鳥籠の花

海花

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 その声を最後に、プツリと小さな音を立て通話が切れた後も哲太は暫く動けずにいた。
 一方通行の、まるで映画のワンシーンを聞いているような感覚だったが、最後に微かに聞こえた声は、間違いなく和志の声だった。
 そして話していた内容は全て和志に向けられたモノなのだと哲太にも解る。
 若くして病気で亡くなった父親。そして、その後に起こった母親の交通事故。
 声の主はその全てが『和志のせい』だと言っていた。
 
「───そんな訳あるかよッ」
 
 怒りと共に吐き捨てられた言葉に
 
「おい!───今の電話……和志だったのか!?」
 
隣で息を飲むように黙っていた梓も口を開いた。
 
「和志──今どこにいる──!?」
 
 しかし質問に答えること無くそう言った哲太の手が震えているのを、梓の瞳が見つめた。


 

 一体どれ程、自分を誤魔化す為に見つめたか分からない天井を、和志の瞳が映し出した。
 
 初めてこの天井を見た日のことは、正直あまり覚えていない。覚えているのは、いつ終わるかも分からない恐怖、痛み、そして体の中を無理やり埋め尽くされる圧迫感だけだ。それでも閉じ続ける訳にはいかない瞼を開け、ただただ天井を見つめていた。
 しかし今は、感情の無い水晶体が、ただ天井を映し出しているに過ぎなかった。
 
 不意に、鋭い痛みが胸に走り、和志は僅かに顔を歪めた。
 
「こういう痛みは感じるようだね。人形としているのかと錯覚しそうだったよ」
 
 そう言って、嘲るように笑った筧を和志は意志の無い瞳が見つめた。
 耳につく獣のような息遣いも、身体の奥に這わされる指も、舌さえ今は何も感じない。快感も嫌悪感も、今の痛みすら一瞬で消え去り、血が滲んだ跡さえ無ければ、その事実さえ無かったことのようだった。
 それ程、筧の言葉は弱りきってきた和志の心を簡単に絡めとっていた。




 
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