君の手の温もりが…

海花

文字の大きさ
上 下
39 / 160

黒い嫉妬

しおりを挟む
「コンビニ行ってたの?」
家に入ると葵が尋ねた。
「電話したけど出なかったから焦ったんだけど」
「…葵、遅かったから…暇だし散歩がてらな……」
ソファーの上で俊輔のスマホが転がっている。
「スマホくらい持ってけよ」
「ごめんごめん…」
俊輔が笑いながら謝る。
本当はシャワーを浴びてから1人で家にいるのが恐くなって、外に出ていた。
俊輔がふと
「さっきの人…莉央さん?……キレイな人だな。上司の友人て言ってたけど…」
そう言って葵を見る。
俊輔が見た時抱き合ってキスしていたように見えた……。

俊輔の鼓動が少しづつ早くなっている…。

「藤井さんの彼女な」
俊輔も『藤井』という名前は聞いていた。
確かバイト先のマネージャーで、最近葵が時々ゲームをさせてもらいに行ってると話していた。
「…ふぅん…」
上司の彼女と…キスするか……?
さっき莉央が言った『噂のお兄さん』という言葉にも引っかかっていた。
「メシは?」
そう言いながら葵が何気にコンビニの袋に目をやる。「…お前…コーラなんて飲むの?」
びっくりして俊輔に目をやる。
「あ…これは、明日薫の家に持ってくやつ」
葵の顔が強ばった。

…また───片山薫………

「…――そいつんち行くの……?」
俊輔は冷蔵庫の前にいて葵の変化には気付いていない。
「今日参考書貰ったから、そのお礼」
言いながら冷蔵庫の中から葵の夕食を取り出し、レンジで温める。
……今日…貰った……って…
「……今日も行ったんだ…」
葵の中に黒い嫉妬が渦巻く。
「発作起こした時来てくれたから。お礼も言ってなかったし…」
振り向いて初めて葵の様子がおかしいのに気付いた。「…──葵…?」
俊輔の目に冷めたい目の葵が映る。
「……お前と…片山ってヤツ……。いったいなんなの……?」
「なんなのって……」
葵が黙って側まで行くと俊輔の手首を強く掴んだ。
「首のキスマークだって…そいつんちから帰ってからだろ……?」

──葵は怒りと嫉妬で自分を止められなくなっていく──

──俊輔の心臓が『ドクンッ』と激しく音を立てる───

「……何言って…」
俊輔が苦しくなる鼓動に気付かれないように目を逸らした。
「───いったい男相手になにやってんの?」
葵の冷たい言葉が俊輔に追い打ちをかけた。
夢の中の言葉が頭の中に蘇る。
俊輔の呼吸が一瞬で乱れ、葵が掴む手が震え出す。
身体の中に一気に溢れた恐怖に心まで飲まれそうになる。
葵がやっと俊輔への仕打ちに気付いた。
「──俊!……ごめん…俺……」
いつもの様に抱きしめようとする葵の手を、微かに残った自制心が振りほどいた。

…──部屋に──行かなくちゃ……。

俊輔が転がるように葵の手を逃れると、恐怖に支配される前に部屋へ急いだ。
苦しくて涙が溢れ出す。
葵に嫌われる事が怖かった。
これ以上情けない姿を見せたくなかった。

『お前…みっともないよ』

夢の中の葵の言葉が耳に張り付いて離れない。
自分の部屋に入り、鍵をかける。
出しっぱなしの薬を口に入れ飲み込んだ。
その途端……部屋の中が水で溢れていることに気付いた─────…。
──!?──死んでしまう………!!
俊輔は部屋を満たす黒い水に溺れないようにうずくまった。

葵は呆然と立ち尽くした…。
俊輔は明らかに発作を起こし掛けていた。
いつも自分が抱きしめ安心させると酷い発作にならずに済む…。
お互いそれを解っていた。
俊輔がその手を振りほどいたことなんて、今まで一度だって無かった……。
葵には今起こったことが理解出来ていなかった。
しかも、今発作に繋がる要因は無かったのに…。
確かにプールで溺れて以来、酷くなっているのは葵にも分かっていた。
しかし今、目の前に水も無ければ、それを連想させる物も無かった……。
「…───俊!?」
葵が我に返り、俊輔の後を追いドアに掛かった鍵に気づく。
「俊!鍵開けろ!」
ドアの向こうから俊輔の酷い呼吸音が聞こえる。
完全に過呼吸を起こしている。
「俊!!」
葵がドアを叩く。
聞いているだけで苦しくなる様な呼吸音に心臓が締め付けられる。
「俊!!……俊!!……」
葵が何度も名前を叫びドアを叩いた。
「頼むから……鍵…開けてくれよ……」
葵の目からも涙が溢れ出した…。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

俺の事嫌ってたよね?元メンバーよ、何で唇を奪うのさ!?〜嵌められたアイドルは時をやり直しマネージャーとして溺愛される〜

ゆきぶた
BL
時をやり直したアイドルが、嫌われていた筈の弟やメンバーに溺愛される話。R15のエロなしアイドル×マネージャーのハーレム物。 ※タイトル変更中 ー  ー  ー  ー  ー  あらすじ 子役時代に一世を風靡した風間直(かざまなお)は現在、人気アイドルグループに所属していた。 しかし身に覚えのないスキャンダルで落ちぶれていた直は、ある日事故でマンションの11階から落ちてしまう。 そして何故かアイドルグループに所属する直前まで時間が戻った直は、あんな人生はもう嫌だと芸能界をやめる事にしたのだった。 月日が経ち大学生になった直は突然弟に拉致られ、弟の所属するアイドルグループ(直が元いたグループ)のマネージャーにされてしまう。 そしてやり直す前の世界で嫌われていた直は、弟だけでなくメンバーにも何故か溺愛されるのだった。 しかしマネージャーとして芸能界に戻って来てしまった直は、スキャンダル地獄に再び陥らないかという不安があった。 そんな中、直を嵌めた人間がメンバーの中にいるかもしれない事を知ってしまい───。 ー  ー  ー  ー  ー  直のお相手になるアイドルグループには クール、オレ様、ワンコ、根暗がいます。 ハーレムでイチャイチャ、チュッチュとほんのりとした謎を楽しんでもらえば良いと思ってます。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...