思い出を探して

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同棲スタート

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4か月後

なかなか揃わない日程、予算の都合と合わない希望、面倒な手続き…
それらをすべて乗り越え、今日、ようやく、この日を迎えた。
未だ怜の記憶は戻らない。
けれども、同棲の準備が整った。
「それはこっちに、その赤字のものは右側に」
最後の段ボールが運び込まれる。
引っ越し業者が部屋から出て、一気に静かになる。段ボールジャングルとかした部屋で賢太郎と怜の二人きりになる。
最低限の家具と家電は設置されたものの、まだまだやることは山積みだ。

「賢太郎さん、そのすみません。またわがままを言っちゃって。自分の寝室が欲しいなんて。賢太郎さんを信用していないっていうことじゃないんだけど、はずせない希望でして、家賃も上がりますし」
怜と賢太郎は寝室を分けることにした。怜が強く望んだのだ。実は、それが、予算が合わなかった最大の原因である。一人に6畳ずつの寝室。さらに、オートロック付きで、日当たり良好。風呂トイレ別は当たり前で、キッチンは三つ口IHコンロ。二人暮らしには十分な設備が揃う家になった。
「プライベートを守ることは自然なことやろ。家賃も、折半やし僕が全額負担するわけちゃうし」
「でも、」
「さ、段ボール解体すんで」
賢太郎はどの段ボールが重要か見極める。腕まくりをして、ガムテープを剥がしていく。



3週間いやもう少しかかっただろうか。やがて、段ボールはほとんど全て無くなった。


風呂からあがって、うすっらと湿った髪の毛。タオル地のワンピース型のパジャマを着た怜。
「賢太郎さん、おやすみなさい」
テレビを見ていた賢太郎は、振りかえる。
「うん、おやすみ」
怜は玄関から見て右、賢太郎は左。寝室はバラバラ。

バタッと怜の寝室の扉が閉まる音がした。

賢太郎は、グラスに残ったビールを飲み干す。小魚アーモンドが小皿に少し残る。
「また、晩酌もやりたいな…」
怜が記憶を失くす以前、どちらかの家で飲んでいた時には、僕はビール、怜さんは日本酒で、チーズとかスルメとかコンビニで買って、テレビでも見ながら楽しんだものだ。

 二人で暮らす、不思議な感覚だ。一緒に居るけれど、怜はしっかりと線引きを行うタイプで、賢太郎のことは自陣に引き入れようとせず、賢太郎のプライベートにも干渉はしない。賢太郎にとって、それは、気楽で、どこか安心している自分が居るのも事実だった。でも、それはそれでちょっぴり悲しいものでもあった。もう少し、心の扉を開けてくれてもいいのに。そんな風に思ってしまう。

賢太郎は、グラスと小皿を洗って、テレビと電気をきる。廊下のオレンジの電球をつけて、怜の寝室の向かい、自分の部屋に入る。バフッとベッドにダイブする。


怜は自室で、横になりスマホで調べものをする。
『異性との話し方』
『同棲の注意事項』
『仲良くなる方法  男女』
『彼氏が喜ぶこと』

怜だって、記憶を取り戻して賢太郎と向き合いたいんだ。彼を好きとかそんな気持ちは分からないけれど、彼をよく知っていけば、記憶を取り戻さずとも、もう一度好きになるんじゃないか。何故、もう一度、彼を好きになると思うのか、どうして、他ではダメなのか。
怜は目を瞑って、賢太郎のふとした些細な行動や表情を思い出す。どんどん、賢太郎がまぶたの裏に浮かぶ。それも、尽きるところを知らない。ある一つのシーンが浮かぶと、それが関連する事柄が、ネットショッピングの関連商品みたいにザザッと素早く浮かんでくるんだ。
「私って、こんなに賢太郎さんのことを見ていたんだ…」
意識なんて全然していなかったのに。怜は、ベッドの上、一人で、思わず笑ってしまう。なんだろう、全然、悪い気はしない。

「次に暇な夜があったら、リビングで過ごすのも良いかもなぁ」

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