最後の君へ

海花

文字の大きさ
上 下
7 / 50

しおりを挟む
「───……で……なんであんたがいるわけ?」

英研で待っていたのは水野ではなく、紡木だった。

「僕も水野先生に資料の整理を頼まれたからかな」

紡木が相変わらず表情の読み取れない笑顔で答えた。
直斗は溜息をついて、紡木から何をやるのかを教わると早速仕事に取り掛かった。

──とっとと終わらせて帰ろう……

水野は自分の担任している生徒が怪我したとかで付き添いで病院に行ってしまった。

──こんなことならバックレれば良かった……。

直斗はため息をつき仕方なし黙々と続けた。



「この資料って…いつから溜めてんの?」

日が暮れ外が暗くなると、いい加減嫌になってきた。
いくら夏とは言っても日が暮れ教師達も帰り始めている。
「……今日はこの辺にしようか」

紡木が苦笑いする。
自分の仕事もしなければならない…。

「今日は…って……、明日も俺やらされんの!?」

「さあ…どうだろう……。そこまで水野先生に聞いてないから」

ぐったりしている直斗を見て紡木が笑う。

「藤井くん…自転車?」

紡木の突然の質問に

「電車」

一言だけ返し帰り支度を始めた。必要なこと以外話すつもりも、必要も無いと態度で告げている。

「送っていくよ。僕車だから」

それでも話しかけてくる紡木に直斗がチラッとだけ視線を向け

「いや…いいっす」

すかさず断る。

「そう言わないで。もう時間も遅いし…。藤井くんとは一度ちゃんと話もしてみたかったしね」

直斗が訝しげに紡木を見る。

──今日のことか…
───授業を出て行ったことか……

どっちにしてもいい話じゃない……。

「女の子待たせてるんで」

直斗はでまかせを言って

「それじゃ…」

と、英研を出た。
何時間も一緒に仕事をさせられて、まだ説教までされたんじゃ、たまったもんじゃない。
校舎を出ると確かに真っ暗だ。
スマホを見ると8時を回っている。

「最悪……」

直斗は駅までの道を歩き出した。

──飯……どうすっかなぁ……

コンビニの弁当もいい加減食べ飽きた。しかし考えた途端お腹が音が鳴り出す…。

──なんか食ってっか……

駅まであと少し…という所で、走ってきた車がスピードを緩めて少し先で止まった。
気にせず歩いていくと

「女の子……帰っちゃった?」

開いた窓から紡木が声を掛けた。

「………………」

───マジか…………

まさか……ここで会うとは思わなかった。

「……あー…あれ嘘なんで」

直斗は悪びれるでもなくそう言って、通り過ぎようとすると

「ラーメンでも付き合ってよ」

紡木が車から降りて背中に声を掛けてきた。意外な言葉に思わず足を止めると、途端に直斗のお腹が紡木にまで届く程の音を立て

「それはOKってことでいいかな?」

振り向く直斗に紡木が笑顔を向けた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

物語のその後

キサラギムツキ
BL
勇者パーティーの賢者が、たった1つ望んだものは……… 1話受け視点。2話攻め視点。 2日に分けて投稿予約済み ほぼバッドエンドよりのメリバ

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...