神殺しの花嫁

海花

文字の大きさ
上 下
125 / 173

・・・

しおりを挟む
朝のひんやりとした、しかし清々しい産まれたての様な空気が頬を撫で、幸成は目覚めたばかりの少し重たい瞼を開けた。
すぐ目の前にある唇から、穏やかなゆっくりとした息が漏れ、幸成の前髪がそれに遊ぶように微かに揺れている。

昨夜は琥珀の腕に抱かれ眠った。

何処よりも安心させてくれる、お互いの愛情を確かめ合える場所。
昨夜も何度も口付けを交わし、自分が眠りの淵へ落ちるまで髪を撫でてくれていた。

「やっと……オレの元へ帰ってきた」

そう嬉しそうに呟いた声が今でも耳を擽る。



自分が目覚めてから、離れようとしない翡翠達を必死で引き離そうとしていた琥珀を思い出し、思わず笑みが漏れた。
その必死さと言ったら、瑠璃や紫黒が呆れ返る程だった。

まだ眠りから覚めない穏やかな寝顔を見つめる瞳から不意に笑顔が消えた。

───まだ……薬が抜けないのだろうか………

幸成は昨日目が覚めてから、瑠璃に聞かされた話を思い出していた。
自分が盛った薬の所為で、琥珀が深い眠りから中々戻れなかったこと。
そして目覚めてからは、必死で自分を探してくれたこと…………。

───瑠璃殿も詳しくは教えてくれなかったが……恐らくこの傷も……

頬に残る、跡のようになった傷を幸成は指でそっと触れた。
昨夜着替える為に着物を脱いだ琥珀の肌には、塞がってこそいるが、これよりずっと酷い傷が幾つもあった。
そして以前瑠璃と話した時に「折れた骨や、酷い傷を治しきる事は出来ない」と言っていた。

それはつまり……瑠璃の治せない『酷い傷』だったのだと物語っている。

───俺のせいで…………。

「…………ん…………」

触れて起こしてしまったのか、瞼が薄く開き美しい琥珀色の瞳が幸成を捉えた。

「……起きてたのか?」

言葉と共に心地よく乗せられていた琥珀の腕が、その存在を確かめるように幸成の身体を抱きしめた。

「───あ…………」

「……夢じゃねぇな……?」

確かめる声が心細く聞こえ、苦しい程抱きしめる温もりに、幸成も愛しい背中に腕を回した。

「……はい」

「二度と……オレの傍から離れるなんて考えるなよ…………?」

「はい」

優しく離れた身体と引き換えに、満月のような瞳に見つめられ、唇がゆっくりと重ねられた。
温かい舌が伝える温度が心地好く甘く絡まり、それに幸成も自然と応えた。
朝の静けさに絡まるふたつの舌の音さえ、耳に甘く届く。

しかしそれは突然終わりを告げ、抱きしめる腕が一層強くなった。

「………………琥珀……?」

幸成の胸に僅かな不安が覗く。

───やはり……俺の身体が汚れているから……


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

柔道部

むちむちボディ
BL
とある高校の柔道部で起こる秘め事について書いてみます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...