.12.21(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.02.16 *表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

宮廷画家令嬢は契約結婚より肖像画にご執心です!~次期伯爵公の溺愛戦略~

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
ファンタジー
男爵令嬢、アマリア・エヴァーレは絵を描くのが趣味の16歳。 あるとき次期伯爵公、フレイディ・レノスブルの飼い犬、レオンに大事なアトリエを荒らされてしまった。 平謝りしたフレイディにより、お詫びにレノスブル家に招かれたアマリアはそこで、フレイディが肖像画を求めていると知る。 フレイディはアマリアに肖像画を描いてくれないかと打診してきて、アマリアはそれを請けることに。 だが絵を描く利便性から、肖像画のために契約結婚をしようとフレイディが提案してきて……。 ●アマリア・エヴァーレ 男爵令嬢、16歳 絵画が趣味の、少々ドライな性格 ●フレイディ・レノスブル 次期伯爵公、25歳 穏やかで丁寧な性格……だが、時々大胆な思考を垣間見せることがある 年頃なのに、なぜか浮いた噂もないようで……? ●レオン フレイディの飼い犬 白い毛並みの大型犬 ***** ファンタジー小説大賞にエントリー中です 完結しました!

処理中です...