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そこにあるはずの無い顔に、紫黒は布団から素早く起き上がると白姫の首へ手を掛けた。
白く細い首に、紫黒の鋭い爪が食込み、少しでも動けば容赦なく皮膚を破きそうに見える。
「………てめぇ……こんな所で何してやがる……」
「そんなに身構えないでよ。……ちょっと聞きたいことがあるだけだって」
紫黒の鋭い眼差しにも怯むこと無く、白姫は相変わらず飄々と答えた。
「…………なんだよ……聞きたいことって」
「それよりまず、この手離してよ。僕の肌に傷でも付いたら主様からお叱りを受けるのは……紫黒、お前でしょ?」
にっこりと愛らしく笑う白姫を睨みつけると、紫黒は面白く無さそうに首から手を離した。
女神である白姫の主は、誰よりも白姫を寵愛している。
それはもはや寵愛というより溺愛と言っても過言では無い。
その白姫に傷でも負わせようものなら自分の主の元へ怒鳴り込み兼ねない。
自分が咎めを受けるくらいなんて事無いが、主に恥をかかせる訳にはいかない。
「…………クソが……」
目を逸らし吐き捨てる様に言った紫黒を「クスッ」と鼻で笑うと
「お前が教えてくれたら直ぐに出てくよ。僕だって好きでお前の側にいる訳じゃないし」
そう言うと、白姫はまた愛らしく微笑んだ。
「はぁ!?御神達と同じ匂いの人間!?…………なんだそりゃ」
白姫の問い掛けに紫黒は呆れたように返した。
「そんな奴の話なんぞ聞いたこともねぇよ!大方お前の勘違いだろ……」
馬鹿にしたように鼻を鳴らした紫黒に言い返す訳でも無く、白姫はその顔をぼんやりと見つめた。
───紫黒でも知らないか…………
自分より生も神使としても長く生きている紫黒ですら知らないとなると、成一郎の存在が余計不安に感じる。
しかし紫黒の言った様に勘違いなどでは無いと解っている。
匂いだけならまだしも……
あの男からは一切の過去が覗けなかった。
「……何処にそんな奴がいたってんだよ?」
「───え…………ああ……たまたま道ですれ違った男から……そんな匂いがしただけだよ」
知らないならこれ以上ここにいる意味も無い。
白姫は適当に誤魔化し、話を切り上げるつもりで肩を竦めた。
すると、紫黒はまた馬鹿にした様に鼻で笑い
「んじゃどうせ、何処ぞの御神が人のフリをして遊びにでも出てたんだろ。あの方達は自由奔放極まりないからな」
そう続けた。
「…………人のフリ……?」
「珍しい話じゃねえだろ……。人の女を抱きたいばかりに、人のフリをして地上に降りるなんてよぉ」
「………………人の女を…………」
「女神は誇りばっか高くてヤッても面白味がねぇんだと。それに比べて人の女は“遊び”を知ってるからあっちの具合も良いって、男神ならみんな知ってる」
大御神の神使とは思えない様に言い
「まぁ……俺の主はそんな馬鹿げたことはしねぇけどな」
そう付け加えた。
───それじゃあ……あの男が………本当は“人”では無く『神』だと言うのか……
一瞬白姫の頭を掠めたが、すぐにそれも違うと気付いた。
あの男の匂いは“神が纏う匂い”とは違う。飽くまでも“似た匂い”なのだ。
自分達が抗えない、惹きつけられて仕方のないあの匂いが僅かに混ざったような…………
「なぁ…………もし……その“神”との間に……子を成せば…………どうなる……?」
呟くように、しかし今まで見たこともない程の白姫の真剣な顔に、紫黒は眉を顰めた。
白く細い首に、紫黒の鋭い爪が食込み、少しでも動けば容赦なく皮膚を破きそうに見える。
「………てめぇ……こんな所で何してやがる……」
「そんなに身構えないでよ。……ちょっと聞きたいことがあるだけだって」
紫黒の鋭い眼差しにも怯むこと無く、白姫は相変わらず飄々と答えた。
「…………なんだよ……聞きたいことって」
「それよりまず、この手離してよ。僕の肌に傷でも付いたら主様からお叱りを受けるのは……紫黒、お前でしょ?」
にっこりと愛らしく笑う白姫を睨みつけると、紫黒は面白く無さそうに首から手を離した。
女神である白姫の主は、誰よりも白姫を寵愛している。
それはもはや寵愛というより溺愛と言っても過言では無い。
その白姫に傷でも負わせようものなら自分の主の元へ怒鳴り込み兼ねない。
自分が咎めを受けるくらいなんて事無いが、主に恥をかかせる訳にはいかない。
「…………クソが……」
目を逸らし吐き捨てる様に言った紫黒を「クスッ」と鼻で笑うと
「お前が教えてくれたら直ぐに出てくよ。僕だって好きでお前の側にいる訳じゃないし」
そう言うと、白姫はまた愛らしく微笑んだ。
「はぁ!?御神達と同じ匂いの人間!?…………なんだそりゃ」
白姫の問い掛けに紫黒は呆れたように返した。
「そんな奴の話なんぞ聞いたこともねぇよ!大方お前の勘違いだろ……」
馬鹿にしたように鼻を鳴らした紫黒に言い返す訳でも無く、白姫はその顔をぼんやりと見つめた。
───紫黒でも知らないか…………
自分より生も神使としても長く生きている紫黒ですら知らないとなると、成一郎の存在が余計不安に感じる。
しかし紫黒の言った様に勘違いなどでは無いと解っている。
匂いだけならまだしも……
あの男からは一切の過去が覗けなかった。
「……何処にそんな奴がいたってんだよ?」
「───え…………ああ……たまたま道ですれ違った男から……そんな匂いがしただけだよ」
知らないならこれ以上ここにいる意味も無い。
白姫は適当に誤魔化し、話を切り上げるつもりで肩を竦めた。
すると、紫黒はまた馬鹿にした様に鼻で笑い
「んじゃどうせ、何処ぞの御神が人のフリをして遊びにでも出てたんだろ。あの方達は自由奔放極まりないからな」
そう続けた。
「…………人のフリ……?」
「珍しい話じゃねえだろ……。人の女を抱きたいばかりに、人のフリをして地上に降りるなんてよぉ」
「………………人の女を…………」
「女神は誇りばっか高くてヤッても面白味がねぇんだと。それに比べて人の女は“遊び”を知ってるからあっちの具合も良いって、男神ならみんな知ってる」
大御神の神使とは思えない様に言い
「まぁ……俺の主はそんな馬鹿げたことはしねぇけどな」
そう付け加えた。
───それじゃあ……あの男が………本当は“人”では無く『神』だと言うのか……
一瞬白姫の頭を掠めたが、すぐにそれも違うと気付いた。
あの男の匂いは“神が纏う匂い”とは違う。飽くまでも“似た匂い”なのだ。
自分達が抗えない、惹きつけられて仕方のないあの匂いが僅かに混ざったような…………
「なぁ…………もし……その“神”との間に……子を成せば…………どうなる……?」
呟くように、しかし今まで見たこともない程の白姫の真剣な顔に、紫黒は眉を顰めた。
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