神殺しの花嫁

海花

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「どう…って……どうもなんねぇだろ。神の子だろうが相手がただの雌なら、なんの力も継がない……。その為に俺たち眷属がいるんだからよぉ……。神の力を引き継ぐ子を産めるのは眷属だけだ……お前…………そんな事も知らねぇのかよ?」

馬鹿にすると言うより、もはや呆れたように言った紫黒を白姫は睨みつけた。

「知らない訳無いだろッ!……でもさ──万が一何らかの力を継いでたとしたって…………不思議は無いだろ!?……本当に………神の子なら……」

そう考えれば、成一郎から漂う“あの匂い”にも納得がいく。
そして成一郎に抗えない事にも、過去が視えなかった事にも……。

───もし…………あの男が本当に神の血を継いでるとしたら…………

「まぁ…………不思議はねぇけどよぉ……聞いたことは無ぇなぁ」

「けどッ…………御神達にすら……予測出来ない事はある…………」

───現に……琥珀が彼処あそこまで身を堕とすなどと…………誰も予見出来なかった…………

知っていると言いながらも、そう続けた白姫に紫黒は顔を顰めた。
ただすれ違った男の話だと言う割に、その様子が厭に不自然に見える。

「……お前…………何企んでやがる………?」

「…………別に…………」

真っ直ぐに自分を見据える眼差しを、白姫もまた無表情のまま見据えた。

───琥珀が本当に命を落とすことも…………

「僕は何も企んでなんかいない……」




白姫が出ていった襖を紫黒は暫く見つめ続けた。
あれ以上白姫は何も言わなかったが、もし……幸成を隠世から連れ出しただけでは無く『神殺し』自体に関わっていたとしたら……

「まさか……そんな訳ねぇよな…………あいつだって……神使の端くれだぞ……」

まるで自分に言い聞かせるように、紫黒の声がぽつりと呟いた。

白姫が琥珀を憎んでいる事は知っている。

あの日───
琥珀が捕らえられた日、白姫の眷属の一人が琥珀の所為で命を落とした。
それは眷属として当然の事だった。
主である白姫を守る為に、神使である白姫もまた、主である女神を守る為に存在している。
しかし、それだけで片付けられない絆も、想いもある事を紫黒も痛い程承知している。

もし自分も……関わりも無い、罪を犯した神に瑠璃を殺されるようなことになったら……
果たして仕方がないと、その為に存在しているのだからと……何も無かった様に生きていけるだろうか……

台所から、翡翠の騒がしい声がまだ響いている。
さっきはあんなに苛つかせたその声に紫黒は耳を預けていた。

そうしなければ冷静さを失い、自分の道を見誤りそうだったのだ。
白姫が何をしようとしているのか、それすら考えすぎなのか分からない。
それなのに、どうしても胸の内の思いに囚われそうで恐かった。

──もしその“自ら身を堕とした神”を恨んだ末、手を下したとしても……誰が責めることが出来るだろうか……と……。




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