君の手の温もりが…

海花

文字の大きさ
上 下
3 / 160

俊輔と葵

しおりを挟む
パンが焼き上がるとやっと、葵がシャツに手を突っ込み腹を掻きながら入ってきてそのままダイニングの椅子に座った。
「今日も目玉焼き?もう飽きたんだけど……」
欠伸をしながら文句を言う葵に
「気に入らないなら自分で作ればいいだろ…。それよりちゃんと顔ぐらい洗ってこいよ」
パンを皿にのせ、渡しながら俊輔も文句を返した。
「いい。飯食ったらシャワー浴びるから」
葵はパンにジャムをこれでもかという程塗っている。
「お前…よくそんなん食えるな…」
———見ているだけで胸焼けしそう……。
葵は完全な甘党だが、俊輔は甘い物が苦手だ。
「バーカ。糖分取った方が頭が働くんだよ」
満足そうにパンに齧り付く葵を横目に、俊輔は肩を竦め自分のパンにバターを塗り食べ始めた。


葵は高校生活初めての夏休みをバイトに費やすことに決めていたらしく、休みになる少し前からバイトを始めていた。
お目当てはゲーミングPC。
中3で部活をやめてから、すっかりサッカーにも興味が無くなりゲームに夢中になっていた。
葵は少し長くなった前髪が、エアコンの風で目の前で揺れるのを、うっとおしそうに手でかき上げた。
すると、大きくて印象的な目が現れる。
真っ直ぐに伸びた鼻筋と、薄くて赤い唇。
好き不好きは別として、大概の者に『美しい顔立ち』だと思わせるだけの器量もある上に、どこか色気もあった。
しかし、葵本人にはそれもどうでもいい事の一つに過ぎなかった。
「お前今日何時まで?」
俊輔が聞くと
「4時。なんか買ってくる?」
葵が口の端のジャムを指で拭きながら答える。
「晩飯何食べたい?」
 「んー…。オムレツかオムライス」
俊輔は冷蔵庫にある物を少し考えて
「じゃぁ、卵とひき肉買ってきて。あとトマト…だけでいいかな」
そう言うと嬉しそうに笑っている葵に気付く。
「…なんだよ……」
俊輔が目を細めて警戒すると
「ケーキ買っていい!?」
葵が目を輝かせている。
「そんなことだと思った…」
俊輔は軽いため息をつき
「500円までな」
「やった!」喜びながら食べ終えた皿をシンクに運んでいく。
───まったく……。
そう思いながらも、素直な性格が昔から変わらないな……と苦笑いしてしまう。
あの風呂での衝撃のあと、しばらくぎこちなくなった俊輔に、葵は変わらず素直で慕っていた。
そのお陰で俊輔もどうにか衝撃から立ち直り、今もずっと仲の良い兄弟でいられた。
「お前今日バイト?」
今度は葵がキッキンから声を掛ける。
「いや。今日課題やるつもり」
俊輔が答えてから最後のウィンナーを口に放り込む。
「なら帰ってきたら一緒にゲームやろう!」
葵が皿を洗いながら笑顔を向ける。
「…………課題終わったらな」
口の中の残りを飲み込み俊輔が答えると
「昼間のうちに終わらしとけよ」
葵は少し不満げに風呂場へ向かった。

俊輔が「ホント生意気…」と愚痴りながら皿を洗っているとスマホが着信を知らせた。
慌ててタオルで手を拭きスマホを手に取ると画面に『結衣』と表示されている。保育園から一緒の幼なじみだ。
「もしもし?」
『あ!俊輔?今日家行っていい?課題教えて欲しいんだけど』
電話の向こうから元気な声が聞こえる。
「別にいいよ。俺も今日課題やるつもりだったし」
『じゃぁ10時頃行くね!何か買ってくけど、欲しいものある?』
「別にないかな…。あ、昼どうする?どうせうちで食うんだろ?」
話してる内にシャワーを終えた葵が下着姿でリビングに入ってくる。
「じゃぁ10時に…」
俊輔が電話を切ると、葵が髪を拭きながら面白くなさそうに俊輔に視線を向けた。
「あいつ…また来んの?」
「課題が分からないんだってさ」
俊輔が肩を竦める。
どうも葵と結衣は相性が悪い…。特に葵は結衣への敵意を隠そうともしない。結衣も結衣でそんな葵をブラコンとからかうから余計もつれる…。
「あいつ……絶対俺がいない時狙って来るよな……。本当ムカつく……」
俊輔は軽くため息をついた。
葵はそう言うが……今日葵がバイトで本当に良かった。と…。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

俺の事嫌ってたよね?元メンバーよ、何で唇を奪うのさ!?〜嵌められたアイドルは時をやり直しマネージャーとして溺愛される〜

ゆきぶた
BL
時をやり直したアイドルが、嫌われていた筈の弟やメンバーに溺愛される話。R15のエロなしアイドル×マネージャーのハーレム物。 ※タイトル変更中 ー  ー  ー  ー  ー  あらすじ 子役時代に一世を風靡した風間直(かざまなお)は現在、人気アイドルグループに所属していた。 しかし身に覚えのないスキャンダルで落ちぶれていた直は、ある日事故でマンションの11階から落ちてしまう。 そして何故かアイドルグループに所属する直前まで時間が戻った直は、あんな人生はもう嫌だと芸能界をやめる事にしたのだった。 月日が経ち大学生になった直は突然弟に拉致られ、弟の所属するアイドルグループ(直が元いたグループ)のマネージャーにされてしまう。 そしてやり直す前の世界で嫌われていた直は、弟だけでなくメンバーにも何故か溺愛されるのだった。 しかしマネージャーとして芸能界に戻って来てしまった直は、スキャンダル地獄に再び陥らないかという不安があった。 そんな中、直を嵌めた人間がメンバーの中にいるかもしれない事を知ってしまい───。 ー  ー  ー  ー  ー  直のお相手になるアイドルグループには クール、オレ様、ワンコ、根暗がいます。 ハーレムでイチャイチャ、チュッチュとほんのりとした謎を楽しんでもらえば良いと思ってます。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...