君の手の温もりが…

嫉妬

マンションのドアを出て駐車場へ向かおうとする莉央は、いきなり出てきた人影とぶつかって転びかけ
｢ちょっと！危ないじゃない！｣
イラついたままに声を上げた。
｢すみません！急いでて……｣
慌てて謝る姿に目をやると
｢葵くん!?｣
｢え!?あ……莉央さん……｣
葵が汗だくで立っている。
｢凄い汗じゃない……。直斗の所にきたんでしょ？｣
莉央が心配そうにバッグからハンカチを取り出した。
｢ほら、汗拭いて｣
優しく微笑んでハンカチを差し出す莉央から目を逸らし、その優しさも受け取れないまま葵は立ち尽くしている。
｢そんな顔しないの…｣
笑いながら莉央が葵の額の汗を拭いた。
｢──俺…………｣
｢はい！ストップ｣
顔を上げ何か言いかけた葵の口を指で塞いだ。
｢間違っても謝らないでね。私は直斗と別れる気は無いから。──それに……直斗があなたに本気だったとしても、それは直斗の気持ちの問題で、あなたがどうこう出来る事じゃないでしょ？｣
莉央の言葉に葵は顔を歪めて俯いた。
｢でも、葵くんが来てくれて良かった。あいつ……怪我してるくせに医者行くつもり無いから……。葵くんが行けって言えば行くと思う｣
そう言って苦笑いした。
｢そんな酷い怪我してるんですか!?｣
莉央を見つめた瞳が不安で揺れている。
｢……それは医者じゃないから何とも言えないけど……｣
──意地悪な言い方…………
つい意地の悪い言い方になってしまった事で莉央は嫉妬している自分に気付いた。
｢早く会いに行ってあげて｣
莉央は葵に笑いかけ
｢きっと…葵くんに会いたくて仕方がなくなってる頃だから｣
そう言うとオートロックの鍵を開けてくれ｢じゃあね｣と歩き出した。
｢ありがとうございます｣
葵が頭を下げると莉央は立ち止まり
｢あ、そうだ葵くん……｣
葵ににっこりと笑って話し出した。