君の手の温もりが…

ぎこちない会話

俊輔は自己嫌悪と共に下着を放り込み洗濯機を回し、大きなため息をつきながら顔を洗った。
本当に……最悪な朝だ……。
リビングでカレンダーを見ると、こんな日にかぎって葵のバイトが午後からになっている。

───顔…合わせづらい……

俊輔は早々に朝食と昼食の用意をして部屋に籠ることに決めた。

朝食の目玉焼きを作り、昼用に米を炊きカレーを作る。
カレーなら…夜までいけるかも…。
そうすれば今日一日顔を合わせなくて済む。
後少しで出来上がる…という時になって、今度は葵本人が起きてきた…。
いつもは起こさなければ昼近くまで寝てるのに……。
｢……おはよう……｣
葵がキッチンの入口で俊輔へチラッと視線を向けて声を掛ける。
｢…おはよう…｣
背中を向けたまま俊輔は答えた。
ふと頭に昨夜の夢が思い出される…。
夢とは思えない程、鮮明な葵の潤んだ瞳が目に浮かぶ……
手にも…身体にも感触が残っている……。
俊輔は葵に背を向けながら料理に集中する。
｢……カレー…？｣
葵が俊輔の背中に話しかける。
｢…………そう｣
俊輔が素っ気なく答える。
葵がずっと後ろで立っているのが分かる。

───俺は……何をしてるんだ……。
葵を失いたくなくて、突き放して……
今は勝手に嫉妬して……
結局……葵に嫌な思いをさせてる……。

俊輔は軽くため息をつくと
｢朝飯は目玉焼きな｣
後ろにいる葵に笑顔を向けた。
｢──食い飽きたって言ったのに…｣
葵は軽く返す。
｢気に入らないなら自分で作れって言ってんだろ？パン焼けてるからそっち持ってけよ｣
葵も笑顔になって冷蔵庫からジャムとバターを出しテーブルへ運ぶ。
俊輔はお湯を沸かしコーヒーの準備をする。
カレーも出来上がり、2人で朝食を食べ始めた。
｢昼はカレーな｣
パンを食べながら俊輔が言う。
｢ん。俊、お前今日バイト？｣
｢いや…。休み明けすぐテストあるから、今日は家で勉強する｣
｢そっか……。俺もバイト3時から…｣
｢ああ。カレンダー見たよ…｣
｢……今日…バイト終わったら……すぐ帰ってくるから……｣
｢……ん。分かった……｣
それだけのどこかぎこちない会話に少お互いしほっとした…。