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覚悟
しおりを挟む学生の夏休みがもうすぐ終わるせいか店内はいつもより賑わっていた。遊び納めといったところだろうか。
それでも昼時の忙しさは抜け藤井はやっとスタッフルームで事務の仕事をし始めていた。
千尋が出来る事はしていてくれたが、一週間も留守にしたせいも有り泣きたくなる程溜まっている。
「マネージャー」
店内から入ってきた千尋が声をかけると
「ん?何かあった?」
藤井が笑顔で振り返った。
「お忙しいところすいません……。実は……」
俊輔はカウンターのそばで立っていた。店の人がチラチラと気にしているのが分かり気まずくなったが、ここで逃げ出す訳にはいかなかった。もう嫌われてもいいから、と言うか既に嫌われているかもしれないし…葵にちゃんと自分の気持ちを告げようと決めたからだ。
「———俊輔くん……だっけ?」
そう言われて顔を上げると『あの人』が目の前に立っている。
「僕になんの用?」
自分より遥かに背の高い藤井を見つめる。優しく微笑んでいるが目が笑っていないのがわかる。
「———葵のことで」
息を飲み何とか俊輔が言葉にするが思ったより声が大きくなり、呼びに行ってくれた人が振り向いているのが分かった。
「…………だろうね。外で話そうか」
そう言って藤井が店内から出て行くのを俊輔は慌てて追いかけた。
ソファーで膝を抱えながら葵は机に置かれたスマホを見つめている。
あの後、俊輔から電話が来ることもメッセージが届くことも無かった。何度も掛け直そうか迷ってはスマホを手に取り、そして机に投げ出す。
———今さら掛け直したところで……出てくれないかもしれない……。
突然キスをしてしまったことも、昨日バカみたいにムキになってしまったことも俊輔に嫌われる想像を容易くさせる。
———挙句に電話切るとか………本当に…バカだ………。
「それで……葵のことってのは…?また葵を返せって話?」
藤井が俊輔を見据えた。まさか店まで来て自分を呼び出しておいて世間話もあるまい。
「………そうだけど……そうじゃありません」
藤井の目を見つめ
「葵を迎えに行きます。だから……葵のいる場所を聞きにきました」
俊輔は、はっきりと告げた。
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