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身代わり
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葵は身体が痛くて目を覚ました。
昨夜俊輔の部屋の前で寝てしまったことに気付き身体を起こすと俊輔の布団が掛かっている。
葵は急いで俊輔の部屋のドアを開けた。
鍵はかかっていなかったが誰もいない。
急いで下へ行き俊輔の姿を探した。
しかし静まり返った家には気配すら感じられない。
机の上にはフレンチトーストが作られている。
葵はイスに座り机の上で頭を抱えこんだ。
昨日、俊輔は片山の家に行くと言っていた。
それを思っただけで、どうしていいか分からない程イラついた。
頭の中で片山の言葉が蘇る。
『俊輔を守れるのが自分だけだとでも思ってたか?』
葵をバカにするように笑っていた。
立ち上がり浴室へ向かうと服を脱ぎ水のシャワーを浴びた。
頭を冷やしたかった。
自分はただ嫉妬しているだけだと解っていたから…。
自然と涙が込み上げてくる。
繋いだ手の温かさに安心していたのは俊輔だけではなかった───…。
葵は何もする気になれず、髪も濡れたまま下着だけ履いた格好でソファーに横になっていた。
俊がいたら『ソファーが濡れるだろ!』って間違いなく怒ってるな…。
そう考えてふと笑う。
昨夜のドアの向こうの俊輔を思い出す…。
俺が傷付けた結果だ……。
バカみたいなヤキモチで俊を傷付けた…。
その時『ピンポーン』と、玄関のインターフォンが鳴り響いた。
「俊!?」
葵が飛び起き玄関へ向かった。
「おかえり!」
そう言ってドアを開けると
「……ただいま…」
困って笑った藤井が立っている。
「──あ……すみません、俺…てっきり兄貴かと……」
葵は恥ずかしさで顔を真っ赤にしている。
「いきなり来てごめんね。病院の帰りなんだけど…昨日のお礼を、と思って」
手に有名な洋菓子店のロゴが入った大きな箱を持っている。
「…──!すみません、わざわざ…そんなお礼されることなんてしてないのに…」
恐縮する葵に
「こっちこそ…何か……申し訳なかったね。タイミング悪くて………。シャワー浴びてたかな?」
困ったように笑う藤井を見て自分がパンツ一丁だと思い出した。
「すみません!裸なのすっかり忘れてました…」
再び顔を赤くする葵にクスッと笑い
「これ、渡しに来ただけだから。昨日は本当にありがとう」
そう言うと「また明日」と背を向ける。
「藤井さん!」
葵が背中を呼び止めた。
「ん?」
藤井が優しい笑顔で振り向く。
「あ──…もし……時間あったら…寄ってきませんか…?」
葵が俯いて小声で引き止めた。
「………じゃあ、お言葉に甘えようかな」
藤井が笑顔を向けた。
葵が藤井の前にコーヒーを置く。
Tシャツとデニムに急いで着替えた。
「腰…大丈夫ですか?」
葵の言葉に
「薬効いてるから大丈夫だよ。葵くんにカッコ悪いとこ見られちゃったね」
苦笑いする。
「葵くんはリビングでゲームしてるの?」
藤井がテレビの横に置かれたゲーム機に視線を向けた。
「え?あ…これはリビング用で…。俺専用のは俺の部屋に…。兄貴が一緒に出来るようにって買ったんだけど、あいつの部屋テレビとかないからここに…」
「仲が良いんだね」
藤井が「僕は一人っ子だから羨ましいよ」
と微笑んだ。
「多分──…仲…良いんだと思います…」
葵が俯いて無理やり笑った。
「…──何かあった?………いつもより元気がないね」
藤井の優しい声に涙が込み上げる。
とにかく1人でいたくなくて藤井を呼び止めた。
いつも優しい藤井に縋りたかった。
「……僕は…抱きしめた方がいいかな?」
しばらく黙ったまま俯いていた葵が藤井の言葉に頷いた。
藤井は立ち上がり、葵の前に行くと優しく抱きしめた。
葵が藤井の胸にしがみつき泣きだす。
泣いている間、藤井はずっと優しく葵の頭を撫でた。
しばらくすると泣き止み
「……すみません……。俺…藤井さんの服……汚しちゃって……」
胸に顔をつけたまま葵が鼻声で言って藤井を笑わせた。
「そんなの気にしなくていい。大丈夫だから。……そろそろ離すかい?それとも…まだこのまま?」
「……………──このままがいいです…」
藤井はフッと笑って
「分かった」
と答えた。
しばらくするとまた藤井が
「まだこのまま?」
と尋ねる。
葵は相変わらず藤井の胸から顔を離さず
「……イヤですか?…」
と、尋ね返した。
「……んー………嫌じゃない。だから困ってる…。僕は……少なからず葵くんに感心がある……」
藤井は小さくため息をついた。「このまま葵くんを抱いてたら、自分を抑えられなくなるかもしれない…」
葵が一瞬身体を強ばらせたが、すぐ抱きしめる腕に力を加えた。
「……──それは…──僕を誘ってる?」
藤井が笑った。
「………そうかもしれません……」
葵が答える。
「……葵くん……僕の言葉を理解した上で言ってるの?」
藤井の声がいつもと少し変わった気がした。
───大人の男性の声…。
葵の心臓がトクトクと早くなる…。
「…──理解してます………」
「僕は…──お兄さんの代わりかい?」
藤井の言葉に思わず顔を上げた。
「………僕はそれでも構わないけど…」
藤井はそう言うと葵の顎にそっと指を当て優しく口付けた。
触れるだけのキス…。
昨夜俊輔の部屋の前で寝てしまったことに気付き身体を起こすと俊輔の布団が掛かっている。
葵は急いで俊輔の部屋のドアを開けた。
鍵はかかっていなかったが誰もいない。
急いで下へ行き俊輔の姿を探した。
しかし静まり返った家には気配すら感じられない。
机の上にはフレンチトーストが作られている。
葵はイスに座り机の上で頭を抱えこんだ。
昨日、俊輔は片山の家に行くと言っていた。
それを思っただけで、どうしていいか分からない程イラついた。
頭の中で片山の言葉が蘇る。
『俊輔を守れるのが自分だけだとでも思ってたか?』
葵をバカにするように笑っていた。
立ち上がり浴室へ向かうと服を脱ぎ水のシャワーを浴びた。
頭を冷やしたかった。
自分はただ嫉妬しているだけだと解っていたから…。
自然と涙が込み上げてくる。
繋いだ手の温かさに安心していたのは俊輔だけではなかった───…。
葵は何もする気になれず、髪も濡れたまま下着だけ履いた格好でソファーに横になっていた。
俊がいたら『ソファーが濡れるだろ!』って間違いなく怒ってるな…。
そう考えてふと笑う。
昨夜のドアの向こうの俊輔を思い出す…。
俺が傷付けた結果だ……。
バカみたいなヤキモチで俊を傷付けた…。
その時『ピンポーン』と、玄関のインターフォンが鳴り響いた。
「俊!?」
葵が飛び起き玄関へ向かった。
「おかえり!」
そう言ってドアを開けると
「……ただいま…」
困って笑った藤井が立っている。
「──あ……すみません、俺…てっきり兄貴かと……」
葵は恥ずかしさで顔を真っ赤にしている。
「いきなり来てごめんね。病院の帰りなんだけど…昨日のお礼を、と思って」
手に有名な洋菓子店のロゴが入った大きな箱を持っている。
「…──!すみません、わざわざ…そんなお礼されることなんてしてないのに…」
恐縮する葵に
「こっちこそ…何か……申し訳なかったね。タイミング悪くて………。シャワー浴びてたかな?」
困ったように笑う藤井を見て自分がパンツ一丁だと思い出した。
「すみません!裸なのすっかり忘れてました…」
再び顔を赤くする葵にクスッと笑い
「これ、渡しに来ただけだから。昨日は本当にありがとう」
そう言うと「また明日」と背を向ける。
「藤井さん!」
葵が背中を呼び止めた。
「ん?」
藤井が優しい笑顔で振り向く。
「あ──…もし……時間あったら…寄ってきませんか…?」
葵が俯いて小声で引き止めた。
「………じゃあ、お言葉に甘えようかな」
藤井が笑顔を向けた。
葵が藤井の前にコーヒーを置く。
Tシャツとデニムに急いで着替えた。
「腰…大丈夫ですか?」
葵の言葉に
「薬効いてるから大丈夫だよ。葵くんにカッコ悪いとこ見られちゃったね」
苦笑いする。
「葵くんはリビングでゲームしてるの?」
藤井がテレビの横に置かれたゲーム機に視線を向けた。
「え?あ…これはリビング用で…。俺専用のは俺の部屋に…。兄貴が一緒に出来るようにって買ったんだけど、あいつの部屋テレビとかないからここに…」
「仲が良いんだね」
藤井が「僕は一人っ子だから羨ましいよ」
と微笑んだ。
「多分──…仲…良いんだと思います…」
葵が俯いて無理やり笑った。
「…──何かあった?………いつもより元気がないね」
藤井の優しい声に涙が込み上げる。
とにかく1人でいたくなくて藤井を呼び止めた。
いつも優しい藤井に縋りたかった。
「……僕は…抱きしめた方がいいかな?」
しばらく黙ったまま俯いていた葵が藤井の言葉に頷いた。
藤井は立ち上がり、葵の前に行くと優しく抱きしめた。
葵が藤井の胸にしがみつき泣きだす。
泣いている間、藤井はずっと優しく葵の頭を撫でた。
しばらくすると泣き止み
「……すみません……。俺…藤井さんの服……汚しちゃって……」
胸に顔をつけたまま葵が鼻声で言って藤井を笑わせた。
「そんなの気にしなくていい。大丈夫だから。……そろそろ離すかい?それとも…まだこのまま?」
「……………──このままがいいです…」
藤井はフッと笑って
「分かった」
と答えた。
しばらくするとまた藤井が
「まだこのまま?」
と尋ねる。
葵は相変わらず藤井の胸から顔を離さず
「……イヤですか?…」
と、尋ね返した。
「……んー………嫌じゃない。だから困ってる…。僕は……少なからず葵くんに感心がある……」
藤井は小さくため息をついた。「このまま葵くんを抱いてたら、自分を抑えられなくなるかもしれない…」
葵が一瞬身体を強ばらせたが、すぐ抱きしめる腕に力を加えた。
「……──それは…──僕を誘ってる?」
藤井が笑った。
「………そうかもしれません……」
葵が答える。
「……葵くん……僕の言葉を理解した上で言ってるの?」
藤井の声がいつもと少し変わった気がした。
───大人の男性の声…。
葵の心臓がトクトクと早くなる…。
「…──理解してます………」
「僕は…──お兄さんの代わりかい?」
藤井の言葉に思わず顔を上げた。
「………僕はそれでも構わないけど…」
藤井はそう言うと葵の顎にそっと指を当て優しく口付けた。
触れるだけのキス…。
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