君の手の温もりが…

海花

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侵入

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葵はイラつく様に何度目かのインターフォンを鳴らした。しかし誰かが出るどころか、中で反応する気配すらまるで無い。
後ろで見ていた藤井が
「……いても出てこないつもりじゃないかな。……とりあえず中に入ろう」
そう言って車のトランクの工具箱を漁りだした。
「このぐらいの高さのフェンスなら乗り越えられるでしょ」
右手には大きなレンチを持っている。葵が眉をひそめそれを見つめると
「…念の為ね」
そう言って苦笑いした。
───しかし……いい位置にカメラ付いてんな……。
門にはご丁寧に警備会社のシールまで貼ってある。
──これで何も無かったら……間違いなくクビだな……
胸の中でため息つく。まあ……葵の為ならそれもいいか……と諦めるとカメラから映りづらそうな場所を探し庭に入る。胸に痛みが走るが葵の不安そうな顔を見ると苦にならなくなった。

幾つかの窓を見ると2階の一箇所だけが微かに明かりが見える。
───いるとすればあそこか……。
葵もそれに気付き
「藤井さん!あの窓……」
藤井の腕を掴み指を指した。葵の顔が余りに必死で見ていて辛くなる程だ。
藤井は葵に向きなおし
「葵……お兄さん連れて帰りたい?…例え何をしても……?」
藤井が真っ直ぐに葵を見つめる。
「…………連れて…帰りたい…」
葵が泣きそうな顔で告げた。葵の切実な願いだと誰の目にも解る。
「分かったよ。じゃあ…連れて帰ろう」
藤井が葵の頭を優しく撫でた。例え自分のものにならなくても葵に笑顔でいて欲しいと思うのもまた藤井の切実な願いだった。


何度も鳴るインターフォンの音に薫は苛立ち始めていた。その音が響く度に俊輔の反応が薄れる。先程まで耳元で熱く呼ばれていた名前を口にしなくなった。
───まだ…薬が切れるわけない……。
「俊…」
どこが気が逸れている俊輔の名前を呼び口付ける。
インターフォンの音も止み再び静寂が訪れると、俊輔の身体にも熱が戻り始めた。
薫は激しく舌を絡め右手で俊輔への愛撫を続けると、それに応える様に俊輔の腕が背中に絡みつく。
その時、突然激しく刺すような音が静寂を破った───。
俊輔の身体がその音に驚きビクッと震えた。
薫はイラつき、ため息をつくと、俊輔に軽くキスをして
「見てくるから少し待ってて」
そう微笑み立ち上がった。恐らく誰かがガラスを割って入ろうとしていると想像がつく。そしてそれが誰なのかも………。しばらくすれば警備会社から電話がくる。そうしたら来て貰えばいい……。その間くらい薬は保つだろう。もし切れかかったとしても、また飲ませれば良いだけだ。
薫が階段へ向かうと意外な顔が見えて「……へぇ……」と声を上げた。
「あんた……葵くんのバイト先の店長じゃん」
階下の人物に向けて声を掛けると、玄関の鍵を開けようとしていた藤井が手を止め振り向いた。自分が窓から入り鍵を開けるからと、葵を外で待たせていた。
「あー………バレちゃった?」
藤井が笑顔を向ける。
「……バレない訳ないだろ。あんな大きな音立てておいて……」
薫が眉をひそめた。
———何だ……あの余裕………
「ま、ちなみに店長じゃなくてマネージャーね。うちの店、店長って言わないから」
薫が藤井の言葉にイラつき出す……。
「どうでもいいんだけど……そんなこと………。すぐに警備会社から連絡がくる。そしたらそんな余裕な顔してらんないね」
「そう?そうでもないよ?……警備会社が来るまでに葵の兄貴を見つける。そうすれば……彼がどんな薬を使われたか分かる。何なら……警察を呼んでもいいね」
藤井が微笑むと、階段のすぐ傍に置かれた電話機が音を立て始めた。
「出なくていいの?……まあ…出なければ来てくれるから…それもありだね…」
藤井にしても一か八かの掛けだった。もし仮に葵の思い込みなら完全にアウトだ。
薫は足早に階段を降りると受話器を持ち上げた。
「……はい……」
藤井をチラッと見てから
「すみません……友達とふざけてて………はい……片山薫です……」
藤井はフッと軽く息を吐くと玄関の鍵を開けた。
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