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「お前さぁ、なんでいつも1人なの?」
それまで言葉すら交わすことの無かった梓に話し掛けられたのは、それから1週間以上経ってからのことだった。
中庭の隅で1人本を読んでた和志は、突然掛けられた声に、反射的に顔を上げた。
するとすぐ近くからかがみ込み“的場梓”が手にした本を覗き込んでいる。しかし聞き慣れない今の声が目の前にいる梓のものだと核心が持てず、和志は怪訝そうに眉をしかめた。
「なぁ!聞こえてんの?」
すると本を覗き込んでいた顔が不意に上げられ、長い前髪の間から覗く瞳が和志に向けられた。
印象より丸く子供らしい目をしている。
「…………別に……1人が好きだから」
無愛想に答えた声と、すぐに本に戻した視線とで「これ以上構うな」と拒絶したつもりだった。
しかしその態度がまた梓の興味を惹いたのか
「それ、なんの本?面白ぇの?」
それでも構わず目の前にしゃがみこむと、梓はまた本へ視線を向けた。
その行動が明らかにその場の空気を“読めない”のでは無く“読んだ上でワザと”やっているのだと解り、和志は鬱陶しそうに本を閉じた。
すると今度は不愉快なのを隠しもしない和志の顔を、梓は赤い前髪の間から真直ぐに見つめだした。
逸らされること無く向けられる眼差しが酷く不躾で不愉快に感じ、和志は見つめ返す視線に出来る限りの敵意を込めた。
普段決してそんな事はしないが、梓の態度が自分を値踏みしているような、どう出るかを楽しんでいるように思えたのだ。
どれ程黙って睨みつけていただろうか、それでも見つめ続ける梓が何処にも行こうとしないのが分かると、和志は当て付けのように大きな溜息を吐き立ち上がった。せっかくの昼休みをこんな事で潰したくない。
しかし立ち去ろうとした和志の腕を梓の手が掴んだ。
和志とそう変わらない体格の、細い腕からは想像もつかない程の力が、逃がさないと言っているようで和志の体がビクリと大きく震えた。
「……お前、ぎゃくたいされてんの?」
突然吐かれた言葉に、和志の顔が一瞬で強張り赤く染った。
「───されてないッ」
虚勢を張った声が僅かに震えているのが自分でも分かる。
「じゃぁなんで……お前の体、アザだらけなの?」
真直ぐに向けられた言葉に体が竦む。
自分に向けたれた眼差しが、無知からくる疑問でも、蔑み揶揄しているのでも無い。
純粋な『興味』なのだと解る。
しかしそれが余計和志の感情を逆撫でした。
「うるさいッ!アザなんて無いッ!」
「…………あったじゃん。胸にも腕にも」
「───黙れッ!嘘言うな!」
振りほどこうとする腕を、さっきよりまだ強い力が掴んだ。
「お前……なにビビってんの?」
その力とは裏腹の冷静な声に、和志は思い切り手を振りほどいた。
「───これ以上俺に構うな!」
思っていたよりずっと軽く解けた腕が、梓から離した事に気付かせたが、和志は逃げる様にその場を走り去った。
学校では自分を偽っていられた。何も知らず笑っている同級生と変わらないのだと、自分を騙せていられた。
夜が怖い事も、体に残る跡も、無知の中に埋もれていれば見なくて済んでいた。
それが梓の目には何もかも見透かされそうで怖くなった。
他の同級生とは違うどこか冷めた瞳が、世界は陽の当たる場所だけでは無いと知っているように思えてならなかったのだ。
それまで言葉すら交わすことの無かった梓に話し掛けられたのは、それから1週間以上経ってからのことだった。
中庭の隅で1人本を読んでた和志は、突然掛けられた声に、反射的に顔を上げた。
するとすぐ近くからかがみ込み“的場梓”が手にした本を覗き込んでいる。しかし聞き慣れない今の声が目の前にいる梓のものだと核心が持てず、和志は怪訝そうに眉をしかめた。
「なぁ!聞こえてんの?」
すると本を覗き込んでいた顔が不意に上げられ、長い前髪の間から覗く瞳が和志に向けられた。
印象より丸く子供らしい目をしている。
「…………別に……1人が好きだから」
無愛想に答えた声と、すぐに本に戻した視線とで「これ以上構うな」と拒絶したつもりだった。
しかしその態度がまた梓の興味を惹いたのか
「それ、なんの本?面白ぇの?」
それでも構わず目の前にしゃがみこむと、梓はまた本へ視線を向けた。
その行動が明らかにその場の空気を“読めない”のでは無く“読んだ上でワザと”やっているのだと解り、和志は鬱陶しそうに本を閉じた。
すると今度は不愉快なのを隠しもしない和志の顔を、梓は赤い前髪の間から真直ぐに見つめだした。
逸らされること無く向けられる眼差しが酷く不躾で不愉快に感じ、和志は見つめ返す視線に出来る限りの敵意を込めた。
普段決してそんな事はしないが、梓の態度が自分を値踏みしているような、どう出るかを楽しんでいるように思えたのだ。
どれ程黙って睨みつけていただろうか、それでも見つめ続ける梓が何処にも行こうとしないのが分かると、和志は当て付けのように大きな溜息を吐き立ち上がった。せっかくの昼休みをこんな事で潰したくない。
しかし立ち去ろうとした和志の腕を梓の手が掴んだ。
和志とそう変わらない体格の、細い腕からは想像もつかない程の力が、逃がさないと言っているようで和志の体がビクリと大きく震えた。
「……お前、ぎゃくたいされてんの?」
突然吐かれた言葉に、和志の顔が一瞬で強張り赤く染った。
「───されてないッ」
虚勢を張った声が僅かに震えているのが自分でも分かる。
「じゃぁなんで……お前の体、アザだらけなの?」
真直ぐに向けられた言葉に体が竦む。
自分に向けたれた眼差しが、無知からくる疑問でも、蔑み揶揄しているのでも無い。
純粋な『興味』なのだと解る。
しかしそれが余計和志の感情を逆撫でした。
「うるさいッ!アザなんて無いッ!」
「…………あったじゃん。胸にも腕にも」
「───黙れッ!嘘言うな!」
振りほどこうとする腕を、さっきよりまだ強い力が掴んだ。
「お前……なにビビってんの?」
その力とは裏腹の冷静な声に、和志は思い切り手を振りほどいた。
「───これ以上俺に構うな!」
思っていたよりずっと軽く解けた腕が、梓から離した事に気付かせたが、和志は逃げる様にその場を走り去った。
学校では自分を偽っていられた。何も知らず笑っている同級生と変わらないのだと、自分を騙せていられた。
夜が怖い事も、体に残る跡も、無知の中に埋もれていれば見なくて済んでいた。
それが梓の目には何もかも見透かされそうで怖くなった。
他の同級生とは違うどこか冷めた瞳が、世界は陽の当たる場所だけでは無いと知っているように思えてならなかったのだ。
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