神殺しの花嫁

海花

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普段であれば、相手に判る様な攻撃直前のその様な動作は無かった。
極僅かにしろ、攻撃を打ちやすい体勢にしなければならなかったのは、幸成が負わせた心臓の傷が治っていなかったことと、そしてそれ故に人を殺すことで出来た無数の傷の治りが遅くなっていた為に、身体が言う事を聞かなくなってきていたのだ。

しかし結果それが、微かな音を聞き逃さずに済んだ。
恐らく“大口真神”だからこそ、獣の神であるからこそ、その微かな音に動きを止めることが出来た。

───“プツッ”───

今まで何度も聞いてきた。
鋭利な切っ先が皮膚を突き破る音だ。
琥珀は咄嗟に音のした方へ目を向けた。
今まで幸成の首に触れるだけだった脇差の先が、その細く白い首の肌を破り鮮やかな紅を溢れさせている。

「──幸成ッ!」

「動くな?……琥珀……」

幸成へ向けて腕を伸ばし掛けた琥珀を成一郎の穏やかな声が止めた。

「すっかり言い忘れていたな……。お前が微塵でも動けば、自ら首を切るよう…幸成には言ってある。それは勿論……お前の姿が見えなくなった時も同様……」

痛みすら感じていないのか、白い肌に刃の先がつぷりと入り込み、それでも表情ひとつ変えていない幸成を見つめる琥珀の顔が歪んだ。

「お前が俺を殺して、幸成が死ぬも良し……それならそれで俺はあの世で幸成と添いとげよう」

以前、遠い昔に抱いたことのある感情が琥珀の中で首を擡げた。
息が苦しくなる程の憎しみ。
目の前の男を殺したいという衝動。
それが腹の奥で塒を巻き牙を剥き出しにしている。

成一郎一人殺す事など、一瞬でけりが着く。
しかしその一瞬のうちに、本当に幸成の手に握られた脇差が容赦なく首を突き刺したとしたら……
万が一……間に合わなかったとしたら……
自分が動きかけたのと同時に、幸成は躊躇うことなく首に刃を立てた。
それが、成一郎の言葉が外連では無いと言っている。
そしてあの幸成の瞳が、それが己の意思では無い事も。
自分の胸に刀を刺した時と同じだ……。
琥珀の鋭い眼差しが成一郎を捉え、やがて奥歯がギリッと音を立てた。

「どうした?琥珀……。お前が動かなくても幸成は死ぬぞ?」

琥珀の胸の内を理解った上で成一郎が吐いた言葉と癪に障る笑顔に、しかし何故か僅かずつだが冷静さを取り戻し始めていた。
自分が選ぶ道などひとつしか無い。

「…………なにが望みだ……」

上り始めた朝陽が闇を払うように光を満たしていく中、琥珀の声が静かに響いた。




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