君の手の温もりが…

2人

｢すげぇ美味そう｣
結衣の後ろから俊輔が覗き込んで声を上げた。
｢サラダ素麺！｣
結衣が嬉しそうに俊輔に微笑む。
──家で作ったより美味しそうに出来た！
｢葵は？まだ寝てるの？｣
もうとっくに昼を過ぎている。
｢……多分……直に帰ってくるんじゃないかな｣
｢どっか行ってるの？｣
何気なく聞く結衣に
｢……先食べよう。俺朝飯あんまり食べられなかったから…腹減った｣
そう言って俊輔は笑った。
二人きりの食事中、俊輔は終始笑顔でよく喋った。
課題のこと、バイトのこと、最近見た動画の話……。
こんなに話す俊輔を結衣は初めて見た。
楽しかったが、何処か違和感が漂っている。

───俊輔じゃないみたい……。

まるで……子供が母親にその日あったことを話すような……取り留めのない話し方……。
｢……俊輔…何かあった？……やっぱり望月くんと何かあったんじゃない？｣
結衣が心配そうに俊輔を見つめる。
｢何も無いって｣
俊輔が呆れたように笑って
｢結衣、変な心配しすぎ｣
そうつけ加えた。



車に乗ってから藤井はずっと黙っている。
葵もそれに何も言わず窓から外の景色を見つめていた。
藤井は片手で運転しながらずっと葵の手を握っている。
葵は家に帰ることでホッとするような、藤井を一人にすることに不安な様な複雑な心境が胸に広がっていて戸惑っていた。

───どうすればいいか…わからない……

やがて葵の家の前に着き、ゆっくりと車が止まった。
｢仕事…頑張ってください｣
葵が微笑むと
｢ありがとう｣
藤井はそう言って葵の指に口付け
｢……離したくないね｣
少し悲しげに微笑み返した。
｢……じゃあ今日も行きます。終わったら連絡くれれば……｣
そう言う葵をしばらく見つめると
｢冗談だよ……。僕は大人だからね、葵が心配する必要は無い｣
手を離して葵の頭を撫でた。
｢昨日はあまり眠れなかっただろ…？ちゃんと休むんだよ？｣
｢…………はい…｣
葵が車から降りると、いつもの様に家に入るのを見届けてから車を発進させた。
玄関の中から藤井の車が遠ざかる音を聞きながら初めて自分が緊張していたことに気付いた。
──昨日は本当に色んなことがあり過ぎた……。
葵はホッとため息をつくと
｢ただいま｣
と、リビングへ向かった。