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しおりを挟む「親として、子供の未来まで考えんでどうする?腹の子が男であれば、この家の全てを継げるんだぞ」
そして今回のことは、突然降って湧いた絶好の機会だった。
「これから“家族”を持とうという者が、こんな事で、全てを棒に振ってどうする……。その『小春』という娘も良い娘じゃないか。家柄は申し分無いとは言えんが……器量も良く、賢い。それに、健康状態も問題無い」
「…………なんで……そんなことまで……」
「イギリスでのお前の行動を、少し調べさせてもらった」
「──だからって……小春のことまで……」
思いもしなかった話の流れに、和臣は完全に戸惑っていた。
父のことだ、恋人がいること位は知られているかもしれないと思っていたが、妊娠した事まで知っているとは思いもしていなかった。
和臣本人すら3日前に聞かされた事実だったからだ。
「嫁になるかもしれん娘だ。気にして当たり前だろう」
そう言って笑った雅臣の笑顔に、和臣は喉の奥からなにか込み上げるように苦しくなった。
この騒ぎが無ければ、この笑顔が真実なのだと思っていただろう。父として、喜んでくれているのだと。
「お腹の子が……男じゃなかったら………?」
「男が産まれるまで待てばいい。お前たちはまだ若い……この先子供など、何人でも産めばいいだろう?お前たちの母親は脆く、2人しか産めなかったが……」
───子供など───
「…………それで……長男以外は、秀行のようにこの家の犠牲になれって……?」
「生まれ持っての、それが役目だ」
「…………狂ってる……」
まだ秀行の元に来るように間もなかった頃、露骨に嫌な顔をする雅臣と会いたくないばかりに、勝手口から隠れるように来ていた子供の頃の自分に感謝すると、真守は秀行の部屋のドアがある廊下のコンソールテーブルの陰に隠れた。
昔からその上に置かれている高級そうな大きな花瓶が、大人になった真守の身体も隠す手助けになった。
先程部屋を出された時、雅臣と和臣、そして秘書の近藤は残る口ぶりだった。
そして今も、微かにだが中から人の話し声がする。
恐らくまだ和臣達が残っているのだ。
真守は安堵にも似た溜息を吐くと、身体を縮めて床にしゃがみ込んだ。
秀行を独りにしたくなくてここまで来たが、顔を合わせ、なんと言葉を掛ければいいのか解らずにいた。
お互いもう子供では無い。秀行が逃げたいと言うなら、その手助けくらいは出来るはずだ。
秀行が望むなら、一緒に逃げても構わなかった。
───あの笑顔をもう一度向けてくれるなら、何をしても俺が守ってみせる。
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